ノイズ対策ガイド
コモンモードチョークコイルによる電源ラインノイズ対策
本記事内で紹介している一部の製品(DLW44SN***SK2シリーズ)は、生産中止予定となっています。
1. はじめに
一般に電子機器は複数の半導体や機能ブロックから成り立っており、そのそれぞれに対し所定の電圧の電源を供給する必要があります。
必要な電圧は各々まちまちであることが多く、DCDCコンバータ(電子部品の動作に必要な電源電圧に変換する回路)にて必要な電圧に変換することになります。
その際、サイズや電気的性能面からスイッチングを用いたDCDCコンバータが採用されることが多くなっています。反面、そのスイッチング由来のノイズに気を使う必要があり、ノイズ規格を満足しない場合には何らかのノイズ対策が必要です。
本稿では、電源のノイズ対策としてコモンモードチョークコイルを用いた対策事例を紹介します。
2. 電源ラインのノイズ対策事例
ノイズ対策の対象として、非絶縁・降圧型(5V⇒1.8V, Pout=27W)、スイッチング周波数が500kHzの一般的なDCDCコンバータを用意しました。
ここでは、一般機器向け規格 CISPR22 class B(一般家庭および軽工業環境で使用される機器)に対応させることを目標としています。ノイズモードがディファレンシャルモード主体か、コモンモード主体かを判別した上で効果的なノイズ対策を施しました。
ノイズモードに関する説明については、以下リンクを参照下さい。
「ノイズ対策の基礎 【第6回】 コモンモードチョークコイル」
① 雑音端子電圧(150kHz~30MHz)
擬似電源回路網(AMN)を使用して1線対地間のコモンモード電圧(雑音端子電圧)を測定しました。初期状態の雑音端子電圧を測定すると、スイッチング周波数500kHzの逓倍(周波数がn倍に変換されること)となる周波数でノイズスペクトラムが発生し、規格をオーバーしている様子が分かります。(図1)
ノイズ対策を進める前に、このノイズモードの主体がディファレンシャルモードであるのかコモンモードであるのかを判別することを目的としてデルタLISN(line impedance stabilization network)によるモード分離を行いました。図2で見られるように、今回のノイズはディファレンシャルモードが主体のノイズであることが明らかになりました。
そのためディファレンシャルモードノイズ対策に効果が高いブロックタイプエミフィル
BNX029-01を用いたところ、大幅にノイズレベルが低減されました。(図3)
② 放射ノイズ(30MHz~6GHz)
上記対策を施した状態で、次に3m法にて空間に放射する電界強度を測定する放射ノイズの評価を行ったところ、CISPR22 class Bノイズ許容値を大きく上回る放射ノイズが発生していることが分かりました(図4)。
放射経路について調査した結果、DCDCコンバータへの入力電源ケーブルがアンテナとなって空間にノイズが放射していることが分かりました。
BNX029-01は100kHz~1GHzの広い周波数帯域にわたってディファレンシャルモードノイズを除去する効果があるので残るノイズはコモンモードノイズであることが推測されます。
コモンモードノイズ対策としてコモンモードチョークコイルPLT10HH9016R0PNを挿入したところ放射ノイズレベルが大幅に改善されCISPR22 class Bノイズ許容値を満足することができました。このことから放射ノイズはコモンモードノイズが主体であることが分かりました(図5)。
3. 電源ライン用コモンモードチョークコイルラインアップ
株式会社 村田製作所では、部品サイズ・特性をバリエーション豊かに取り揃えており、お客様の用途に応じ最適な部品をお選びいただけます(表1)。
DLW44SN***SK2は生産中止予定となりました。
表1. コモンモードチョークコイルラインアップ
品 名 | サイズ | コモンモード | 定格電流 *1 | 定格電圧 |
---|---|---|---|---|
4.0x4.0mm | 100~2400Ω @100MHz | 3.1~1.1A | 60Vdc | |
5.0x5.0mm | 100~1400Ω @100MHz | 6~2A | 50Vdc | |
5.0x5.0mm | 100~500Ω @100MHz | 5.6~3.1A | 80Vdc | |
12.9x6.6mm | 45~100Ω @10MHz | 18~15A | 300Vdc | |
400~1000Ω @10MHz | 10~6A | 100Vdc |
*1 定格電流に関しましてはディレーティングが設定されておりますので、
各商品のスペック詳細をご覧下さい。
*2 品種によって使用温度範囲が異なりますので各商品のスペック詳細をご覧下さい。
アプリケーションから探す。
・電源ライン用 < 一般グレード用 >
・電源ライン用 < 自動車グレード用 >
4. まとめ
ノイズ対策にあたっては、ノイズモードがコモンモードかディファレンシャルモードかを見極めて対策することが非常に有効です。村田製作所では、各サイズで高定格電流・高挿入損失を有する電源ライン用コモンモードチョークコイルを取り揃えており、使用の電源回路に最適なノイズ対策部品を選定することができます。
株式会社 村田製作所
EMI事業部 商品技術部 商品技術3課
田中忠
記事の内容は、記事公開日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますのでご了承ください。