薗田 聡/Satoshi Sonoda
執行役員 デバイス事業本部 本部長
1983年入社後東京支社、1987年Murata Electronics Singapore (Pte) Ltd.、1998年Murata Electronics North America, Inc.
へ出向し、営業、企画に従事。
2004年Murata Company Limited. (Hong Kong) 、2007年村田 (中国) 投資有限公司 (上海) 、2009年Murata
Electronics North America, Inc.への出向を経て、2011年執行役員 デバイス事業本部/副本部長に就任。
2012年より現職。趣味は、ランニング、サイクリング、読書。
自動車市場は、今後とも安定した成長が見込まれる。
世界を視野に入れる日本の自動車産業にとって、新興国市場は需要拡大で大きな成長が望める。
一方、先進国ではクルマの安全走行や事故防止につながるセーフティ機能の搭載が義務化されつつあり、EV
(電気自動車) やHEV (ハイブリッド車)
の登場により、新たな市場が創造され、電装化やエレクトロニクス部品の需要の拡大が見込まれる。
ムラタがカーラジオの部品供給を始めたのが40年以上も前のことで、以後、カーオーディオやカーナビなどエンターテインメントの分野では数々の実績を残してきた。
駆動系のタイミングデバイス事業でもセラミック発振子が25年前から採用され、今も安定したビジネスになっている。
これらの実績をベースに、どう攻めるか。クルマは、安全でなくてはならない。しかも、快適で楽しいものであることも欠かせない。
自動車産業が目指している方向、その視野の先にムラタの視点が重なっている。クルマに貢献できる日がついに訪れた。
これからのクルマは動くIT、情報の宝庫だ
いかに情報を集め、インテグレーションしていくか、
ムラタのセンサ技術が生きる、通信技術が役に立つに違いない
すでに40年以上の歴史、自動車産業との長年にわたる実績
自動車産業への部品供給の歴史は長い。カーラジオ用のセラミックフィルターがゼネラル・モーターズ (GM)
に採用されたのは1971年ごろ。まだムラタの知名度が低い時代に創業者の村田昭が米国に渡り、積極的な売り込みで採用された。自動車産業にかかわることは、大きな夢であった。米国に工場を建て、現地生産を始めて40年以上の歴史がある。
セラミック発振子は約25年前から自動車市場で本格採用され、現在も息長く安定したビジネスが継続している。タイミングデバイスといわれる部品で、電子制御回路の基準信号 (クロック)
源に使われている。カーラジオから始まり、エンジンコントロールにも使われるようになった。さらに汎用部品としては、積層セラミックコンデンサも広く自動車に使われている。
数年先を見据えた製品開発、情報のシステムインテグレーションに貢献
自動車市場は、民生機器市場に比べるとスピード感が違う。開発期間も5~10年と長く、自動車のライフサイクル自体も長い。われわれ部品メーカーでも、数年後をターゲットにした製品開発を行っている。納入先は、主にティア1といわれる自動車メーカーに直接製品を供給する電装メーカー。カーナビなどのメーカーは、車載情報端末メーカーから、車両情報のシステムインテグレーターを目指すという。
ムラタが貢献できる分野として、より将来的には、運転しているドライバーの生体認識も考えられる。ティア0 (自動車メーカー)やティア1
(電装メーカー) との協力が不可欠だが、ドライバーの状態を監視するために圧力センサで心拍をモニタリングしたり、車内の眠くなる要素である二酸化炭素 (CO2)
の濃度をCO2センサで計測するといった、新しいソリューションを提供すべく、開発を進めていきたい。自動車は動くITであり、スマート化はこれからも進んでいくに違いない。
クルマは安全が第一、得意のセンシング技術で貢献できる
現在ムラタは、ドライバーに対して情報を提供するために、情報を集めるセンシング技術で貢献している。PAS (パーキング・アシスト・システム)
に使用される超音波センサには圧電セラミックスが使われ、空気中に超音波を放射し、対象物に反射すると、センサに戻ってくる。この超音波の放出から受信までの時間を計測することで、対象物体までの距離を計算し、駐車支援を実現する。今後は、自動駐車システムや周辺障害物検知システム
(BSD: ブラインド・スポット・ディテクション) といったさらに高度化したインテリジェントセンシング用途に向けて検知距離の拡大に対応していく。
クルマの横滑り防止のESC (エレクトリック・スタビリティー・コントロール)
は、各国で搭載義務化の動きもあり、加速度センサやジャイロセンサ、2つを一体化したコンボセンサも開発し、多くの採用を目指している。米国では、TPMS (タイヤ・プレッシャー・モニタリング・システム)
が法制化されている。自動車のタイヤ空気圧を常時監視する装置で、タイヤ内部に送信機を内蔵したセンサを設置し、データを無線で送り、走行中のタイヤ空気圧と温度をモニタリングする。このTPMSの電池消費量を抑えるため、システムのWake
Up用途にムラタの加速度センサが採用され、急速に需要が伸びている。
PAS (駐車支援システム) 用超音波センサ
超音波センサは、距離計測システムや駐車支援システム、盗難警告システムをはじめとして、幅広い分野のキーデバイスとして欠かせないものとなっている。ムラタは長年にわたる独自のセラミック技術と超音波センサ設計技術により、量産性の高いピン端子タイプ防滴型超音波センサの小型化と高信頼性化に成功し、量産供給を開始している。防滴型超音波センサは主に駐車支援システムに使用されており、特に新興国市場での自動車需要拡大や駐車支援システムの搭載率増加に伴い、需要増が期待されている。防滴型以外には、開放型、高周波型の各種空中超音波センサを幅広い用途に提供している。
ティア0、ティア1、ティア2…
英語のTier (ティア)
は、「階層や段階」を意味する。自動車業界では、自動車メーカーに直接製品や部品を供給する一次請けの企業をティア1、その企業に製品や製品を構成するモジュールや部品を供給する企業をティア2と呼ぶ。さらに、ティア2に供給している企業はティア3となる。ティア0は自動車メーカーのことで、いわゆる完成品メーカー。一般的なガソリン車やディーゼル車、ハイブリッド車は、約3万点の部品で構成されており、その部品の多くがモジュール化され組立ラインに並べられている。モジュール化された完成部品は、ティア1が組立工場に直接納入。主な自動車メーカーは、ティア1だけでも100社以上の取り引きがあるといわれる。ティア1の中には、ティア0が資本参加する企業もあり、その多くは組立工場の近隣に部品工場を設置している場合が多い。ムラタはティア2やティア3に位置しているが、最近では部品が高度化、要求も高機能化しているので、ティア0やティア1からの情報収集が不可欠となっている。
ますます高度化、多機能化していくクルマ 超音波センサが駐車をアシストし、加速度センサやジャイロセンサが横滑りを防ぐ「走る・曲がる・止まる」機能にも必ず貢献してみせる
エンターテインメントから、「走る・曲がる・止まる」機能へ
従来、乗っている人が楽しめるようなエンターテインメントの分野で、ムラタは部品やモジュールを多く供給し、実績を残してきた。しかし、クルマは動くもの。「安全」ということが、これからのキーワードとなる。エンターテインメント、例えば、カーオーディオ関連。リアシートでのDVD再生、あるいは携帯電話や音楽端末のデータを無線で送り、再生するような通信技術は、ムラタの得意とするところだが、自動車の基幹である「走る・曲がる・止まる」という機能部分については、コンデンサやセラミック発振子以外は、なかなか採用にいたらなかった。
ムラタとしては2010年からの中期計画で、車載市場を新規開拓市場としてとらえ、「期待される新人」になるとの方針で、さまざまな提案をしてきた。2010年は、まだ12%ほどだった車載市場向け売上構成比も15%が見込めるようになり、最近では20%を目指すまでにいたった。
MEMS事業の拡大、タイミングデバイス事業の拡充
2012年1月に、フィンランドのVTI社 (現Murata Electronics Oy) を買収し、子会社化した。同社はESC用にMEMS (マイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム)
加速度センサ、MEMSジャイロセンサを量産しており、ムラタがMEMS事業を本格的に拡大する上で有用、と判断したものだ。
自動車市場向けには95%のシェアを持つセラミック発振子。タイミングデバイス事業としては、セラミックスよりも高精度の水晶を使用した水晶発振子の新製品開発も視野に入れている。発振立ち上がり特性に優れているセラミック発振子、高速で、大容量のデータ通信処理を行うために求められる高精度クロックを発振する水晶発振子。ティア0、ティア1の要求に応じた部品供給、品質や納期、技術サポート、コスト面で安定したサプライヤーとして自動車市場に貢献したいと考えている。
セラミックと水晶、二つの発振子技術でシェア拡大を目指す国内の営業体制を変えて国際的な体制も万全ティア0やティア1の要望をしっかりと把握できる体制が整った
国内体制を改編、期待に応える実力を示したい
国内では、新たに「車載営業部」を組織し、自動車関連メーカーへのマーケティングと専任販売の体制を作った。需要に関しては、北米は上向き、新興国では安定して増加している。特に中国、インド、ブラジルなどは需要が大きく伸びており、今後のインフラ整備に伴って市場拡大が見込まれている。特にデバイス関連では低燃費のエコカーの開発、安全システムの市場拡大によって、車載用の半導体市場が伸びている。
ムラタとしては、今後伸びる新興国市場、特に中国には現地でFAE (フィールド・アプリケーション・エンジニア) を育成し、ローカルでのサービス体制を強化する。欧米ではMurata Electronics
Oy製品の専任販売体制を整えていく。ESCでの高シェアを生かし、半導体関連の企業とも連携して、新しいソリューションを築きたい。何にも増して重要な品質については、センサ事業部に「品質保証部」を独立して設け、設計品質の向上と工程での品質管理、品質保証に全力をあげていく。民生機器とはやや市場は異なるが、必ずや期待に応えていけるものと信じている。
水晶発振子 HCR
さまざまな電子機器におけるICのクロック基準信号を生成する部品として使われている。車載用には、ECU (エレクトロニック・コントロール・ユニット)
内に用いられている。ECUはエンジン制御、トランスミッション制御などの駆動系から、ABS (アンチロック・ブレーキ・システム)
、エアバック制御などの安全系、メーター、エアコン、ワイパー、ライト、盗難防止などの車体制御系、その他、バッテリー監視制御、ナビやカーオーディオ、ETC、車載カメラ等の情報系など、自動車のあらゆる制御にかかわる部分に使用されている。ECUは通信で連動し、監視に用いられることも多く、連係機能を果たすECUも存在する。最近では、燃費改善のためのISS
(アイドリング・ストップ・システム) やEV (電気自動車) やHEV (ハイブリッド車)
が多く登場、モーター制御のためにECUの機能は高度化している。ムラタでは、セラミック発振子で培った優れた材料・設計・加工技術により、非常に小型な水晶発振子であるHCRを提供している。