FRONT Line

ムラタのEMI事業の新しいマーケットへの挑戦、大電流対応と高信頼性、不可能ではないミッションソリューション提案で、お客様とともに製品を作り込む

井上 亨/Toru Inoue
常務執行役員 コンポーネント事業本部 本部長

1980年入社。経理部へ配属。経理業務に従事しつつIE部門との協業を進める。
1990年から8年半、英国、米国の工場ならびに米国本社に勤務。
1998年帰国後は、経理部、八日市の製造部、大垣村田、企画部と渡り歩き、2009年に執行役員に就任。
2013年7月、コンポーネント事業本部本部長就任。

あらゆるもののデジタル化が進み、EMI (Electromagnetic Interference: 電磁障害) に注目が集まっている。ムラタのEMI事業の2本柱は、ノイズ対策部品と信号や電源の安定化を図るインダクタ。パソコンやスマートフォンなどの通信技術の進化とともに、今後ますます需要増が期待されている。また、ホームエレクトロニクスやカーエレクトロニクスなど、これから市場の拡大が期待されるこの分野でも、通信技術による多機能化にともなって、これらの製品の需要が急速に拡大している。ムラタの課題は、大電流対応と高信頼性のモノづくり。従来の「通信、民生市場向け」のモノづくりを生かしながら、いかにニーズに対応するか。「パワー系」の部品づくりのためのメタルをベースにした磁性材料も見つかり、新市場へアプローチする準備は整った。ムラタのEMI事業が次の成長に向けて歩みはじめる。

パソコン、携帯電話の登場で一気に需要が増加
さらにムラタが得意とする小型化要求も含めて、ノイズ対策部品やインダクタのニーズは確実に増えてきている

小型、大電流、HighQ デジタル化とともに増大するEMI

最近、あらゆる機器のデジタル化が進んだことにより、EMI対策技術に焦点が当たっている。ムラタはノイズ対策部品やインダクタの中でも比較的小型で小電力のものを得意としてきた。歴史を振り返ると、ラジオやテレビのノイズ対策部品、電源の平滑用途のインダクタなどを供給してきた。その後、パソコンや携帯電話の登場で一気に需要が増えた。携帯電話は高周波系のインダクタが中心ではあるが、電源回路などパワー系にもニーズがある。パソコンも外部との無線通信でのやりとりが増え、一般信号系に加え高周波系のニーズも高まっている。こうしたコモディティ化 (一般商品化) が進む領域では、ムラタが得意とする小型化も含めて、ノイズ対策部品やインダクタのニーズは堅調に拡大を続けている。

巻線、薄膜 (フィルム) 、積層の3つの 工法を持っているのもムラタの強み。それぞれの特徴を生かして異なる提案をお客様に行っている。例えば、コスト優先なら積層タイプを、性能優先なら巻線タイプをといった選択が可能。

大電流で高信頼の部品づくり パワー系への再挑戦

EMI事業の今後は、ホームエレクトロニクスやカーエレクトロニクスにどこまで対応できるかにかかっている、といえる。この分野では、「大電流高信頼」という部品づくりが必要となる。現状では、一般的な需要はパワー系以外が6割、大電流パワー系が4割くらい。ここ4~5年の間に大電流パワー系の部品が5割くらいまで伸びてくるとみている。

実は過去にも、大電流パワー系の部品を手がけたことがあるが、1980年代後半、競争が激化し、パワー系以外の分野に資源を集中してきた経緯がある。その後、ムラタは得意の小型化技術でコモディティ分野を中心にシェアを拡大。今回は、新たなマーケットとして大電流パワー系に再挑戦、ということになる。

製品サイズ

部品の小型化は、ムラタが得意とする技術。ノイズ対策部品やインダクタには、「巻線」「薄膜 (フィルム) 」「積層」という3種類の工法があり、それぞれに特徴がある。最もQ値 (品質係数) が優れているのは巻線だが、小さくするのには限界がある。現状では、巻線工法による製品も相当小さくなってきているが、薄膜 (フィルム) 工法や積層工法による製品と比べると二回り程大きい。それでも0806 (0.8mm×0.6mm) までできている。巻線でコイルを作る設備も、ムラタの生産技術に機械メーカーのノウハウをプラスし、共同で研究している点に強みがある。

一方、薄膜 (フィルム) 工法や積層工法による製品は、0402 (0.4mm×0.2mm) までできている。薄膜 (フィルム) も比較的高いQ値を持つが、巻線には及ばない。今後、薄膜 (フィルム) で巻線の特性が出せれば、インダクタのサイズにも大きな変化が現れる可能性がある。

課題はお客様との密接な関係づくり、製品の初期段階からかかわれるようになること

東光との資本提携を強化 メタル磁性材料への期待

2013年2月、ムラタは電子部品メーカー東光 (株) と資本提携し、共同開発を始めた。東光は大電流高信頼のインダクタ、コイルトランスなどを得意としている。特徴は、「メタルアロイ®と呼ばれる金属粉 (メタル) を使った磁性材料で、高いインダクタンス値でより低い直流抵抗を実現させ、大電流の回路でも性能を保てるようにしている。この技術や工法を一つの武器として大電流パワー系のマーケットでの拡販を図りたい。

ムラタは、従来から製造工程を機械化・自動化することでコストを下げ、労務費の高い日本で生産してもコスト対応力のあるような展開をしてきた。しかし、東光は徹底的に安く作るために、早くから海外展開を進め、現在では100%海外生産を実現している。生産のやり方は違うが、お互いが融合することで、新たなものが出てくるのではないか。東光とは、立ち上げた共同の開発チームを軸に、より密接な関係を築きたいと考えている。そのために資本業務提携をより充実させていく。

井上 亨氏

メタル系を使った部品で、ビジネスチャンスを獲得

メタル系という材料がない場合、フェライト系の材料でもある程度の特性を出すことは可能だが、メタルは小さなサイズで、より大きな電流に対応できる。もし、東光との提携がなく、一からムラタがメタルの開発に着手したとすれば、まず材料の開発に3年かかる。その間の売り上げはゼロだ。市場投入してから浸透するまでにさらに2~3年かかると考えると大きく出遅れてしまうことになる。いいかえれば、東光との提携で5年早くビジネスチャンスが巡ってきたということになる。

メタル系磁性材料を使った部品は、1年半ほど前から携帯電話やスマートフォンの電源回路で使われるようになってきた。フェライトよりもメタルのほうが性能はいいので、発売と同時に最先端のスマートフォンを中心に採用が進んだ。東光のメタル技術にムラタの販売網を絡ませることでより拡販が進むとみているし生産などのシナジーも期待できる。この優位な状態が、あと2、3年は続くのではないかと思われるが、その先の市場の要求を見込んでの新製品の準備も必要である。

横の連携、情報共有、ソリューション提案が課題

お客様との関係づくり、横の連携、情報共有が課題

これからの課題は、お客様との密接な関係づくりを行い、製品の初期段階からソリューション提案できるようになること。ムラタはさまざまなジャンルの電子部品を持ち、お客様との付き合いも幅広い。それぞれの事業部門では、いろいろな情報を仕入れており、その情報を共有化できれば、新しい強みとなる。特にモジュールを提供している部門などは、コンポートネントよりもお客様の製品開発に近いところにいる。

このような最終製品に近い情報を、お客様からだけではなく社内からも吸い上げる工夫をしていきたい。

ソリューション提案が課題、セールスエンジニアを中心とした提案型拡販活動を強化

EMI事業部の商品は、もともとセット回路とのマッチングが必要な商品が多く、ソリューション提案を行う機会には恵まれている。提案を行い、お客様から情報を引きだしてくるのはセールスエンジニアの役割であるが、今後、エネルギー、ヘルスケア、車載などの新市場を攻略していくためには今まで以上に貪欲にお客様ニーズを探ることが重要。国内外に保有する電波暗室もより充実させ、お客様ニーズの掘り起こしに活用していきたい。

電波暗室

外部からの電磁波の影響を受けず、逆に外部に影響を与えないように隔離された実験設備。内部では電磁波が反射しないような構造になっている。ムラタが持つ電波暗室は、本社、横浜、上海の3カ所。FCC (米連邦通信委員会) やVCCIに登録済みの電波暗室で、アンテナ評価にも使える電波暗室に加え、各種実験機器も整っている。上海には2010年に開設。現地では、世界のエレクトロニクス企業が進出する中、無線技術の発達にともない、各企業の開発設計ではさまざまなノイズ問題が発生している。この問題に対応するため、最新の測定設備をそろえた電波暗室を建設した。ムラタのこの電波暗室は、お客様に対するアプリケーションサービス拠点としての役割も担っている。

村田 (中国) 投資有限公司の電波暗室棟 (ムラタEMCセンター)

村田(中国)投資有限公司の電波暗室棟
(ムラタEMCセンター)

メタルアロイ®

東光が他社に先駆けて開発した金属粉 (メタル) を使った磁性材料。従来のフェライト・コアを使用したインダクタの磁性材料は、主にニッケル亜鉛系やマンガン亜鉛系であったのに対し、メタルアロイは、カルボニル鉄、あるいはアトマイズ鉄とそのほかの金属材料に熱硬化性樹脂 (バインダ) を混合し絶縁された材料と、空芯コイルを埋設し一体成型している。一般的なコイルに比べて直流重畳特性に優れ、直流抵抗が小さい、バッテリーの駆動時間が伸びるなど、機器の省エネに役立つとされている。

メタルアロイ®