研究者の横顔

太陽電池の開発研究で、新しい素材に着目オフィスや家庭でのエネルギーハーベスティングを研究

石河 泰明 氏/Yasuaki Ishikawa
国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 博士 (工学) ・准教授

1997年3月同志社大学工学部電子工学科卒、2003年3月奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科博士後期課程修了。
2003年3月 博士 (工学) (奈良先端科学技術大学院大学) 。
2003年4月Universitat Stuttgart, Institut fur Physikalische Elektronik, Post Doctor、2005年2月University of Toledo, Department of Physics and Astronomy, Post Doctor、2006年10月シャープ株式会社入社、2010年4月奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科准教授。

太陽の光、室内での照明、その明るさを電気に変える研究を進めているのが奈良先端科学技術大学院大学の石河泰明准教授。
太陽電池の開発に従事し、バイオ材料を使った色素増感という新しい素材に着目。ウェアラブル太陽電池や室内でのエネルギーハーベスティングでの展開を模索するその取り組みは、バイオエレクトロニクスをさらに進化させるものとして期待されている。

「色素増感太陽電池」結晶、非結晶とも違う新たな素材

「光を電気に変える」という研究から、特に太陽電池の開発に没頭している。「高校生のときに科学雑誌で太陽のエネルギーの大きさを知った。その研究を進めれば、人類の進歩に貢献できるのではないか、と大胆なことを考えた」と石河准教授はいう。そのときに受けた衝撃を抱き続け、大学から大学院へ進み、博士号を取り、ドイツおよびアメリカへ留学。帰国後は太陽電池で名高い企業での勤務を経て、大学院大学で准教授を務め、やりたかった太陽電池の開発に携わっている。

現在の研究テーマは「エネルギーハーベスティング」。人々の身の回りに存在する機器へのエネルギーを太陽電池で供給しようというもの。特に屋外に設置されたものではなく、室内の照明で効率よく発電できる太陽電池。例えば、百貨店の店内の照度 (500~1,000ルクス) のエネルギー (5~10W/m2) で、効率よく発電するためにはどのような素材を使い、どのような工法で太陽電池を作ればよいのかを研究し、実際に太陽電池の試作も手がけている

ここ1年ばかり、注目しているのは「色素増感太陽電池」。従来からの結晶シリコン太陽電池とも非結晶 (アモルファス) 太陽電池とも違う新たな素材を利用した太陽電池で、柔軟性が高いことから衣服に取り付けてウェアラブルとしての活用なども期待されている。石河准教授は、この材料を太陽電池に利用することに関して、「低消費エネルギープロセスによる革新的エネルギー変換素子」の研究課題で、村田学術振興財団より研究助成を得ている。

「生体超分子」を使った、バイオエレクトロニクスへの期待

太陽電池の素材では、結晶シリコンがエネルギー変換効率もよく、屋外に置くタイプでは最も普及している。最近はアモルファスシリコンも活用されているが、結晶シリコンに比べると効率がよくない。各種太陽電池の感度スペクトルを見ると、結晶シリコンは太陽光スペクトルに近く、アモルファスシリコンは一般的な蛍光灯や白色LEDに近い。つまり、室内での発電にはアモルファスシリコンが適している。対して、色素増感は結晶シリコンとアモルファスシリコンの中間の特性を持ち、屋外でも屋内でも効率よく発電ができる。ウェアラブルとして、屋内外での活用が期待されている理由だ。

「蓄電しようとすると、一定以上の電圧が必要。色素増感は、低い照度でも電圧が出せるので、蓄電もしやすい。さらに、低温で生産できる点にも特徴がある」と石河准教授。色素増感太陽電池の素材には、カーボンナノチューブと生体超分子というバイオ材料を用いる。生体超分子の中でも、球殻構造のたんぱく質を用い、それに特異な性質を持たせてチタンを吸着させる。燃焼するとチタンが酸化チタンになると同時に、生体超分子が焼失する。構造が球殻状で、中が空洞なので多孔性となる。こうしてできた素材に色素を吸着させ、電解液を注入し、ラミネート加工する。

ポイントは、結晶シリコンの生成のように1,000℃もの高温を必要としないことで、現在100℃以下の低温で形成することを目指して研究している。低温形成が可能ということは、大規模な生産設備が不要で、生産コストが下がるということだ。石河准教授の研究の目的は、製造過程のエネルギーを下げることにもある。低温作製プロセスによる太陽電池の開発で、省エネでの貢献も目指している。

太陽電池を使って個々に電力を供給、エネルギーバーベスティングの未来

色素増感太陽電池の用途は幅広い。衣服への装着により、屋内外を問わずどこでも発電し、携帯電話やポータブルオーディオへの充電を行う。病院では、患者に取り付けて状態を常に通信で送るスマートパッチと呼ばれるチップにも応用できる。形状がフレキシブルで、圧力などにも強いため、応用分野の拡大が期待される。石河准教授は「室内やウェアラブルでの展開は、色素増感が有望だと思う。今後は太陽電池としてのエネルギー変換効率を上げること。また色素や電解液の劣化をどのように抑えるかが課題」と展望を語る。

石河准教授が、今注目している研究は色素増感だが、同時にナノクリスタルシリコンといわれる非晶質シリコン系太陽電池の高効率化の研究も進める。また、安価なプラスチックの上に低温で作製できる省エネ型の太陽電池も研究テーマの一つ。「例えば、素材をプラスチックに挟んでオーブンレンジで焼くと太陽電池になるとか、スプレーを吹き付けると太陽電池ができるとか、手軽に簡単に太陽電池ができたら、もっと利用してもらえますね。これからは材料も作り方も環境に負荷がかからない方法が期待されています。今の子どもたちが大きくなるときまで、今の環境を破壊せずにおきたい。そんな将来に、この仕事を通じて少しでも貢献できたらと考えています」。

太陽のエネルギーに魅せられて飛び込んだ太陽電池の研究。ムラタもエネルギー事業拡大の中で、その技術には注目している。石河准教授は、これからも新しい展開を見せてくれるに違いない。

低温作製プロセスによる太陽電池開発

アモルファスシリコン太陽電池も色素増感太陽電池も低温による生産ができるのが特長。色素増感太陽電池は、生体超分子というバイオ材料を使い、それに付着したチタンを酸化させた後、色素を吸着させ電解液を注入してラミネート加工する。

低温作製プロセスによる太陽電池開発

各種太陽電池の感度スペクトルと光源スペクトルの関係

太陽電池の感度スペクトルと光源スペクトルの関係。結晶シリコン太陽電池は、太陽光以上の波長部分を包含し、アモルファスシリコン太陽電池は、蛍光灯や白色LEDの波長を包含する。石河准教授が研究する色素増感太陽電池 (一般的なBlack-Dyeの場合) は、その中間に位置する。

Correlations between spectral sensitivity and light source spectrum of various solar cells

Dye-sensitized solar cell (on glass)

石河准教授が製作している色素増感太陽電池のセル。形成時に着色ができるため、さまざまな色への加工が可能。一般的には光を吸収しやすい黒だが、赤や青の太陽電池も不可能ではない

Dye-sensitized solar cell (on glass)