ノイズ対策ガイド

ノイズ対策の基礎 【第8回】 フェライトコア

第8回 フェライトコア

<基板を変更しないで使えるノイズ対策部品>

これまで、基板上に電子回路の一部として取り付けるノイズ対策部品を紹介してきましたが、今回は基板に取り付ける必要のないノイズ対策部品を紹介します。(基板に固定することもありますが...)

電子機器を商品化する際、以前紹介したように機器から発生するノイズがEMI規制に対応しているか確認する必要がありますが、最終的な確認は機器の設計が完了してからでないとできません。最近はノイズを出さない設計のノウハウが蓄積されてきているためノイズを出さないような工夫があらかじめいろいろとされていますが、やはり最後に確認してみないとわかりません。ここで予定通りノイズが規制値に収まっていれば問題がないのですが、確認してみたら規制値をオーバーしていたということがよくあります。納期が迫っている場合はここで基板変更をする時間がないため、フェライトコアのような基板変更をしないで対策できる部品が重宝されます。

<フェライトコアはフェライトのかたまり>

フェライトコアはフェライト(ここではソフトフェライトといわれるフェライトが使われます)というセラミックの磁性体をいろんな形に加工したものです。以前はコイルを作る際にリング状のフェライトに導線を巻いて芯として使うことが多かったため、ノイズ対策に使われるものも同様にフェライトコアと呼ばれています。
フェライトにはその組成によってMn-Zn系とNi-Zn系がありますが、Mn-Zn系は導電性を持つために絶縁加工をする必要があること、N-Zn系のほうが高周波特性が優れていることなどにより、ノイズ対策用にはNi-Zn系のフェライトが多く使われています。

<フェライトコアがノイズを除去する原理>

フェライトコアは様々な形状がありますが、そのほとんどはリング形状となっています。このリングの穴の中に導線を通すことによって導線とフェライトコアがコイル(インダクタ)を構成します。このコイル(インダクタ)は電子部品のインダクタと原理は同じですから、図1に示すように高周波になるほど高いインピーダンスを持ちます。

このため、高周波電流を阻止するローパスフィルタとして働き、高周波ノイズを減衰させることができます。また、フェライトコアを使うともうひとつの効果が得られます。フェライトコアで構成されたインダクタに電流が流れるとフェライトコアに磁束が発生して電流のエネルギーが磁気のエネルギーに変化されますが、電流の変化に伴ってこの磁束は再び電磁誘導によって電流に変換されます。このとき、磁束のエネルギーのすべてが電流のエネルギーに戻るのではなく、一部は磁気損失として失われます。(ヒステリシス損といいます) このため、導線を通ったノイズ電流の一部は磁気損失として失われてエネルギーを失います。

図1の右側にフェライトコアに導線を通したコイルのインピーダンス特性を掲載しています。通常のコイルはインピーダンスのほとんどがリアクタンス(X)成分ですが、フェライトコアを使った場合はレジスタンス(R)成分が非常に多くなっています。これは、ノイズ対策に適したフェライト材料が選ばれている結果ですが、これによって、フェライトコアによるノイズ除去の働きは、高インピーダンスによる電流制限効果よりも磁気損失によるノイズエネルギー消費効果のほうが顕著になります。

図1 フェライトコアがノイズを除去する効果

<フェライトコアの仕様と性能>

フェライトコアのノイズ除去性能は、フェライト材料と形状によって変化します。
フェライトの材料によって透磁率が変わってくるので、インピーダンスが異なってきます。また、インピーダンスのレジスタンス成分とリアクタンス成分の割合も材料によって異なってきます。ただし、ノイズ対策用として販売されているフェライトコアの材料はノイズ対策向けに調合されていますので、どの材料を選んでも大きく特性が異なることはありません。

図2 フェライト材料の違いによる性能の違い

リングコアに導線を通す回数(巻数)が増えるとインダクタンスが増える(巻数の2乗に比例)ため、インピーダンスが増加します。ただし、導線を2回以上巻くと巻き始め(入口)と巻き終わり(出口)が接近してその間に浮遊容量を持つので、高周波ノイズがこの浮遊容量の部分を通ってしまい、高周波性能が低下する原因となります。このため、ノイズを落としたい周波数を考慮して、巻数を増やして低周波領域を重視するか巻き数を減らして高周波領域を重視するかを設定する必要があります。

図3 巻数とインピーダンスの関係

また、フェライトコアの寸法は図4に示したように性能に影響してきます。このため、できる限り内径が小さく、断面積が大きなリングコアを選ぶ必要があります。

図4 フェライトコアの寸法と性能

<コモンモードチョークコイルとして働くフェライトコア>

フェライトコアはその使い勝手の関係上、ケーブルに通して使用されることが多いですが、このケーブルはインターフェイスケーブルや電源ケーブルなど、複数の導線が並行して走っていてコモンモードノイズが問題となる場合が多くあります。

こういう場合、コモンモードチョークコイルがノイズ対策として有効ですが、このケーブルをまとめて一つのフェライトコアに通すことによってコモンモードチョークコイルのような働きをさせることができます。多数の信号線がシングルエンドで配線されているインターフェイスケーブルの場合、コモンモードチョークコイルを配線するのが難しいですが、フェライトコアを使えばこのケーブルをフェライトコアにまとめて通すことによって、簡単にコモンモードチョークコイルの機能を実現することができます。

図5 コモンモードチョークコイルとして働くフェライトコア

<さまざまな形状のフェライトコア>

これまで、リング形状のフェライトコアを紹介してきましたが、これ以外にもいろんな形状のフェライトコアが商品化されています。フラットケーブルやFPC(フレキシブル基板)の形状に合わせて幅広く薄く成形されたもの、ケーブルを通す作業をしないでいいように、分割されたコアを組み合わせて使用するように作られたものなどがあります。

また、リングではなく単なる板状のものも用意されています。これは、ICの上など電磁波が放射するところに貼り付けることにより、ここを通る電磁波がフェライトの磁気損失によって減衰する電波吸収効果を狙っているものです。

図6 いろんな形状のフェライトコア

担当:村田製作所 コンポーネント事業本部 販売推進企画部 三屋 康宏

記事の内容は、記事公開日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますのでご了承ください。

関連製品

関連記事