市場のニーズに応じ いろいろなノイズ対策部品を製品化
ノイズ対策部品は、貫通型コンデンサの機能を利用したノイズフィルタからスタートした。その後、1960年代に日本でカラーテレビ放送が開始され、IC電卓が発売されるのにともない、コンデンサタイプのノイズフィルタのバリエーションを増やしていった。
70年代の半ばには、ノイズ対策部品以外の領域として、巻線型の「チップインダクタ (チップコイル) 」を製品化。このインダクタ技術により電源用フィルタとの複合商品も作った。80年前後には、パソコンやゲーム機器の普及によりノイズが社会問題化し、ノイズ規制が強化される中で、高い周波数のノイズ対策に対応するフェライト材料を使った「リード付フェライトビーズ」を製品化した。80年代半ばごろには、ノートパソコンなど機器の小型化要求に対応するため、チップ型のフェライトビーズや3端子コンデンサも登場した。90年代後半には、高精細画像データなど大量の情報を伝送するために高速差動伝送方式が普及してきた。これに対応すべくチップインダクタからは、さらにノイズ対策部品の一つである「コモンモードチョークコイル」も派生している。
このように、ムラタのEMI事業はコンデンサ型のノイズ対策部品からスタートし、インダクタを事業として加え、さらにインダクタ技術を生かしたノイズ対策部品も増やして成長してきた。
主力はノイズで2種 インダクタでも2種
ノイズ対策部品で主力となっているのは、周波数の違いによってノイズを分離するフェライトビーズと、ノイズの伝導モードで分離するコモンモードチョークコイル。共にインダクタ型のノイズフィルタである。
インダクタも、大きく電源系と信号系の2種類に分類できる。一つは、電源とICをつないでいる個所で、ICを駆動するための電源回路に使用される「パワーインダクタ」。もう一つは、無線機器など高周波信号のやりとりをするときに使う「RFインダクタ」である。
例えば、1台のスマートフォンの中には、こうしたノイズ対策部品やインダクタなど、信号受信や電源安定化のために働く部品が、およそ100個は入っている。ムラタは、これらの製品を実現するために、巻線工法、積層工法、薄膜 (フィルム) 工法といった3種類の製造工法を有し、求められる特性・性能に応じた最適な製品設計を可能にしている。
チップフェライトビーズ
コイルのように巻かれたものではなく、磁性材料であるフェライトでできたビーズ (円筒形) の中にリード線を通した形状のものが「フェライトビーズ」。フェライトシートにコイルパターンを印刷し、積層しながらコイルパターンを構成し、一体化させ焼成することにより、立体的なコイル構造を実現しているのが「チップフェライトビーズ」。内部をコイル構造にすることにより、大きなインピーダンスを得ることができるようになった。構造は積層タイプのチップインダクタと基本的には同じだが、使用しているフェライト材料がよりノイズ対策に適したものである点が異なる。
コモンモードチョークコイル
ノイズの伝導には、信号ライン間や電源ライン間に発生し、2本のライン間を互いに逆向きに流れるノーマルモード (ディファレンシャルモード) と、信号線・電源線・グランド線などの種類に関係なく、すべてのラインを同じ向きに流れるコモンモードがある。このコモンモードにだけ働くフィルタが「コモンモードチョークコイル」。信号とノイズの周波数が重なっていても、伝導モードが違えばノイズだけを除去することが可能。構造はコアに2本の導線を巻いた状態で、巻き方向は反対方向。コモンモードの電流が流れると、発生した磁束は同じ方向になるため、お互いの磁束が足しあわされる仕組み。