お客様に聞く

Reliable Partnership Formed Around a New Wireless Power Transmission Module Technology by Chance Technological Advancement and Strengthened Collaboration from Anticipated Market Growth

松岡 建志 氏/Kenji Matsuoka
日立マクセル株式会社 理事
新規事業開発プロジェクト プロジェクトリーダー

電界結合方式という新しいワイヤレス給電の方式を知ったのは2010年。非常に優秀な技術であったため、
お客様の期待に応えるべく、商品化に踏み切りました。これまでもお客様本位の姿勢で、商品を世に送り出してきましたが、
今回、コラボレーションして開発を進めていくうちに、ムラタさんには相通じるものを感じました。
商品化というソリューションを提案される、頼もしいパートナーだと思っています。

ワイヤレス給電への取り組み、電界結合方式を採用した背景

部品を供給していただいて、長いお付き合いになりますが、お互いが協力して商品化するのはこれが初めてですね。ワイヤレス給電については、携帯電話iPhone4用として、充電カバーと充電ステーションの「エアボルテージ (AIR VOLTAGE) 」を2011年4月に発売。そのときは、ワイヤレス給電の標準化を行ったワイヤレスパワーコンソーシアム (WPC) の規格であるQi (チー) を採用しました。「電磁誘導方式」ですね。またその頃、タブレット端末のiPad2へのワイヤレス給電ニーズが拡大していると感じ、開発を急いでいました。

しかしQi規格では出力が足りずiPad2の充電ができません。そこへ、2010年に「電界結合方式」という新しい方式をムラタさんが開発したと知りました。ムラタさんとお話をさせていただく機会があって、聞いてみると非常に素性のいい製品。iPad2の充電に必要な出力が得られるほか、機器に組み込みやすく、給電エリアも広い、そして電波の干渉もなく、発熱も少ない。このワイヤレス電力伝送モジュールを採用するか、検討に入りました。

iPhoneの電磁誘導方式とiPadの電界結合方式、社内で2つの方式を採択することになるわけですが、お客様のことを考えると、方式の違いにこだわっている場合ではない。私たちとしては、いち早く商品化して、利便性の高いものを提供しようと決断。やると決めたら、全社一丸で取り組む、これがマクセルのいいところです。

開発に当たっては、商品にふさわしいデザインとするために、いくつかのハードルがありました。例えば、iPad2という商品の特性から、用途は縦置きだけではなく横置きも必要、細部のデザインにもこだわりたいので、モジュールの形状を何とかしてほしい。こうした要望をムラタさんとともにクリアしていく、そういう作業が続きました。

B to Bニーズの高まり、予想外の業種からの問い合わせ

商品化されたのが、「エアボルテージ for iPad2」で、2011年11月に発売しました。予想以上に反応は大きく、とくに目立ったのは法人のお客様からのニーズでした。

例えば、展示会場でディスプレイや説明用にiPadを常時使うとき、展示が終わってから翌日のために何台も充電するのは大変。そんなときに、ワイヤレス給電だと置くだけで展示中でも充電してくれる。他にも、店舗のウィンドウで、動画のプレゼンテーションを行うとき。営業マンが出先で活用し、移動の車中で充電するとき。帰社してからの充電も置くだけなら簡単ですから。

意外なところでは、回転寿司店様から、テーブルに置いたiPadで注文を受けるので、その充電に使いたいという問い合わせがありました。発売する前から、B to B (企業間取引) のニーズは、ある程度想定はしていて、営業活動も行っていましたが、それ以上に反応が大きい。予想外のところからも問い合わせが舞い込み、マーケットが拡大している手ごたえを感じています。

しかし幅広いお客様にお使いいただくとなると、水に強いとか、落としても壊れにくいなど、新しいさまざまなご要望にお応えするスペックが必要になります。次の開発に向けて、課題をいただいたように感じています。

今後の拡大が期待できるマーケット、大容量化、短時間化などが課題

ワイヤレス給電は普及が始まったばかりで、これから伸びていく市場だと思います。ゲーム機やパソコン、最終的には電気自動車まで広がると言われています。乾電池のような一次電池も電源として重要ですが、おそらく5,000円以上の比較的高価な機器には、ワイヤレス給電が受け入れられるのではないかと予想しています。

充電できるほうが基本的にはエコだし、ワイヤレスだと充電用の接続端子が傷まないというメリットがあります。ただ、発売はしたものの、改良の余地はまだまだあります。まず、大容量化。機器の使用時間を伸ばして、さらに展開できる機器を増やしたい。そして急速充電。充電に数時間もかかるのではなく、10数分でできるようになると、商品展開は大きく変わると思います。

今後は、Android端末への対応も検討していますし、ムラタさんの技術開発にも大きな期待を寄せています。

ワイヤレス給電

電力を無線で伝送する技術。スマートフォンやタブレット端末、デジタルカメラへの非接触充電、薄型テレビへの壁からの電力供給、電気自動車の充電、工場やビルの配線レス、さらには宇宙太陽光発電から地球への電力伝送まで、幅広い応用に期待が集まっています。
すでに、非接触充電機能を搭載したスマートフォンが発売され、自動車メーカーもワイヤレス給電の活用を検討。国内外の電機電子メーカーの取り組みも活発化してきました。

Qi (チー)

ワイヤレスパワーコンソーシアム (WPC) が策定したワイヤレス給電に関する規格。WPCは、Qiの規格策定、および普及を目的として設立された業界団体で、2008年に設立。
2010年4月には、Qiの相互運用に関する仕様を発表。現在、国内外の企業約100社が加盟。

「ことづくり」をコンセプトに求められる価値を作り込む

今回、ムラタさんからは、自社技術をベースに完成品まで視野に入れたソリューションをご提案いただきました。 モジュール供給だけにとどまらない、今までにない斬新な提案で、非常に興味深いものでした。お客様に商品を届けるメーカーとして、コラボレーションしていけたら面白いと感じました。 私たちもものづくりを進めていく上で、海外の生産工場や販売先との取り引きをしていますが、壁にぶつかることもあります。やはり、同じ国民性を持ち、心の伝わりやすい、日本の企業同士で進めるものづくりが商品の完成度を高めるのではないかと思っています。私たちは、商品を世に出すということは、単にその形を作ることだけだとは思っていません。とくに、マクセルのようにDVDやCDなどの記録メディアを販売していると、お客様にとって大切なのは「記録メディア」なのではなく、「録画される映像」や「録音される音」だとわかります。だから、どうやってその映像や音を、半永久的に残せるようにするかが重要で、それを実現するのが技術なんですね。

例えば、マクセルの乾電池は使用推奨期限を5年としています。実はこれ、実際に5年前の乾電池を測って出した実測値なんです。長期保存後に使用できるのが、乾電池本来の性能だし、お客様はそこに価値を求めているんですね。

私たちマクセルは「ことづくり」のメーカーだと考えています。お客様が求める価値を商品に反映させる、使用されるシーンに合わせて機能を充実させる、どれだけ満足していただけるかがポイントです。

技術にかける夢、商品への思い、お互いのDNAは同じ

今回は、商品開発の段階からコラボレーションをさせていただいて、ムラタさんの持つ技術力、熱意、製品にかける思いなど、その真摯な態度に共感しました。私たちも「安心と信頼のブランド」を掲げ、商品の耐久性やお客様指向にこだわりを持っています。しかも、その内容を決めたら、何年経ってもスペックは守り抜くという精神で挑んでいます。同じDNAをムラタさんにも感じました。

一般のお客様に対する商品を作り、販売するマクセルと、モジュール技術にたけたムラタさんと、ターゲットは違うけれど相通じるものがあります。今回、協力して一つの商品を作り上げ、パートナーとして連携させていただきました。今後とも一緒にやっていきたいと思わせる企業でした。次はどんな商品で連携できるのか、とても楽しみにしています。

エアボルテージ for iPad2

日立マクセル様が発売されたタブレット端末iPad2専用のワイヤレス充電器。ムラタのワイヤレス電力伝送モジュールを採用し、電界結合方式による給電を実現した初めての商品となっています。日立マクセル様は、すでに電磁誘導方式の規格であるQi (チー) を採用したiPhone4用充電カバーと充電ステーション「エアボルテージ」を発売中で、同商品を皮切りに、国内ではワイヤレス充電器のニーズが高まりを見せています。

そうした中で、新たに登場したiPad2へのニーズが拡大し、特に業務用途でのワイヤレス充電への期待が高まりました。しかし、iPad2に必要な充電電力は10Wで、iPhone4用の5Wより高いため、Qiによるワイヤレス充電は実現しませんでした。そこで、「エアボルテージ for iPad2」では、ムラタとの提携により、送電電力の大きい電界結合方式を採用し、本体を充電ケーブルに接続することなく、専用のカバーに装着してスタンドに置くだけのワイヤレス給電を実現しました。

日立マクセル様は、この商品の発売によって、日本経済新聞社主催の2011年日経優秀製品・サービス賞 (第30回) で、「2011年日経優秀製品・サービス賞 優秀賞 日経産業新聞賞」を受賞されています。

Wireless recharger for iPad2 "AIR VOLTAGE for iPad2"

(左) iPad2専用のワイヤレス充電器「エアボルテージ for iPad2」/ (右) 2011年日経優秀製品・サービス賞 優秀賞 日経産業新聞賞

  • ※iPad/iPhoneは米国およびその他で登録されているApple Inc.の商標です。
  • ※「Qi (チー)」はWireless Power Consortiumの登録商標です。
  • ※Androidは、Google Inc.の商標または登録商標です。