アプリケーションノート

車載用コネクティビティ技術

コネクティビティ技術は、身近なところでは、携帯電話/スマートフォン、PCを中心に進化してきました。
最近では携帯電話/スマートフォンに留まらず、デジタルカメラ、ホーム家電、ゲーム機器、ヘルスケア機器、車といったあらゆる機器に広がりを見せています。ムラタも「コネクティビティで世界を楽しくつなぐ!」をスローガンにさまざまなコネクティビティ技術への取り組み、提案を行っています。
ここでは特に車にかかわるコネクティビティ技術への取り組みについてご紹介します。

ムラタの車載用コネクティビティ・モジュール

ムラタの車載用コネクティビティ・モジュールとしては、2003年ごろより、カーナビゲーションやカーオーディオシステムに搭載されるBluetooth®モジュールを提供しています (図1) 。これらは車内に持ち込まれる携帯電話や携帯音楽機器をBluetooth®で無線接続し、ハンズフリーや音楽ストリーミングなどの機能を実現し、安全性を損なうことなく運転者の利便性向上に貢献しています。

このBluetooth®モジュールは、Bluetooth®で規定される無線性能を実現するハードウエア部分に加え、ハンズフリー、音楽ストリーミング、電話帳転送などのユーザーが使用する機能を実現するソフトウエアも内蔵します。さらに、このソフトウエアには、運転者が安全性を損なわずに使用するための音声認識機能、音質を改善するエコーキャンセラー/ノイズリダクション (EC/NR) 機能、多機種の対向デバイスとの相互接続性 (IOP) を向上させるための機能も含んでいます。

最近では、Bluetooth®にWLAN機能やGPS機能、NFC機能などの新しい無線システムを加えたコンボモジュールの開発、製品化を行っています (図2) 。特にWLANシステムは車載用コネクティビティとしても今後最も期待できるシステムであり、ムラタの豊富な民生機器用コネクティビティ・モジュールでの経験と実績を生かし、ドライバポーティング、システム性能評価、各種認証取得のソフトウエアを含めたトータルサポートを提供しています (図3) 。

ムラタの車載用コネクティビティ・モジュールは2012年12月時点で累計1,300万個を超える出荷実績となっており、世界中の車に搭載されています。

Fig. 1 Bluetooth® Module for Car Navigation and Car Audio Systems

図1: カーナビゲーション・カーオーディオ向け Bluetooth®モジュール

Fig. 2 Bluetooth®+WLAN+GPS Combo Module for Car Navigation and Car Audio Systems

図2: カーナビゲーション・カーオーディオ向け Bluetooth®+WLAN+GPS コンボモジュール

Fig. 3 Murata's WLAN System Total Support

図3: ムラタのWLANシステム トータルサポート

車載用製品に求められる要件とムラタの取り組み

車では、一般民生機器と比較して、使用期間も長期にわたり、かつ、厳しい環境での使用が想定されます。また、人命、財産にかかわるマシーンのため、当然、求められる要件は厳しい内容となります。

車載用コネクティビティ・モジュールでも、ただ要求される無線機能・性能を実現するだけでなく、併せて、高/長期信頼性能、長期供給、継続的品質改善活動 (ゼロデフェクト活動) が要求されます。これらの要求要件を満足するための開発技術、評価技術、モノづくり技術が必要となります。

開発段階では、まずモジュールに使用する部品選定から慎重に進めています。ムラタはあらゆる電子部品を市場に供給していますが、代表的な製品であるコンデンサでは、それに使用する材料の開発から出荷まで、自社での一貫した取り組みとなります。

一方、モジュールの場合は、自社調達できる部品は多いものの、他の部品パートナー様から供給いただく部品も必要となります。部品パートナー様にも車載部品に対するムラタの思想・要求をしっかり理解して協力をいただくため、何度も打合わせ、すり合わせを実施しながら使用部品を選定しています。この要求の中には、部品の電気的性能、信頼性能だけでなく、故障解析体制や長期供給等も含まれています。

モジュール設計では、車載製品特有の高/長期信頼性能を実現するために、民生機器向け製品とは異なる車載用製品専用のデザインルールを設け適用しています。これらデザインルールでは、高信頼性を実現するための単なる部品ピッチやランドパターンルールだけでなく、車載メーカー様での取り扱いや検査、また、万一、不良となった場合の解析のしやすさも考慮されています。

開発評価段階では、無線性能の評価に加え、モジュール自体の信頼性の評価を行います。電装メーカー様から要求される評価項目はもちろんのこと、過去の経験および信頼性工学などの専門的観点から規定される社内の評価項目もクリアする必要があります。その評価期間は民生機器用製品の3倍以上にもなります。良い製品設計ができても、さらに、品質を含む性能を実現し安定的に生産を継続するモノづくり技術が必要となります。現在、ムラタのコネクティビティ・モジュールは車載用も含めすべて自社工場で生産しています。これにより、開発初期段階からの車載品質の作り込みが可能となっています。

車載用コネクティビティ・モジュールの生産工程は基本的には民生機器用モジュールと同じですが、敢えて生産ラインを分け、車載用製品専用ラインを設け、その専用ラインにて生産しています。車載品質を実現するために、車載用製品専用の、部資材管理、作業者認定制度をパスした資格保有者による作業、特別検査工程、トレーサビリィティの仕組みを導入しています。これらにより車載用製品製造の基本理念であるゼロデフェクトを実践しています。今後もコネクティビティ技術は、新しい無線システムや新しいアプリケーションがどんどん導入されながら広がっていきます。

車載向けも同様に多機能化していくでしょう。しかし、製品がどれだけ様変わりしても、これまで述べた車載への理念、取り組みは変わることはありません。車載への理念に基づいて地道に、かつ丁寧に品質を作り込んでいくことができるかが最終の品質を左右すると考えています。

用語解説

*1 Bluetooth®:

携帯電話や携帯音楽プレーヤーの普及と共に広がった、最もポピュラーな近距離無線通信技術の一つ。通信距離は10m程度。

*2 対向デバイス:

対象となるデバイスと信号のやり取りをする相手のデバイス。

*3 ゼロデフェクト活動:

不良をゼロにしようという継続的な品質改善活動。

今後の車載用コネクティビティ技術

コネクティビティ技術は、今後も車の進化を支えるキーテクノロジーのひとつとなっていきます。今後の利用シーンとして、いくつかの例をあげます (図4) 。

これまでのBluetooth®では音声および車内での利用が中心でしたが、最近爆発的な伸びを見せるスマートフォンにはすでに標準的にWLAN機能が搭載され始めており、車載機器側にもWLAN機能を搭載することで、WLANシステムを使用したスマートフォンとの連携が可能になります。これによりテザリングでの外部ネットワークへの接続やスマートフォン機能をそのまま車載機器で制御・使用することも可能になります。

また、動画のストリーミングも可能になるでしょう。他の近距離無線システムでは、BLE (Bluetooth® Low Energy) やNFC (Near Field Communication) システムも注目されています。

これらの通信システムも今後標準的にスマートフォンに搭載されていきます。個人のスマートフォンがそのまま車のキーとなり、運転者が車に近づくだけで、ドアロックを解除し、ハンドル位置やシートポジションなどをその個人に合わせた設定にすることが可能になるかもしれません。

NFCは、「おサイフケータイ®」や「モバイルSuica®」に使用されている技術で、車内でのBluetooth®やWLANのペアリングを始めとする各種認証への応用が検討されています。これらは主にインフォテインメント用途での内容となりますが、車とネットワーク、車車間、路車間通信といった渋滞緩和、安全支援といった用途への無線化の検討も進んでいますし、多機能化により膨大となっている車内有線ハーネスの無線化なども今後検討されていくと考えています。

車載用途と言っても、インフォテインメントから「走る・曲がる・止まる」のセーフティまで幅広い用途があります。より高度な信頼性が必要となるセーフティの無線化には、さらなるブレークスルーが必要となりますが、車載用コネクティビティ技術は無限の可能性を秘めています。

Fig. 4 Implementation Examples for Automobile Wireless Connectivity

図4: 車載無線コネクティビティの利用シーン

おわりに

ムラタは、「コネクティビティで世界を楽しくつなぐ!」をスローガンに、いろいろな無線システムを手がけ、世の中にあるさまざまな機器にコネクティビティ技術を提案しています。これらは、今後の車載用コネクティビティが進展するためのベース技術となります。これからも、市場から求められる最適な車載用コネクティビティ・ソリューションをタイムリーに提供していくと共に、さらに、近い将来には、各種センサデバイスなど、すでに車載用製品として採用いただいている他の自社保有技術・部品との融合も視野に入れた魅力あるトータルソリューションも提案していきます。

用語解説

*4 テザリング:

スマートフォンなど通信機能を持つ端末を外部モデムのように使用して、インターネットなどの外部ネットワークへ接続させること。

*5 Bluetooth® Low Energy:

Bluetooth® version4.0で新しく追加された無線規格。従来のBluetooth®とは互換性はないが、1/10~1/20の消費電流での通信が実現できる。この規格に対応するデバイスには互換性に応じてBluetooth® Smart、あるいはBluetooth® Smart Readyのロゴが付される。

*6 インフォテインメント:

Information (情報) +Entertainment (娯楽) を組み合わせた単語で、娯楽要素を含んだ情報サービスのことを指す。