製品技術紹介

さらなる小型化や高密度実装化に貢献するチップ積層セラミックコンデンサ

電波新聞第2部「ハイテクノロジー」2017年8月24日号に掲載された内容を再構成したものです。

掲載誌:電波新聞第2部「ハイテクノロジー」2017年8月24日号

1.はじめに

高速かつ大容量のデータ通信におけるニーズの高まりやセットの高機能化にともない、携帯通信機器におけるチップ積層セラミックコンデンサ(Chip Multilayer Ceramic Capacitors : 以下、MLCC)の使用数量はますます増加している。なかでもスマートフォン1台あたりには、ハイエンドモデルでは600~1000個、ローエンドやミドルレンジでも300~600個と多くのMLCCが使用されている。今後もセットの高機能化や低消費電力化のニーズは高まり、搭載部品の小型化や高性能化がますます求められる。

MLCCのサイズトレンドは、図1に示すようにおおよそ10年周期で小型サイズへシフトしており、民生市場においては、1005M*1サイズに変わり0603Mサイズが主要なサイズになろうとしている。なかでも静電容量E1ステップの小型化がポイントとなっており、2010年頃に0402Mサイズ・0.1μF、0603Mサイズ・1μF、1005Mサイズ・10μFを製品化したことで、フィーチャーフォンやスマートフォンでの部品小型化や高密度実装化に大きく貢献できた。MLCCに対するさらなる小型化や高密度実装化に対する期待は大きい。

図1 MLCCのサイズ構成比率

本稿では、セットやモジュール部品の小型化や実装密度の向上、高性能化に貢献するMLCCにおける取り組みについて紹介する。

*1 L×W寸法が1.0×0.5mmサイズ。寸法記号の識別子Mはメートル法の単位を示す。

2.世界最小0201Mサイズ(0.25×0.125mm) MLCCの搭載に向けて

当社では、2014年より世界最小0201Mサイズ (0.25×0.125mm) MLCCの量産を行っている。製品写真とラインアップをそれぞれ図2、図3に示す。1章で述べたように、スマートフォンなど携帯通信機器の高機能化にともない使用数量の増加や小型化が進展し、ウェアラブル機器や小型モジュールでの0201Mサイズ部品のニーズが高まっている。

0201Mサイズ (0.25×0.125mm)MLCCのイメージ
図2 0201Mサイズ (0.25×0.125mm)MLCC
0201Mサイズ商品のラインアップの表
図3 0201Mサイズ商品のラインアップ

0201Mサイズ (0.25×0.125mm) は、従来の最小0402Mサイズ (0.4×0.2mm) と比べて、実装面積比が約1/2となっており実装スペースの削減に貢献できる。一方、これまでにない小型サイズのため、実装技術の確立が必要となっていた。当社では製品や包装材の最適設計だけでなく、実装機やはんだ付け材料、基板メーカーなどと協力し実装技術の確立を行った結果、ウェアラブル機器や小型モジュール機器への搭載目処がついてきた。今後、高周波回路でのマッチング用途に適した0201Mサイズ・高Qシリーズや0201Mサイズ・0.1μFの製品化も予定しており、0201Mサイズの本格的な普及期に入ると見込んでいる。

3.中間サイズによる小型化ラインアップ展開と寸法の標準化

従来、MLCCの製品化は公規格に規定のケースサイズと標準の寸法公差にて行われてきた。しかしながら、市場からの小型化や大容量化のニーズに応えるために公規格に規定された寸法公差を逸脱した製品化が実施される場合があった。その結果、高密度実装が求められるなかで実装レイアウト設計や実装機設定に混乱を与えていた。
この課題に対するソリューションとして、図4に示すように従来のケースサイズの間に中間となるケースサイズを設定し、MLCCの外形寸法の標準化を推進する取り組みを行っている。

図4 中間サイズによるMLCCの寸法標準化

中間サイズの設定により、標準化された寸法にてMLCCの小型大容量化をより細かく行うことができ、小型化や高密度化など実装面積削減のニーズに貢献できると考えている。中間サイズについては、JEITA規格(RC-2322C*2)の外形寸法規格にも附属書の形で記載され、寸法標準化が推進されている。

これまでに、1μF品として世界最小の05025Mサイズの製品化を行い、使用数量の多い0603Mサイズ・1μFからの実装面積削減策として採用実績がある。今後も中間サイズによる寸法の標準化推進と、小型化ラインアップを拡大していく計画である。

*2 JEITA RC-2322C 表面実装用固定積層磁器コンデンサの外形寸法

4.実使用環境下での実効静電容量に配慮した小型化商品設計と動的モデル*3 の提供

MLCCは、使用しているセラミック材料の特性に起因した電圧特性を有しており、直流(DC)や交流(AC)の電圧により、実効の静電容量値が変化する。温度補償系MLCC(C0G特性など)では、比誘電率が低い常誘電体セラミックスを使用しており、電圧特性による変化はほとんど起こらないが、高誘電率系MLCC(X5R特性やX7R特性など)では、チタン酸バリウムに代表される比誘電率が高いセラミック材料を使用しているため、電圧特性による静電容量の変化が顕著となる。

MLCCを小型化する際、セラミック材料の比誘電率を高くするか素子の薄層化を行うことで静電容量を確保できるが、比誘電率を高くした場合、電圧特性の影響が大きくなり小型化前の製品に比べ、実使用電圧下での静電容量値が小さくなる場合がある。

当社では、実効静電容量に配慮した小型品を設計するため、比誘電率を抑えた材料で、薄層設計に対応できるようにセラミック材料及び内部電極材料の薄層対応技術、薄層設計時の高信頼性技術の開発に注力している。その結果、サイズダウン前と同一実効容量までには及ばないが、比誘電率の高いセラミック材料を使用した場合より、実効静電容量の優れる商品設計が実現できている。一例として、図5に1005Mサイズ・2.2μFを0603Mサイズに小型化した場合の静電容量のDC電圧特性を示す。比誘電率の高いセラミック材料Bにて試作した設計では、サイズダウン前に比べ実効容量が大きく低下するが、比誘電率を抑えたセラミック材料Aを使用した設計では、サイズダウン前と同等の静電容量変化を確保できていることがわかる。

図5 静電容量のDCバイアス電圧特性

図5のような実使用条件下での特性変化は、回路設計をシミュレーションで行う際、実際との結果にずれを生じさせる可能性がある。特性変化を考慮した回路シミュレーションに対応するため、当社ではMLCCの動的モデルを開発し、任意に指定した温度とDCバイアス電圧特性を反映したモデルを提供している。モデルは当社ウェブサイトからダウンロードして利用することができ、同じくウェブサイト上の設計支援ソフトSimSurfing*4では、動的モデルを用いて計算されるさまざまな特性をグラフ表示で確認できる。また、任意のDC電圧条件、温度条件下で必要な実効静電容量値から、部品を逆引きできるSimSearchの提供も行っている。これらは、部品選定や確度の高い回路シミュレーションに有効に活用いただき、好評を得ている。

*3 動的モデル:特性がずれる要因を動的に反映することができるシミュレーション用の部品モデル

*4 設計支援ソフト SimSurfingウェブサイト: https://ds.murata.co.jp/simsurfing/index.html?lcid=ja

5.むすび

本稿では、セットやモジュール部品の小型化と実装密度向上や高性能化に貢献する当社MLCCにおける取り組みについて紹介を行った。部品の小型化は、生産性を改善し使用数量が増加するMLCCの安定供給にも繋がると考えている。今後も、部品の小型化や高密度実装対応への市場ニーズはますます高まると考えられる。当社では、部品の小型化や高密度実装対応を行うだけでなく、実使用条件下での特性を重視した商品設計や、より活用しやすいソリューションの提案を継続していく。

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