FRONT Line

キャパシタハウスがエネルギーを考える柔軟な発想を持って新分野に挑戦いかに企業文化を発揮していけるか、新しい部品作りが始まった

岩坪 浩/Hiroshi Iwatsubo
執行役員 営業本部 本部長

1985年入社。セラミック材料の開発に従事。
1989年Murata Europe GmbHへ出向し、開発・新規ビジネスマーケティングを担当。1993年村田製作所に帰任、技術管理部、半導体商品部企画課長、設計課長を経て2005年企画部部長に就任。2008年デバイス事業本部センサ事業部 事業部長。2011年より現職。
趣味はゴルフ、読書、ウォーキング。

エネルギーへの関心が高まっている。
オフィスや家庭で、IT技術を利用してエネルギーを作り出す、またエネルギー消費機器を自動制御する。
そこには省エネという概念だけではなく、エネルギー全般をマネジメントする技術が必要となる。
キャパシタハウスを謳いコンデンサを基幹部品としてきたムラタが、エネルギー分野にどう貢献できるのか。
民生機器や携帯電話で培ったセンサやネットワークの技術が、エネルギーのあり方をどう変えるのか。
従来から培ってきた技術を通じて社会に貢献したいという思いがある。
今がその絶好の機会、一つの扉が開かれようとしている。

コンデンサの技術を生かして、パワーエレクトロニクス分野へ進出

ムラタは常に挑戦を続けている。パワーエレクトロニクス分野への進出もその一環。得意とする積層セラミックコンデンサの技術を生かして、どういうことができるのか。電力変換や電力制御の技術は、抱える技術者も危険度も違う。ただ、ムラタがパワーエレクトロニクスを手がけると、その世界にいる方々とは違う視点で見られるメリットはある。新しい分野への進出は、疑問から始まる。なぜそうなるのか、なぜこのようにしないのか。技術者の「なぜ」から、違う発想が生まれるかもしれない。

ムラタはキャパシタハウスとして、弱電分野の積層セラミックコンデンサを基幹商品としてきた。最近では、車載用やヘルスケアなど違う分野へも事業を展開している。競争力の源泉は小型化と大容量化の技術で、蓄電できる大容量のコンデンサ、さらにはリチウムイオン二次電池や高出力有機電池など、次世代蓄電デバイスの研究も進めている。そこには材料技術や積層技術が生かされており、そういう形でパワーエレクトロニクス分野への進出を図ってきた。ただ、まだそれぞれが単品で構成されており、システム化された技術ではない。

電源のインテリジェント化という概念

従来から、パワーエレクトロニクスへの関心はあったが、持てる技術を総合して取り組むところまでは至っていなかった。しかし、3.11の東日本大震災以降、世の中の電力、発電や蓄電に対するニーズは大きく変化した。スマートエネルギーやエネルギーハーベストという概念が注目され、どうやってエネルギーを創造していくのかが問われるようになった。

「エコ」といわれている概念も、使用を制限するのか、必要なければ切断するのか。「スマート」という概念の場合、例えば電力料金の安い夜に蓄電し、蓄電したものを昼間の需要ピークに合わせて使用する。電力の最適利用を図ることが目的だが、そうした中でムラタは何ができるのか。太陽電池で発電した電気を最適化して使うには、用途に合わせて変換する必要がある。

DC-DCコンバータやDC-ACコンバータを使って、電源をインテリジェント化し、ロスなく効率よく電気を使う。変換が重なって効率が落ちるようであれば、スマート化とはいえない。そこで、ムラタが今まで培ってきたテレビやプリンタ、コピー機などの電源技術が生かせる余地がある。電源のインテリジェント化は、これからのキーテクノロジーになると考えられる。

住宅関連で進む電力のスマート化、EVバッテリーを含めた電気の使い方

スマートハウスやスマートライフといわれるように、電力のスマート化は住宅関連で進んでいる。この分野は、ムラタとしては未知の分野で、どのように事業を開拓していくかが大きな課題だ。

経済産業省が補助金などで支援する代表的なスマートシティの実証実験は全国で4つ。横浜市と愛知県豊田市、京都府、大阪府、奈良県にまたがるけいはんな学研都市、そして北九州市。豊田市では電気自動車 (EV) を含めたエコカー約4,000台の普及を目指しており、EVのバッテリーをも含めた電気の発電と送電と蓄電を考えている。

EVの走行距離は約100kmほどだが、そのエネルギーは住宅なら1日分のエネルギーに相当するという。夜間に充電しておき、昼間、車に乗らなければ、その電力を使って住宅内の空調や光熱を賄う。電気の使い道として、家で快適に使うか、ドライブに行くかという選択。これが究極のスマート化だと思うし、消費者の感性に訴えるという意味で興味深い実験でもある。

岩坪 浩氏 

センサとネットワーク、これまで培ってきた技術で貢献

住宅産業へのアプローチについては、コンソーシアムなどを利用する。前述のスマートシティで、行政が主導するものは4つだが、住宅メーカーや電機メーカー、家電メーカーなど、民間企業が主導するプロジェクトは全国で20以上にも及ぶとされる。それぞれが関連する企業を巻き込んでコンソーシアムを構成しており、ムラタもそれらへの積極的な参加を試みている。

HEMS (ホームエネルギーマネジメントシステム) といわれるコンセプトがある。どれだけのエネルギーが、いつ、どこで、何に使用されているかを「見える化」する技術。住宅中の機器を一括してコントロールしたり、自動的にエネルギー使用量を最適化したりする制御技術。やがては家電製品、自動車、発電装置が結びついて管理される時代が来る。このシステムの中で、ムラタなら、最初はセンサとネットワークで貢献できると考えている。

人や動物の動き、その場の明るさ、温度差などを感知して、何らかの信号を送り出す。それをネットワークでつなげて、一つのシステムとして管理する。これまでムラタが民生機器や携帯電話で培ってきた技術が生きる世界だ。こうした技術になると、これまでのお取引先である電機メーカーや家電メーカーは理解が深く、ムラタが何ができるのかをよく知ってもらっている。すでにいくつか課題もいただいており、その解決策から取り組んでいける。

スマートシティ

家庭内のエネルギー消費が最適に制御されたスマートハウスをコアに、地域の電力を有効に使い、熱や発電も含めたエネルギーの多面的な活用を図り、さらに地域の交通システム、市民のライフスタイルの変革などを複合的に組み合わせた次世代社会システムの概念。
世界各地で実験が始まっており、将来は巨大市場に成長する可能性がある。経済産業省が選定した横浜市・愛知県豊田市・けいはんな学研都市・北九州市の全国4ヵ所で実証実験を開始している。

発電の研究と製品化一つひとつ作り上げ市場に問う

エネルギー関連の市場開拓はこれからだが、その関連の研究開発と製品作りは着実に進んでいる。昨年のCEATEC JAPAN 2011には、エネルギーハーベスティングに関するいくつかの製品を送り出した。例えば、身の回りのわずかなエネルギーを電気に変換し、消費電力の少ないセンサや無線と組み合わせる技術。実は、2008年頃から発電の研究を進めており、現在は4つの発電素子を持っている。いずれも振動や熱、光などの環境エネルギーといわれるものをベースにしており、その場で発電し、感知し、信号を送り出す。配線レスなので、メンテナンスのしにくい場所でも長期間使える。

また、通信もバッテリーレスで無線発信でき、エネルギーハーベスティングに最適といわれ、欧米では300社以上の企業が採用しているEnOcean®通信のアライアンスに加わり、その通信モジュールも開発している。

地道ながら、こうした製品を一つひとつ作り上げ、製品として使ってもらいながら反応を見ていく。やはり、ものづくりは一気に進むものではなく、改良を重ねて完成へと近付けていくものだと思う。エネルギーに関する市場は、開花したばかりでまだまだ発展していくだろう。特に、今の日本のエネルギー施策に関しては世界が注目している。そうした中で、あまり背伸びはせずに、部品供給という分野にこだわりながら、従来の技術を生かして貢献していくことを考えたい。

エネルギーハーベスティング (Energy Harvesting)

身の回りのわずかなエネルギーを電気に変換し、消費電力の少ないセンサや無線などと組み合わせる技術。いずれも振動、熱、光など、環境エネルギーを元にしており、長期間メンテナンスフリーで使えるエネルギー源として注目されている。ムラタでは、2008年よりエネルギーハーベスティングによる発電の研究を進め、すでに4つの発電素子を開発している。

  1. 圧電体を使用した発電素子: 圧電体を使い、力や振動を電気に変換する
  2. エレクトレット材料を使用した発電素子: エレクトレット膜を使い、振動を電気に変換する
  3. 熱電材料を使用した発電素子: 熱電材料を使い、温度差を電気に変換する
  4. 増感色素を使用した発電素子: 光を受けると電子を放出する色素を使い、光を電気に変換する
エネルギーハーベスティング (Energy Harvesting) 

EnOcean® (エンオーシャン) 通信

独Siemens社からスピンオフして設立されたEnOcean社が開発したエネルギーハーベスティング関連機器に向けた通信規格。
技術の特長はバッテリーレス無線発信技術にあり、欧米では300社以上の企業が同社の技術を採用し、約650種類以上の製品を市場で販売しているといわれている。

主な応用製品はビルオートメーションで用いられる照明スイッチ、空調制御機器などで、欧州を中心に20万以上のビルでの採用実績がある。ほかの無線通信仕様、例えばZigBee®に比べおよそ10分の1以下の消費電力で通信が可能。ムラタでは、内蔵バッテリーが不要な点を生かし、応用可能な製品の拡大を行っている。