Pick Up
Language
水野 健一/Kenichi Mizuno 執行役員 コンポーネント事業本部 EMI事業部長
1983年福井村田製作所入社。積層コンデンサの工法・商品開発、商品技術、製造技術などを担当した後、1995~2000年Murata Electronics (UK) Ltd.に勤務、2000年より商品技術を担当。 2009年11月より第2コンデンサ事業部長。一貫してコンデンサに携わる。 趣味はガーデニング。
自動車メーカーの要求をどうやって満たすか。 車載用製品はひとつ間違えれば人命にもかかわる。当然、要求はシビアにならざるを得ない。 次々と繰り出されるニーズに対して、製品づくりの観点からの提案を行い続けてきた。 10年先のクルマを見据え、日夜続けられてきた研究開発。 それが車載用積層セラミックコンデンサの大きな信頼につながっている。
車載用と民生用で、積層セラミックコンデンサの製品シリーズを明確に分けている。車載用の製品は、信頼性に対する要求が格段に厳しい。基本的な設計は同じだが、民生用では基本的に最高85℃までの耐熱要求に対して、車載用は125℃、150℃の使用環境に耐えられることを求められる。コンデンサは誘電体に電圧をかけて使うが、使用環境の温度が上がると、誘電体の中に存在する欠陥をより少なくするという技術が必要となる。つまり、材料からの設計が必要となり、不均一な結晶体にならないように作らなければならない。さらに、民生用と車載用では製品のライフサイクルが違うので、より長期間の使用に耐えられる耐久性が必要となる。コンデンサもずっと使い続けると、ある時点で壊れるときがある。その寿命が長くなるように設定し、車載用としてのより厳しい評価基準を設定し、管理している。このように車載用に関しては、信頼性、耐久性、安全性の確保に向けたさまざまな工夫を行い、民生用とは材料設計、寿命設計を変えている。
自動車は製品が市場に出るまでの時間が長い。今、検討しているのは、3年後、5年後に実用化する製品。従来はティア0といわれる自動車メーカーから直接要望をいただくことはさほどなかったが、最近ではクルマのIT化が進み、電装化率が向上してきたため、ティア0からもクルマ用の電子部品はこうあるべきという声が多く聞こえるようになってきた。もともとEVやHEVは、次世代に向けた戦略性の高い製品。市場に投入したら失敗はできないという思いも強く、電子部品の選択には細心の配慮が欠かせない。ティア0の立場から、かなり細かくティア1、ティア2に入り込み、こういう部品が欲しい、こういう使い方をしたいという議論が生まれた。ムラタもさまざまな協議を行い、ティア0の供給基準を満たす部品を作り出している。われわれのティア0とのコミュニケーションは、次の製品づくりに大きく役立っている。
静電容量により電荷 (電気エネルギー) を蓄えたり、放出したりする受動素子。「積層セラミックコンデンサ」は、誘電体セラミックスからなる誘電体と電極を多数積み重ねたチップタイプのコンデンサで、セラミックスが持つ大きな比誘電率などのメリットを生かし、小型で大容量を実現している。 「フィルムコンデンサ」は、誘電体にプラスチックフィルムを使い、温度による容量の変化が小さく高精度という特長を持つ。「アルミ電解コンデンサ」は、誘電体としてアルミニウム電極の表面に形成した酸化被膜を用いる。誘電体層が非常に薄いため、大きな容量を得ることができる。
クルマに搭載されるECU (Electronic Control Unit) が増加している。エンジン制御などのパワー・トレーン系、エアコン制御などのボディ系、ともに制御の内容が高度化、制御システムも増えたために増加傾向にある。90年代初めには30個程度だったものが、最近は50~60個に達するといわれている。増加に伴い、狭い個所にECUを収めるための小型化技術が重要になってきた。一つのECUにおいて使用される積層セラミックコンデンサは数十個から数百個。このECUの搭載が増えていることから、クルマ1台あたりに使用される積層セラミックコンデンサの数は1,000~3,000個に及ぶ。
例えば、車載機器の製造工程でプリント基板が曲がり、表面に実装されたコンデンサにも曲げの力が加わることがある。この時、外部電極とセラミックスの接続部でクラック (亀裂) が生じる恐れがある。このクラックによって、端子間がショートし、過電流が流れてしまう。故障したデバイスが発熱し、最悪の場合は発火にいたる。こうなると人命にかかわる事故を招きかねない。ムラタではショートを防止するために、セラミック端面の電極を導電性樹脂で覆ってから、表面にメッキを施した。この導電性樹脂がセラミックスと外部電極の間の応力を緩和し、クラックの発生を防止する。この他にも、コンデンサの外部電極にさらに金属端子を付加して基板から浮かせることで、クラックの発生を抑えた製品も車載向けに用意している。温度変化によってプリント基板が収縮や伸張したときの応力に対しても、金属端子の弾性を利用して緩和することでクラック発生を抑えている。セラミックスは焼物であるため、熱には強いが曲げや引っ張り応力には弱い。部品が大型になるほどクラックが発生しやすくなることから、大型の積層セラミックコンデンサは使わないという顧客も少なくなかったが、その問題を解決できたと思っている。
クルマの電装化、IT化が進むと、大電流を高電圧で流す用途も生まれてくる。いわゆる車載用のパワーエレクトロニクスという分野では、フィルムコンデンサやアルミ電解コンデンサが使われている。しかし、熱に対して強くない。そうした中で、車載用のインバータなど電力変換回路の高効率化、低消費電力化や小型化が可能な半導体としてシリコンカーバイド (SiC) が出てきた。SiCは高温でも動作できる特徴がある。そして、その周辺で使う部品にも高温対応が求められ、セラミックスに注目が集まっている。すでに大電流や高電圧に対応できる大型の積層セラミックコンデンサの研究は10年前から続けられており、実用化の段階に入ったところだ。ティア0は、車載用部品を限りなく小型軽量化したいと考えている。この要求に応えるべく、さらに小型、薄型の積層セラミックコンデンサの開発も進んでいる。例えば、薄型化を極限にまで進めるために、プリント基板へ直接コンデンサを内蔵する製品の開発が進んでいる。このように、大電流や高電圧の大型化の流れと、小型化・薄型化という両極がトレンドとしてある。今後、環境対策としてのEV、HEVの普及や、安全対策向上のためのADAS (先進運転支援システム)の拡大、さらにはインフォテインメントの充実によるIT化の進展などさまざまなクルマの進化が予想される。そうした中、積層セラミックコンデンサの役割はより大きくなっていくと思う。