Qi規格に準拠したワイヤレス充電器のノイズ対策手法

2011年にに準拠したスマートフォンが発売されて以降、ワイヤレス給電に対応した製品が増えてきています。ワイヤレス給電には「簡単に充電できる」「防水・防塵設計に有利」といったメリットがある一方で、「直流を交流に変換する際にスイッチングノイズが発生する」「送電側・受電側のコイル間が離れているので磁束が漏れる」といったノイズ問題の発生が懸念されます。

ここでは、Qi規格に準拠したワイヤレス充電器 (以下、充電器) のノイズ対策についてご紹介します。

ワイヤレス給電とは

ワイヤレス給電とは、その名の通りワイヤレスで電力を伝送する技術です。例えばQi規格で利用される電磁誘導方式は、これまでの電源ケーブルをスマートフォンに差し込む充電方式と異なり、「送電側 (=充電器) のコイルに交流電流を流すことで磁束が発生し、その磁束が受電側 (=スマートフォン) のコイルに結合することで誘導電流が流れる」という電磁誘導の原理を用いて充電を行います (図1) 。

このため、充電器では直流を交流に変換するためのインバーターや、磁束を発生させるためのコイルが新たに必要となります。また、スマートフォンでは磁束を受け取るためのコイルや、交流を直流に変換するための整流回路が必要となります。

図1: 電磁誘導方式のワイヤレス給電

図1: 電磁誘導方式のワイヤレス給電

ワイヤレス給電のノイズ問題

ワイヤレス給電においてどのようなノイズ問題が発生するかを調査した結果、放射エミッションの増大と、無線通信の受信感度抑圧が発生することがわかりました。

(1) 放射エミッションの増大

放射エミッションとは、電子機器から放射される電磁波の大きさのことです。放射エミッションが大きいと他の電子機器の誤動作を引き起こす可能性があるため、各国のEMC規制で放射エミッションの限度値が決められています。この限度値を超えると、その国で製品を発売することができません。

充電器に何もノイズ対策を施さないと、30~100MHzの周波数帯において大きな放射エミッションが観測される場合があります。例として、30~1000MHzの放射エミッションの測定結果を図2に青線で示します。この充電器では、60MHz付近での限度値を超える放射エミッションが観測されました。よって、このままでは発売することができないため、ノイズ対策が必要となります。

図2: 放射エミッション (垂直偏波)
図2: 放射エミッション (垂直偏波)

(2) 無線通信の受信感度抑圧

受信感度とは、スマートフォンなどの無線通信機器が受信することのできる最小の電力のことです。受信感度抑圧が発生する (=受信感度が劣化する) と、微弱な信号を受信できなくなり、通信ができなくなります。

例えば、日本国内ではマルチメディア放送 (200MHz帯) 、TV放送 (400~700MHz帯) 、音声・データ通信 (700~900MHz帯、1800~2100MHz帯) などさまざまな無線通信周波数帯を利用しています。これらと同じ周波数のノイズがスマートフォンのアンテナに結合すると、微弱な信号はノイズに埋もれてしまい、受信感度抑圧が発生します。

図3: 受信感度 (900MHz帯)
図3: 受信感度 (900MHz帯)

充電器に何もノイズ対策を施さないと、マルチメディア放送や、TV放送、700~900MHz帯の音声・データ通信で受信感度抑圧が発生する場合があります。例として、900MHz帯の音声・データ通信の受信感度の測定結果を図3に青線で示します。この充電器では、925~960MHzの全周波数にわたって、最大で14dBもの受信感度抑圧が発生しました。よって、充電中に通信や着信ができなくなる可能性があるため、ノイズ対策が必要となります。


ノイズ干渉メカニズム

ワイヤレス給電におけるノイズ源やノイズの伝播ルートなどを調査した結果、スマートフォンから発生するノイズより、充電器から発生するノイズが支配的であることがわかりました。そして、ワイヤレス給電のノイズ干渉メカニズムを図4のように推定しました。

ノイズ源は充電器のインバーターです。直流電流を交流電流に変換するインバーターのスイッチング周波数は100kHz程度ですが、この高調波成分が数百MHzまで存在していて、無線通信の受信感度抑圧や放射エミッションの増大などのノイズ問題を引き起こします。

図4: ワイヤレス給電のノイズ干渉メカニズム
図4: ワイヤレス給電のノイズ干渉メカニズム

放射エミッションとして観測されるノイズは、主に充電器の電源ケーブルから放射します。また、無線通信の受信感度に影響を与えるノイズは、充電器のコイルからの放射が支配的ですが、充電器の回路基板から放射する場合もあります。これらから放射されたノイズがスマートフォンのアンテナに結合することにより、受信感度抑圧が発生します。ノイズの種類としては、の両方が存在しています。このため、ノーマルモードノイズ、コモンモードノイズ両方の対策が必要となります。


ノイズ対策手法

充電器のノイズ対策を図5に示します。コモンモードチョークコイル (以下)やコンデンサによる対策が有効です。

放射エミッションの対策としては、CMCC「DLW5BTM142SQ2」を電源ケーブルの根元に実装します。このノイズ対策により、図2の赤線のように、放射エミッションを最大で21dB低減し、CISPR22 classBの限度値以下に抑制できることがわかりました。

図5: 充電器のノイズ対策
図5: 充電器のノイズ対策

無線通信の受信感度抑圧の対策には、CMCC「DLW5BTM251SQ2」とアクロス・ザ・ライン・コンデンサ (以下Xコン) として低ESL (等価直列インダクタンス) タイプの「LLL185R71H222MA01」をインバーターの直後に実装することが有効です。このとき、インバーターとCMCCの距離が離れてしまうと、回路基板からノイズが放射する場合があります。充電器のレイアウト上、どうしてもインバーターとCMCCの距離が離れてしまう場合は、追加でインバーターの直後にライン・バイパス・コンデンサ (以下Yコン) として「LLL185R71H222MA01」を実装することで解決できます。これらのノイズ対策により、図3の赤線のように、音声・データ通信の受信感度を最大で13dB改善し、充電なしと同等の受信感度を実現できることがわかりました。


用語解説

Qi規格: Wireless Power Consortiumが策定した電磁誘導方式のワイヤレス給電の規格で、世界中で対応製品が発売されている。
CISPR22 classB: CISPR22は各国の情報技術装置におけるEMC規制の基となる国際規格で、Class Bは住宅で使用される機器に対する限度値。
ノーマルモードノイズ: 信号ライン間や電源ライン間に発生するノイズで、ノイズ電流の方向はそれぞれ逆向きになる。アクロス・ザ・ライン・コンデンサ (Xコン) などのノイズ対策が必要。
コモンモードノイズ: 信号ラインや電源ラインとGND間に発生するノイズで、信号ライン間や電源ライン間ではノイズ電流の方向は同じ向きになる。コモンモードチョークコイル (CMCC) やライン・バイパス・コンデンサ (Yコン) などのノイズ対策が必要。
CMCC: ノーマルモードの信号は通し、コモンモードのノイズのみ遮断するコイル。

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