FRONT Line

薗田 聡/Satoshi Sonoda
常務執行役員 デバイス事業本部 本部長

1983年入社、東京支社。
1987年Murata Electronics Singapore (Pte) Ltd., 1998年Murata Electronics North America, Inc. へ出向し、営業、企画に従事。
2004年Murata Company Limited. (Hong Kong) 、
2007年村田 (中国) 投資有限公司 (上海) 、
2009年Murata Electronics North America. Inc.への出向を経て、2011年執行役員 デバイス事業本部/副本部長に就任。
2012年より同本部長。2013年より上席執行役員。
趣味はランニング、サイクリング、読書。

タイミングデバイスは、電子回路をもつどのような機器にも搭載され、正確な動作を支えています。これまでセラミックスをベースに、タイミングデバイスの需要に応えてきたムラタが、より高精度な需要に応えるために、水晶振動子の開発に着手したのです。専門企業を子会社化、セラミックスで培った技術を応用して、小型で低価格、高精度という、革新的ともいえる水晶振動子を世に送り出しました。車載、無線通信、ウェアラブルなど、ダウンサイジングの流れに乗り、それは徐々に存在感を高めています。

HCR®が水晶タイミングデバイス分野に一石を投じました提案していたダウンサイジング化が現実となり、需要が大きく伸びていますタイミングデバイスの小型化時代がやってきたのです

東京電波を子会社化 画期的な水晶振動子を発売

水晶デバイスで実績のある東京電波とは、かねてより良好な関係を築いてきました。

2009年には資本業務提携を結び、2011年には包括提携契約を締結。両社で販売協力し、高精度で低コストの製品である水晶振動子「HCR®」を製品化しました。さらに、2013年8月には、両社のシナジーを高め、経営資源の活用の最大化と判断の迅速化を図るため、ムラタは東京電波の完全子会社化に踏み切りました。

以後、開発・生産・販売・マーケティング・経営管理など、ムラタがもつあらゆる面を通じて、タイミングデバイスをコアにした水晶デバイスの事業に注力しています。

独自の構造で小型化、低価格化 市場に一石を投じる

HCR®という製品は、水晶振動子の小型化、低価格化という意味で水晶タイミングデバイス分野に一石を投じました。発売当時の水晶振動子の市場は、3225 (3.2×2.5mm) サイズがメインで、小型化がなかなか進まない状況でした。そこへムラタは2016 (2.0×1.6mm) サイズで、独自のCapChip構造を採用、従来の3225サイズと同等の機能で低価格の製品を発売しました。ただ、水晶のタイミングデバイスでは、新規参入ということもあり、実績も乏しかったので、提案したダウンサイジング化は思うように進みませんでした。ところが、2014年に入って市場のダウンサイジング化の流れが顕著になり、スマートフォンと車載関係で大きく需要が増加。モジュールやセットの小型化傾向で、2016サイズの需要が拡大しています。

さらに、2013年3月には、ウェアラブル機器やモバイル機器で使用されるBluetooth®やWi-Fi®など無線通信用途への対応を考慮した1612 (1.6×1.2mm) サイズの水晶振動子を製品化しました。今後、モジュール向けの製品については、より小型の1210 (1.2×1.0mm) サイズへシフトするものと見込み、製品化を急いでいます。

原石生産によるシナジー効果 新たな成長分野の登場

東京電波の子会社化は、ムラタに大きなシナジー効果を生み出しました。HCR®をはじめとする水晶関連製品は、今後の成長分野と位置付けられています。東京電波は水晶原石の生産も行っており、それをムラタ独自のパッケージ技術で設計し、IE (Industrial Engineering) 手法を取り入れ、革新的なタイミングデバイスを生み出しました。さらに、原石やブランク (部品材料) も販売しており、従来のムラタになかった分野が開拓されています。販売先とのパートナーシップで、より高精度の水晶タイミングデバイスの用途が開けるのではないかと考えています。

従来の水晶の業界とは一線を画した差別化戦略がポイント東京電波とのシナジー効果が期待される、原石やブランクの生産フィルタは、水晶の新しいターゲットとして注目しています

水晶フィルタというターゲット セラミックスとは違う分野への進出

水晶の原石が作れるということは、さまざまな加工ができ、タイミングデバイス以外にも使えるということではないか―そう考えて研究を進めています。中でもフィルタ関係は、水晶の新しいターゲットポイントとして注目しています。例えば、高周波のSAW (Surface Acoustic Wave) フィルタの領域、必要な周波数を取り出すSMDタイプのMCF (Monolithic Crystal Filter) への応用展開など。

高精度通信機の分野で使われていますが、過去にはムラタが手がけていなかった分野だけに、セラミックスとはまた違う分野でのビジネスが広がるものと期待しています。今後は、水晶デバイスの一つの市場として、業務用無線機や、欧米、日本、中国の基地局、衛星機器市場を重点的にマーケティングしていきます。特に、仕様での差別化を図り、コスト対応力と短納期サンプル対応、現地パートナーとの連携強化で販売を促進したいと思っています。

トレンドは高精度、高品質、小型化 高精度水晶技術への取り組み

ムラタにおけるタイミングデバイス事業の基本方針は、独自のパッケージ技術の開発、生産設備とプロセス技術をベースにした生産管理など。従来の水晶デバイスの業界とは一線を画した差別化戦略ならびに半歩先に行くくらいの製品化戦略です。水晶デバイスの業界は歴史も長く、一つの商慣習ができあがっています。そこでは、HCR®のようにあまりに早い製品開発をしてしまうと、受け入れられないこともあります。ただ、トレンドは高精度、高品質、小型化の方向に向かっており、ムラタの技術力を十分に発揮できる分野だと思っています。

今後は原石、ブランクから生産に至るまで高精度水晶技術に取り組み、タイミングデバイス分野における技術イノベーションを起こしたいと考えています。

目指すは、タイミングデバイス・ハウスとしてリーディングカンパニーになること
とりわけ2016サイズ以下のタイミングデバイスでナンバーワンにそのためには、経営資源の投入を惜しみません

さらなる新技術の導入、製品開発で 目指すはタイミングデバイス・ハウス

今後、ムラタは「タイミングデバイス・ハウス」になることを目指しています。ハウスとして、過去の実績をベースにしたラインアップの充実、さらには積極的な新技術の導入と研究により、あらゆる振動子や発振子の需要に応えていきたいと考えています。今年から来年にかけて、業務用無線や測量器、高精度通信機器などの分野に重点的にアプローチしていきます。

具体的には、水晶振動子と温度補償回路を内蔵したTCXOの高精度化、温度制御型水晶発振器であるOCXOの開発を予定。新規顧客として開拓したいのが、欧米系、中国系の大手顧客です。営業と連携し、サポート力の拡充に努めたい。タイミングデバイスという製品は、その用途によって種類も多く、必要な精度もまちまち。それだけに、ニーズに合った的確な製品提案とサポートが必要だと思っています。そのためには、顧客とのコミュニケーションも重要で、営業力が必要だと考えています。また、特定用途向けの集積回路ASIC (Application Specific Integrated Circuit) の設計技術者を採用したり、外部企業との共同開発、提携なども視野に入れた動きが必要だと思っています。

タイミングデバイス市場において、ムラタが顧客に対する中長期的なパートナーシップを有する企業―品質・生産・供給の面で貢献できる、製品開発力や提案力、改善力をもった企業―として認めていただけるよう、努力したいと考えています。

タイミングデバイス主力製品

セラミック発振子セラロック®

多結晶体である圧電セラミックスの機械的共振を利用した発振子もしくはデバイス素子。クロック基準信号の生成において適度な安定性と無調整化、小型化、低価格化を実現した部品。自動車電装品、通信機、PC関連機器、メディカル・ヘルスケア機器など、幅広い用途に応用されています。

水晶発振子HCR®

セラロック®で培った技術を応用し、水晶ブランクを採用した、高精度で高信頼性を有する発振子。独自の非気密パッケージCapChip構造を採用。樹脂封止で非気密ながら、他社製品に比べてより大型の水晶ブランク搭載を可能としました。2016サイズは、民生用途で主に使われている3225サイズと比べて約37%の小型化、コストは30~40%削減させることに成功しています。

水晶振動子XRCMDシリーズ

HCR®の技術を活かした、無線用途に適した気密封止の製品。金属キャップと基板の接続については、樹脂ではなく金属による融着封止を採用。気密構造をとることで、周波数の高精度化に対応しました。