図2は、素子あたりの粒子個数を変えることで素子あたりの粒界個数を変化させたサンプルの信頼性比較を示している。ここで言う粒界個数とは、素子厚み方向における数である。粒界個数の多いサンプルは絶縁抵抗が低下するまでの時間が長く、高信頼性であることがわかる。このように、粒界の信頼性への寄与は非常に高く、十分な信頼性を得るには、素子あたりの粒界数の確保が重要である。つまり、誘電体素子の薄層化に対応するには、主成分原料であるBaTiO3の粒子径を小さくしていく必要がある。
しかしながら、BaTiO3は粒子径を小さくしていくと、比誘電率が低下してしまい、所望の静電容量が得られない。一方で、BaTiO3粒内の信頼性を調べるため、作製プロセスを工夫して、粒子が誘電体素子の厚み方向において、一つしかないサンプルを作製した。この素子厚み方向に粒界を有さないサンプルは極めて信頼性が低いことが確認できた。そこで、粒界だけに頼らずに、さらに信頼性を向上させるには、粒内の改質が有効であると考えた。
実際に、図3に示したように、BaTiO3のBaの一部をCaで置換した (Ba,Ca) TiO3を主成分原料に採用することで、信頼性の大幅な向上を達成した。粒内の改質効果を確認するため、上述と同様に、素子の厚み方向に粒界を有さない (Ba,Ca) TiO3サンプルを作製して評価したところ、信頼性の向上を確認できた。すなわち、狙い通り、粒内改質によって信頼性が向上したといえる。なお、Ca置換による信頼性の向上は、Ca置換量を変更した各種サンプルの格子定数の変化と絶縁劣化にいたる活性化エネルギーの変化から、Ca置換による格子の収縮によって、故障の原因である酸素空孔の移動が抑制されるためと推測した。
このような知見のもと、誘電体素子の薄層化に対応した高信頼性の材料の開発を成し遂げた。