論文紹介

LFC®基板を用いた車載用高精度回路基板の開発

福田 順三、大岩 誠五、深谷 昌志、荒木 英明

原論文: 低温焼成セラミックスによる車載用高精度回路基板の開発 セラミックス47 (2012) pp550-551

参考文献

  1. S.Nishigaki, S.Yano, J.Fukuta, M.Fukaya T.Fuwa, ISHM (1985) 225-234
  2. S.Nishigaki, J.Fukuta, S.Yano, H.Kawabe, K.Noda, M.Fukaya, ISHM (1986) 429-449
  3. M.Fukaya, T.Matsuo, S.Nishigaki, C.Higuchi, ISHM (1997)
  4. M.Fukaya, C.Higuchi, IMAPS (2000) 636-641

自動車における電子制御は1980年代に広く普及し始めた。長期間の信頼性が求められるために、部品を実装する基板にはセラミックス材料、特にアルミナ基板をベースとしてAg系の導体材料とRuO2系の抵抗材料を組み合わせたHIC®基板が採用された。

やがて制御の高度化による回路規模の増大に伴って基板が大型化したため、多層基板の必要性が高まり、Ag系およびRuO2系材料を使用するLTCC基板である、当社のLFC®基板に注目が集まることになった。

LFC®基板は、HIC®基板で実績のある導体や抵抗と同じ材料系、同時焼成による高い絶縁信頼性、さらにLTCC基板特有の無収縮焼成による高寸法精度の実現により、1994年に車載市場に投入され、現在では欧米の自動車電装メーカーを中心に広く採用されている。

LTCC基板とは

LTCC (Low Temperature Cofireable Ceramics) は、800~1,000℃の比較的低温で導体と多層同時焼成が可能なセラミックスのことで、低温焼成セラミックスとも呼ばれ、一般的にガラスとフィラーの混合材料が用いられる。

主な特徴として、ガラスの流動性を生かした無収縮焼成により高寸法精度・高平坦性が得られることと、Ag、Cu、Au等の導電率が低く融点も比較的低い導体材料の使用が可能であることが挙げられる。

多くのLTCC基板が開発されたが、その中でも本稿で紹介するのは、当社独自開発のLFC®基板およびその車載への応用例である。

無収縮焼成とは

通常、セラミックスは焼成時に縦横厚さの3方向に収縮する。各方向約20%の収縮が起こるが、積層体の密度ばらつき、導体との収縮タイミングの不一致、炉内温度ばらつき、焼成物と支持体との摩擦等に起因して、寸法精度の悪化や反りが発生する可能性がある。

半導体等を実装する工程では、セラミックス基板の寸法精度や平坦性が重要で、解決策として無収縮焼成技術が開発された。

無収縮焼成は、焼成時に被焼結物の表裏に拘束力を加えて、平面方向には収縮させず厚さ方向にのみ収縮させる方法で、拘束層として、LTCCの焼成温度では焼結しないアルミナ等が用いられる。これはICや水晶素子等のパッケージとして用いられるアルミナ系のHTCC (High Temperature Cofireable Ceramics、高温焼成セラミックス) では不可能な技術である。

圧力を加えながら焼成する加圧法 (本稿のLFC®基板) や加圧しない無加圧法や、さらに外部拘束層を用いない無加圧自己無収縮法が考案されており、それぞれ特徴を有しているが、加圧法は特に平坦性に優れている。図1に加圧法と無加圧法により作成したLFC®試験基板の平坦性の比較と、図2に加圧法の概念図を示す。

図1: 加圧法と無加圧法の平坦性の比較

図1: 加圧法と無加圧法の平坦性の比較

図2: 加圧無収縮焼成

図2: 加圧無収縮焼成

LFC®基板の開発について

故西垣進博士を中心に、Pb、Cd、Crという有害物質を含まないLTCC基板として、LFC®基板を開発した。

LFC®基板は、CaO-Al2O3-SiO2-B2O3系ガラスとAl2O3フィラーよりなるセラミックスで、結晶相としてアノーサイトを析出させることで強度や化学的安定性を得るという特徴を有し、1985年と1986年にISHM (注)で発表した際には、Best Paper賞を受賞するなど高い評価を受けた (1) (2)

Ag導体との同時焼成を可能とするため、Ag粒径の厳密な管理等により、収縮タイミングのマッチングや密着強度および良好な印刷性を確保している。また、表面にRuO2系抵抗体も形成可能であるが、車載用として信頼性を高めるため、特に基板との熱膨張差に着目して材料開発を行い、-40℃~+150℃の温度サイクル試験で3,000サイクル後でも±1%以下の変動に抑制している (3) (4)

Photo 1 Example of L/S=125µm/125µm Internal Layer Ag Conductors and Printed Resistors

写真1: L/S=125µm/125µm内層Ag導体と印刷抵抗の例

Photo 2 Example of Plating Surface and Au Wire Bonding

写真2: めっき表面とAuワイヤボンディング例

Pbを含まないために酸・アルカリ処理に強く、無電解めっきが容易で、耐はんだおよびベアチップのワイヤボンディング対応としてAg導体上へのNi/Auめっき、さらに耐熱性を要する場合にはNi/Pd/Auめっきが可能で、従来の高価なAuやAg/Pd厚膜導体を使わず、環境に優しく、安価な基板が実現できる。

  • 高寸法精度: ±0.05%
  • 高平坦性: 5µm/4㎜角
  • 大型パネル可能: 8インチ角
  • めっき適用: Ni/Au、Ni/Pd/Au (ワイヤボンディング可能)
  • 表層印刷抵抗: 精度±1% (トリミング後) TCR 0±100ppm/℃
  • 環境対策: Pb、Cd、Crフリー

車載用途への展開

LFC®基板は1986年に携帯電話用VCO (Voltage Controlled Oscillator) 基板として初めて世に出たが、前述のISHMの発表を機に、欧州自動車電装メーカーにABS (Anti-lock Braking System) 用の車載ECU (Electronic Control Unit) 基板、すなわち電子制御用の基板として採用され、世界中の多くの自動車メーカーに標準部品として搭載されることになり、1994年以来すでに2億個以上生産された実績を持つ。近年はエンジンマネジメント、トランスミッションコントロール、パワーステアリング等の各種車載ECU基板として適用が広がっており、トランスミッションコントロールの中には、ドイツの高級車メーカーの7速自動変速機の制御用として採用され、2003年の発売以来500万台に到達したものもある。これらはエンジンルーム内で高温や振動にさらされる箇所に搭載されるものであり、セラミックス基板、特にLFC®基板が採用された所以である。

図3に車載用LFC®基板の概念図 (断面) を示した。本例は、片面に部品搭載、裏面にレーザートリミングにより抵抗値調整された印刷抵抗を配し、搭載部品の放熱はサーマルビアにて裏面へ発散する構造である。こうした基板はサイズが約50mm角と大きく実装部品やワイヤボンディングの点数も多いため、基板の寸法精度や平坦性が実装時に重要となり、加圧無収縮焼成の特徴が最もよく生かされる。また、従来のHIC®基板と異なり、裏面に印刷抵抗を配置することで裏面の有効活用・小型化にも貢献している。

Photo 3 Example of Components Mounted on Automotive ECU Substrate

写真3: 車載ECU基板の実装例

Photo 4 ABS Module

写真4: ABSモジュール

Photo 5 Transmission Control Module

写真5: トランスミッションコントロールモジュール

また、写真3に実装例として、LFC®基板上に、導電接着剤でベアチップICやコンデンサ等の部品を搭載し、AuワイヤボンディングにてICとの接続を行い、Alワイヤボンディングで外部入出力端子と接続する構造を示す。

写真4は、実際のABSモジュールであり、写真5はトランスミッションコントロール用のモジュールである。

図3: 車載ECU基板としてのLFC®基板構造

図3: 車載ECU基板としてのLFC®基板構造

おわりに

今後、車体の軽量化や高度な通信制御による省燃費や快適性の要求に対し、制御用モジュールの高密度化・高信頼化はますます進むものと思われる。

LFC®基板は、これらの種々の要求に応えられる実装基板であるが、一方で大電流への対応を図ることと耐熱性の向上が見られるプリント基板との競争におけるコストダウンが重要な課題となる。

(注) ISHM: 国際ハイブリッドマイクロエレクトロニクス協会。1967年日本本部が設立された。1998年にプリント回路学会と合併し、現在のエレクトロニクス実装学会 (JIEP) が発足した。