ムラタでは、多様な人材が活躍しイノベーターとなるには、個々人の人権が尊重されることが必要不可欠であると認識しています。
「人権・労働に関する基本方針」では、すべての役員、従業員一人ひとりが、すべてのステークホルダーの基本的人権を尊重し、擁護し、それを侵害しないことを明示しています。広がる人権の概念を理解し、バリューチェーン全体で人権尊重の取り組みを行うことで、リスク低減・ ガバナンス向上を図り、持続的なビジネスの土台確立を目指します。
そのため、国連「ビジネスと人権」に関する指導原則や国際労働機関(ILO)の精神はもとより、RBAをはじめとした社会責任についてのグローバルな基準を支持し尊重することとし、人権・労働に関する方針を定めて、すべての労働者の人権と労働を尊重します。人権への期待は、ビジネスパートナーを含むすべての利害関係者に明確に伝えていきます。またその運用を促進するために、マネジメントシステムを導入し、人権・労働に関する基本方針を基に、下図のように、P(負の影響の特定・評価)、D(負の影響の防止・軽減)、C(モニタリング)、A(説明・情報開示)を回しています。
人権デュー・ディリジェンスの取り組み
ムラタは、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」の手順に従い、負の影響の特定・評価、防止・軽減、モニタリング、情報開示を行うPDCAサイクルを運営しています。
負の影響の特定・評価
(1)2020年度人権リスク特定
2020年度には外部有識者であるLRQAサステナビリティ株式会社の助言を頂きながらインパクトアセスメントを行い、ムラタにおける人権リスクを抽出しました。
対象事業部:コンデンサ事業部、EMI事業部、高周波デバイス事業部、通信モジュール事業部、パワーモジュール事業部、機能デバイス事業部、電池事業部、デジタル推進部、IoT事業推進部、医療・ヘルスケア機器統括部
これらはムラタの事業領域全域をほぼカバーするものであり、事業に関わるステークホルダーから広くヒアリングを行い、リスク評価を行っています。
ヒアリング対象:各事業部責任者、調達部門責任者、自社中国工場4社、自社ASEAN工場6社、自社日本工場7社
これらのヒアリングの結果、自社における以下のリスクが抽出されました。
なかでも優先度の高いリスクとして、①強制労働(特に外国人労働者、少数民族、学生工)、②長時間労働、③労働災害が特定されました。
ムラタは部材調達の上、多数の自社工場で生産を行っています。
自社の工場オペレーションにおいて特定された人権の影響を低減し、仕入先や委託工場へと働きかけていくことを優先課題としました。
潜在的人権リスクマッピング
(2)2023年度人権影響評価(ライツホルダーとの直接対話)
コロナの影響を鑑みながら、2023年には一般社団法人ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(ASSC)の協力をいただいて現地調査を実施しました。
ASSCによる調査対象事業所および調査結果概要は以下のとおりです。
なお、指摘頂いた内容については対応を実施しております。
- MURATA ELECTRONICS SINGAPORE (PTE.) LTD における人権影響評価(2023年10月)
当該拠点は移民労働者の割合が非常に高い海外自社工場です。
歴史の長いMLCC事業拠点および2017年に譲受した電池事業拠点の2つの工場が存在します。
現地の安全衛生の確認、中国からの移民労働者、マレーシアから通勤する労働者へのインタビューを行いました。
<調査結果概要>
- 採用プロセスにおいて、労働者に対して面接時に詳細な労働環境や生活環境を説明されていることが確認されました。
- 採用時に労働者が手数料負担をしていないことが確認されました。
- 労働安全の観点から、一時停止線の整備や非常口の母国語表示を拡充する必要がある点の指摘を受けました。
- 出雲村田製作所における人権影響評価(2023年11月)
MLCC生産の国内主要拠点の一つであり、外国人労働者を含む間接雇用の比率が高いため、協力会社へのヒアリング調査ならびに協力会社労働者へのインタビューを実施しました。
<調査結果概要>
- 安全な労働環境の確保のための環境整備がなされていることが確認できました。
- 一部の協力会社で有期契約労働者への無期転換ルール周知が不充分であるとの指摘を受けました。
- 東北村田製作所における人権影響評価(2023年12月)
2017年にM&Aで譲受した大規模拠点として、継続してムラタの安全衛生環境を構築してきており、労働者からみた実態把握を行いました。
<調査結果概要>
- 安全・防災の管理体制が確立されており、労働災害が低減していることが確認されました。
- さらなる労働者の安全のためには、備品確認の履歴を明らかにすること、記録をオープンにすることなど、透明性を高める必要があることの指摘を受けました。
モニタリング
自社において、勤務状況や労働時間のモニタリング、労働組合などとの意見交換、従業員サーベイなどを実施しています。また、仕入先様へのリスク評価体制を構築しています。
情報開示・説明
自社のウェブサイト、統合報告書(Murata value report )による情報開示を行います。
人権教育
ムラタでは、各種リスクの発生を抑えるためには制度や仕組みだけではなく、従業員全員それぞれに応じた教育が必要なタイミングで実施されることが大切だと考え、管理職だけではなく、リーダーなどチームをまとめる役割のある従業員を対象に、毎年ハラスメント教育を実施することで、ハラスメント防止策を講じています。
また、2019年度より毎年全従業員を対象として、eラーニングを使用した人権・労働に関する基本方針および嫌がらせやセクハラ・パワハラ、SOGI※ハラ、通報窓口の周知含むハラスメント防止教育を実施しており、役割のある従業員だけでなく、全従業員がハラスメント防止の重要性を認識する機会としています。加えて、当社社員だけでなく、各企業様ご協力のもと派遣社員や請負社員の皆様にも参加いただいています。
業務内容に応じて人権を含めたCSR関連教育も実施しており、職場でハラスメントの可能性がみられた場合の一次対応ガイドラインも策定しています。
差別的な行動や嫌がらせがあった場合には懲戒規定に基づく懲戒の実施を行い、規定に従い(個人情報が特定されない形で)公表を実施しています。
- ※SOGI:Sexual Orientation & Gender Identity/性的指向と性自認
|
e-learning |
一般教育 |
管理者教育 |
新人研修 |
連結(国内) |
95.40% |
96.40% |
- |
村田製作所 |
98.80% |
97.50% |
100% |
- ※従業員のみ:新人研修については一部拠点のみe-learningで実施を必須としているため、e-learningで実施の拠点分のみ
講演会
2022年度に国内従業員向けにオンラインで実施した人権講演会には250名が参加し、「ビジネスと人権~村田製作所の事業・業務と人権のつながりを考える~」をテーマに、大阪経済法科大学の菅原教授から、人権の基本的な考え方から会社に求められていることなどをお話していただきました。
また、ムラタの実態をテーマにしたワークショップを実施し、参加者間で意見の共有から、それぞれの認識の違いに気づくことができました。
講演会後のアンケートからは、「管理職に学んでもらった方がよいと感じた。」「人権について具体的に考える必要性を実感した。」「多面的に人権について考える機会をいただいたことで、今後のモノづくり現場に直結するであろう課題に対し有効に反映できると感じた。」などの意見が挙がり、参加者が中心となり学習内容の展開が広まっています。
グローバルでの人権教育事例
海外においては、グループ会社ごとに固有のテーマで研修に取り組んでいます。
一方、国が違っても人権に違いはないという考えのもと、グローバルに展開できる教育についても検討を進めています。
海外での研修の様子:
苦情処理メカニズム
ハラスメントや人権侵害が発生してしまった場合に備え、すべての労働者が社内・社外ともに匿名で使用可能な相談窓口を設け、コンプライアンス推進事務局が然るべき対応を行う体制を整えており、この窓口を利用した労働者やその他の利害関係者に対する報復を禁止しています。
また、気軽に通報窓口を使えるようにカード型の通報窓口の案内文書を作成して配付し、さらにeラーニングでの周知も努めています。
2022年度に従業員および派遣社員からハラスメント相談窓口に寄せられた相談件数は、匿名のものも含めて106件ありましたが、児童労働や強制労働の訴え、訴訟につながるような重大な問題は発生しておりません。
受け付けた相談に対しては、相談者の意向を踏まえた上で各関連部門と協働し、全件対応を完了しています。
内部通報・相談件数についてはこちらをご覧ください。
Link: 内部通報制度・相談窓口
その他の通報窓口:
Link: 仕入先様のための相談窓口
Link: お問い合わせフォーム(その他労働人権に関わる内容については、こちらからご連絡をお願い致します。)
人権問題への対応実績
社内での対応実績
法令順守に留まることなく、より積極的な長時間労働の是正を進めています。
労働者の過労は生産性の低下、離職の増加、怪我および疾病の増加とつながりがあるとされており、心身ともに健康な生活を送るために過重労働リスク低減に努めています。
たとえば、エンジニアの長時間労働を人権課題のひとつとし、村田製作所では労働組合と締結している労使協定に基づき労使共同で改善・是正を進めています。
具体的には、重点事業における繁忙期の長時間労働発生を抑制するため、労働組合・事業部・人事部門の3者による労使の協議体を設置し、事業計画の遂行状況と労働時間実績を四半期ごとにモニタリングする運用を実施しました。
その結果、対象部門における2021年度のエンジニアの時間外労働時間が前年比84%に削減しました。
その後も労働時間のモニタリングを継続して実施し、時間外労働時間の増加がみられた時には労使でヒアリングを実施するなどの働きかけを実施していきます。
また、2021年度から従来の有休日数を一律3日増やすことで、総労働時間の削減にも努めています。(最大付与日数 23日)
協力業者様との対応実績
ムラタでは、製造現場において多くの協力業者様との協働を行っており、協力会社様およびその従業員の皆様も大切なステークホルダーと考えて取り組みを進めています。
まず、協力会社様とその従業員の皆様も含め、ムラタで働くすべての人に「人権・労働に関する基本方針」と「EHS防災方針」を理解し遵守していただくために協力会社様に各方針にご賛同の上、同意書をいただくことで、ムラタの方針を周知・徹底するように努めています。
次に、協力会社様およびその従業員の皆様にも、ムラタの考える人権について理解、共感いただくため、協力会社様を通じて人権・ハラスメント防止教育を実施するとともに、人権・ハラスメントに関わるご意見・通報・苦情があった場合には、必要に応じて共有をいただき共に対応する体制を整えています。
また、方針の遵守状況の確認および潜在的な人権リスクを特定するためのプロセスとして、SAQ・監査などにご協力をいただいております。
これらの取り組みの中で、日本国内では外国人労働者に対しての産休や育休などの制度の周知不足であることが分かりました。取得を妨げられていないものの、一部の労働者が取得可能との認識がない状態でした。協力業者様での教育内容を改めることによって周知徹底を行い、同様の事例がないよう努めていただいています。
また、海外工場での外国人労働者採用エージェントにおいて、労働者の渡航キャンセル防止のため労働者より預り金を受けていたことが分かりました。採用エージェントに対し、労働者による一時負担を停止するよう働きかけると同時に、採用された 労働者本人へのヒアリングにより、再発防止に努めています。
Link: 人権・労働に関する基本方針
Link: EHS防災方針
地域住民・その他ライツホルダーでの対応実績
社会・地域貢献活動基本方針にある様に、ムラタは「ムラタがそこにあることがその地域の誇りであり、喜びであるような企業でありたい」と願っており、地域社会および地域住民の皆様も大切なステークホルダーと考えて取り組みを進めています。
取り組みのひとつとして、地域への影響を顧みながら、積極的に地元での従業員の採用を行い、地域社会の雇用創出に努めております。
また、ムラタの工場に起因する人権をはじめとした各種問題を引き起こさないために、地域社会の皆様との意見交換の場を定期的に設けており、苦情の申し立てがあった場合は、この場で対話を図ります。また、負の影響を防止・是正するためのコミュニケーションの場としても活用しております。
加えて、ムラタで働く外国人労働者の増加にともない、労働者がよりよく地域共生するために、小学校への日本語教育講師の派遣や、日本語教育に関する備品の寄付を実施しています。また、特に日系ブラジル人の労働者が多いことから、地元大学へのポルトガル語寄付講座への協賛、近隣図書館へのポルトガル書籍の寄贈を実施しています。福井村田製作所では、従業員向けにポルトガル語講座を開催していますが、定員を超える参加者の応募があるなど、関心の高さを伺えるだけでなく、参加者から「明日から『おはよう』はポルトガル語で挨拶してみます」といった声も上がるなど、意欲的な取り組みとなっております。
また、コロナ禍では特に、言語の違いにより外国人労働者への情報量の差が発生し、生活習慣の違いなどから、平常時よりも周辺住民とのコミュニケーション・相互理解に困難が発生するリスクがありました。
その対応として、苦情処理メカニズム(地域社会:地域との意見交換会)を通じて地域の方からいただいた声も踏まえ、協力業者様と協働して、母国語による情報共有や、非常事態宣言発生時には地域の商店などの声掛けなどを行いました。
このような取り組みを通じて、当社従業員と外国人労働者とのより積極的なコミュニケーションにつながっていくことを期待し、今後も、多様性を尊重し、相互理解を進めることで差別防止へとつなげていきます。
Link: 社会・地域との共生
公正な職場環境と人事制度づくり
ムラタはCSR憲章の「人権と労働に関する基本方針」に基づき、不当に差別しない職場環境と人事制度を構築しています。
私たちは一人ひとりの人権を尊重し、尊厳をもって対応します。
- 強制労働はこれを禁じ、すべてのプロセスにおいて児童労働をおこないません。
- 人身売買には一切関与しません。すべてのプロセスにおいて人身売買のリスクがないことを確認しています。
- 法規制を順守します。また、労働基準法に関わる重大な違反として監督官庁からの指摘は発生していません。
- 法に定める労働時間・休日・休暇・最低賃金の水準に留まらず、その向上を図るように努力しています。
- 給与体系や人事制度は従業員に正しく周知し、賃金は定期的に全額を期限内に支払います。また、控除は給与明細に記載し行います。
- 各国の法律に従い、結社の自由および労働組合等に加わる権利を尊重し、組合との自由なコミュニケーションを促進します。また、各国の法律等により労働組合の結成が認められていない国や地域においても、結社の自由および労働組合等に加わる権利果たす目的である労使間の対話を通じた課題解決を推進することに努めます。村田製作所グループ労働組合連合会に加盟する単位組合の組合組織率は81.5%です(2023年3月末時点)。
- 労働組合や従業員代表と協議を行い、生活水準を維持するために必要な賃金を支払います。
- 賃金制度をはじめとした人事制度においても女性差別等は行いません。また、同一労働同一賃金についても適用される現地の法令に従い尊重し、遵守します。
- 心身ともに健康な生活を送るために過重労働削減に努めます。
- 外国人移民労働者が彼らの権利を理解することを確実にするための出発前教育を行います。
- 形式・名目の如何を問わず、手数料、保証金その他の金銭を徴収したり、預託を受けたりしません。労働者がこうした費用を支払ったことが判明した場合は、その費用は当該労働者に返金されなければなりません。この方針が、人材あっせん業者またはその委託先業者・サプライチェーンでも守られていることを監査などを通じて確認します。
- ムラタのEquityの考え方にのっとり、採用、賃金、昇進、報酬、および教育訓練などの場面において合理的配慮を行います。(例:聴覚障がいを持つ社員の昇格選考にあたっては字幕対応を行うなど)
- 過去1年間において、事業所の運営または操業に関わる、公衆のデモ、抗議活動などは発生しておりません。
また、人権に対する従業員の意識を高めるために、人権と労働に関する基本方針を英語や中国語に翻訳して伝えるとともに、階層別教育の中で人権教育を実施しています。なお、調査の結果、海外も含めたすべての事業所・工場において、児童労働・強制労働に関する案件は発見されませんでした。
※児童労働の発生を防ぐため、従業員の雇用に際しては身分証明書の確認を行っています。
地域の最低賃金に対する標準最低給与の比率(村田製作所)
地域の最低賃金 |
15万822円 |
標準最低給与 |
17万3,500円 |
地域最低賃金に対する比率 |
115% |
※主な生産拠点の数値であり、平均値ではありません。
※2023年3月末時点
英国現代奴隷法への対応
2015年に英国で発効した現代奴隷法に基づき、以下の通り、奴隷および人身売買に関する声明を開示しています。
Link: 英国現代奴隷法に関する声明