お客様に聞く

Automobiles Play an Increasingly Important Role in Our Social System. Growing Use of Electronics and Networking of Information Lead to Dynamic Evolution

渡邉 浩之/Hiroyuki Watanabe
特定非営利活動法人 ITS Japan 会長 博士(工学)

エレクトロニクス化が急速に進む今日、クルマも大きく"脱皮"しようとしています。
これからの自動車産業にとって、センサやネットワークの技術は必要不可欠。
CO2排出などのネガティブを克服し、社会システムを変えるようなポジティブ存在への転換、そのキーワードが"情報化"です。
ITSは、そんなクルマの未来を担う、ひとつの答え。電子部品の供給という面で、おのずとムラタさんへの期待も高まっています。

進むエンジンの革新 エネルギーの多様化と省エネが課題

パワープラントの革新が進んでいます。従来型の内燃機関に加え、これまでにHEV (ハイブリッド車) 、EV (電気自動車) が誕生しました。2015年には各メーカーから燃料電池車が登場する予定です。クルマを動かすにはなんらかのエネルギーが必要ですが、その多様化が進んでいるのです。地球上の自動車保有台数は、2010年に10億台を超えました。世界の人口は2011年現在で70億人、今後は発展途上国を中心に増え、2050年には92億人に達するとの予測もあります。人口増加とともに自動車保有台数も増えるので、プライマリーエネルギー (一次エネルギー) を多様化しないと、エネルギー需要を満たせなくなります。天然ガス、電気、その電気を供給する原子力、将来的には核融合の利用も考えられるでしょう。

一方で、省エネの技術も進んでいます。日米の一人当たりのエネルギー消費をみると、日本は米国の半分。日本は資源に乏しく、コストが高いこともあって、日本の製品はエネルギー効率の面で外国製品よりも優れています。クルマに関しても技術開発によって燃料消費の少ないものが開発されています。今後ともICT (Information and Communication Technology) が進展すれば、さらに省エネは推進されます。それにITS (Intelligent Transport Systems: 高度道路交通システム) が加われば、クルマ社会は大きく変わります。

クルマに任せられるところは任せる いよいよ自動運転が視野に

パワープラントの革新、エネルギーの多様化と省エネの次にくるのが、クルマのダイナミズムです。

ITSは、情報通信技術や電子制御技術を活用して交通の諸問題を解決し、生活の質的向上と経済発展を促進しようとするもので、アジア太平洋、南北アメリカ、欧州の世界3極体制で取り組んでいます。グローバルな動きには、3つの大きなテーマがあります。その一つが「高度運転支援システム (自動運転) 」。このテーマについては、すでにある程度まで研究が進んでおり、秋のITS世界会議東京2013では、実際に体験いただける予定です。

自動運転は、よくクルマが勝手に走るとか、ドライバーが要らないなどといわれますが、そうではありません。最終的な判断はドライバーが行います。機械に任せることができる機能を拡大し、安全で、快適で、優しい自動車社会をITSで実現していきます。例えば、前のクルマや周りのクルマとの情報交換です。前のクルマがブレーキを踏んだ、といった情報を後ろのクルマに知らせます。あるいは、道路とクルマとの対話もあります。先のカーブはどれくらいの角度で、どれくらいのスピードで曲がればよいかという道路情報を知れば、自動で減速する先読み運転ができます。インターチェンジなどの合流地点では、どの方向から、どれくらいの速度でクルマが来ているという情報を得て、追い越し車線に回避するのか、ブレーキを踏むのかという判断をクルマがやってくれる。

日本では、すでに高速道路の1,600ヶ所に「ITSスポット」を設置し、交差点での安全運転を支援する「DSSS (Driving Safety Support Systems: 安全運転支援システム) 」もすでに稼働しており、世界最先端のシステムが運用されています。

環境問題は国から都市間へ 世界の都市でCO2排出量削減を競う

二つ目は二酸化炭素 (CO2) の排出量削減。実は今世紀に入って、CO2排出量は世界的には増えていますが、日本や欧州では減っています。しかし、どの都市や地域で減ったのかはわかりません。それを可視化する技術が確立されようとしています。その区間を走る自動車のドライブモードからCO2排出量を算定し、その情報を地域で集約するわけです。

日本では各地方自治体が交通施策の中で、CO2排出量削減のためのエコドライブ等を推進したり、EVやHEVを導入していますが、排出量の可視化が進めば、都市や地域の間で競争ができます。対策を行うユニットがコンパクトになり、実効性が上がることが期待できます。それを世界レベルで結びつけていくことで大きな効果が期待できます。今後のITS世界会議では、ひとつのテーマになると思っています。

ITSスポット

交通安全、渋滞対策、環境対策などを目的として人とクルマと道路とをネットワークで結ぶのが次世代道路サービス。「ITSスポット」は、カーナビとETCを進化させて一体化させ、そのサービスに対応する通信手段として道路に設置されています。クルマ側の「ITSスポット対応カーナビ」との間で高速で大容量通信を行い、広域の道路交通情報や画像が提供されるなど、さまざまなサービスを実現しています。すでに日本では、高速道路を中心に全国1,600カ所にスポットを設置。実用化においては、世界の先頭を走っています。例えば、ITSスポットによって得た1,000km分の渋滞情報を基に、目的地に最短時間で到達できる「ダイナミックルートガイダンス」を実現。進路前方の落下物や渋滞の末尾情報、災害時の緊急メッセージなども入手できます。双方向通信は5.8GHz帯を使用し、これまでETCに用いられてきた通信を効率的に活用しています。

東日本大震災で活躍 プローブ情報を使った交通システム

三つ目は、防災対策。東日本大震災のときに、実際に活用されたシステムがあります。「プローブ情報」と呼ばれるものです。

今のクルマには速度計やブレーキ、ワイパーやエアコンなどを制御するセンサが備わっていますが、それらのセンサとカーナビと通信を組み合わることでクルマからの情報を集め、渋滞状況や天候の変化、危険個所などを把握できます。震災時に、自動車メーカー3社とカーナビメーカー1社のプローブ情報を集めたところ、どこでクルマが止まっているかという情報が、そこから、どの道を通行したかという情報が得られました。

さらに国土地理院から通行止め情報などを集めて統合し、通行できた道と通行止めの道をインターネットで配信したところ、この情報を基に、物流業者は物資を輸送し、国は救援部隊を迅速に動かすことができました。プローブ情報の有効な活用事例ですね。

これからのクルマの在り方 社会システムの中での存在意義

今までのクルマにはネガティブな要素があったことを認めなくてはなりません。渋滞を起こす、事故の危険と背中合わせ、CO2をまき散らす…。しかし、これらを軽減、なくすことができれば、クルマはネガティブなものからポジティブなものへと変わります。その転換において、ICTとITSの技術が大きくかかわっていくことでしょう。

人々はエネルギーを使います。しかし、そのピークレベルは違うはず。人々の情報がわかれば、余っているエネルギーを他に回すことができます。世の中にあるムリ・ムダ・ムラ。それを平準化して、捨てているエネルギーをうまく使うのです。発電するクルマのバッテリーがエネルギーの平準化に寄与する――。移動手段にとどまらない、こうしたポジティブな機能がどんどん生まれてくることでしょう。

10年前に予測された世界より、現在はもっと進んでいます。ICTの進化は、指数関数的に発展するといわれ、1,000ドルで買えるコンピュータの計算速度は、幾何級数的に速くなります。つまり、ICTやITSを取り入れたクルマは、これから相当変わるということです。

米国では、サイバーフィジカルシステム (Cyber Physical System) の研究が進んでいます。これは、現実の社会とサイバー空間のコンピューティング能力を組み合わせることで、社会にとって有益なシステムを構築しようというものです。センサやネットワークの発達に伴って、サイバー空間に実社会のビッグデータが取り込まれるようになったことで、新しい社会システムが構築されようとしています。

先に述べたプローブ情報のように、それを実現することができるのがクルマではないかと考えています。A地点からB地点に行くという機能を持ちながら、ICTの力を借りて高度化、高機能化する。まさしくサイバーフィジカルですね。これには、ムラタさんのセンサや通信の技術が役立ちます。これからも大いに期待しています。

世界の人口と自動車保有台数の予測

世界の人口と自動車保有台数の予測

(出所) 人口: 国連統計2006より。
自動車: (社) 日本自動車工業会2006年資料 (2006年保有台数) および (財) 日本自動車研究所「石炭起源自動車燃料に関する資源・環境・経済面の総合評価手法の開発調査」平成19年資料 (2050年予測) より。

文中の人口と自動車保有台数のデータ (トヨタ自動車)
2010年10億台のデータ (JAMA)
日米欧エネルギーの話 (NEDO)

プローブ情報

クルマに備わっているさまざまなセンサの情報に、カーナビ (車載機) に記録された走行履歴などの情報を加えて、情報センターに上げ、通信することで得られる情報。クルマを「走るセンサ」に見立て、渋滞状況や天候の変化、危険箇所などの情報を集めます。個々のクルマから集められる情報は少ないものの、数十万台からの情報を集約すれば、実際に動く交通内からのデータであり、人工衛星よりも高精度で広い範囲の情報を収集できます。なお、収集されるのは、カーナビに関する情報や走行位置、急な車両の動きなどの履歴情報で、プローブ情報から車両や個人を特定することはできません。

第20回ITS世界会議東京2013

カーナビやETC、交通情報サービスなど、ITSは世界中の人々にとって欠かすことのできない、身近なものとなりつつあります。そして今日、ITSは、次のステージに入りました。多大な情報を取り込み、データベースを積極的に活用し、周辺のシステムや技術と融合することによって、サービス領域を交通分野からさらに広げつつあります。ITS世界会議は、世界の有識者、政府関係者、関係企業が一堂に会し、研究発表、プレゼンテーション、展示、実地デモなどを通じて情報交換やビジネス機会の創出を図る複合イベントです。1994年に第1回が開催され、今回の東京会議で20回目の節目を迎えます。日本での開催は1995年の横浜、2004年の名古屋に続く3度目。毎年、アジア太平洋、南北アメリカ、欧州の3極持ちまわりで実施されています。

「東京2013」のテーマは、"Open ITS to the Next"

ITS世界会議東京2013は、次世代のモビリティを形作るべく新たなステージに入ります。これまで取り組んできた交通事故や渋滞などの課題解決に加えて、EVなどの出現によるエネルギーマネジメント分野との連携、ネットワーク化社会における新たなビジネス機会の創出、東日本大震災の教訓を生かした交通社会の実現、という3つの領域へ裾野を広げつつあります。キーワードは「Open」、ITSの可能性を開く4つの言葉を会議コンセプトの軸としています。

  • Open platforms
  • Open connectivity
  • Open opportunities
  • Open collaboration

■開会式: 2013年10月14日 (月) 会場: 東京国際フォーラム
■会期: 2013年10月15日 (火) ~18日 (金) 会場: 東京ビックサイト
■URL: http://www.itsworldcongress.jp/japanese/index.html

第20回ITS世界会議東京2013

Open ITS to the Next