特集 カーエレクトロニクスの未来

New Age Automobiles, Dreams about Car Life of the Future

インテリジェント化が進む身近な乗り物

今のクルマの原型ともいえるガソリン自動車が登場したのは、19世紀後半のこと。
それから1世紀余り、クルマは移動手段として、楽しい乗り物として、人々の心をとらえてきました。

クルマの基本は、「走る・曲がる・止まる」という3つの機能。
そこにエレクトロニクスが導入され、情報を検知して伝えるセンシングの機能とネットワークの機能が加わったことで、クルマはあらゆる部分で情報を収集し、情報を発信するシステムへと変貌を遂げつつあるのです。

例えば、前後を走るクルマの情報を収集するだけでなく、自らの位置情報や制御情報などを伝えて事故防止につなげる…。広く社会にも貢献できる「インテリジェント・ビークル (知能を持った乗り物) 」へと進化しようとしています。

でも、エレクトロニクスとの出合いは始まったばかり。
安全で、快適で、手軽な操作で、環境にも優しいビークルへ。
クルマは新時代に向け、走り出しました。

人々の暮らしに大きくかかわるクルマ 安全性・快適性、そして素敵な「夢」も、エレクトロニクスが担う

今まさに扉が開く、インテリジェント・ビークルの世界

クルマにとって、エレクトロニクスがもたらす革新とは、より安全に、快適に移動できる乗り物としての価値を高めること。そして、環境問題への対応を促進すること。さらに、ドライブを楽しむというエンターテインメントの要素もクルマは持ち合わせています。安全に、快適に、そして楽しく! これからのクルマには、人々が描く「夢」が詰まっています。新しいクルマ社会は、インテリジェント化によってその扉が開かれようとしています。

安全

クルマにとって、安全は最も大切な要素。エアバッグやブレーキ、ステアリング制御などへの利用はもちろん、危険を事前に察知してドライバーに知らせる、といったこともエレクトロニクスの仕事。例えば、夜間走行時に歩行者の存在を知らせる機能の実現においては、イメージセンサと、画像処理技術や通信技術が活躍。インテリジェント化によって、見えないものを見えるようにする。これからの、安全性の向上の決め手です。

環境

今日のクルマにとって、環境問題への対応は不可欠。空気を汚さないための技術や低エネルギーで駆動する省エネの技術が注目されています。そのポイントは、燃費向上と車両軽量化。エネルギーの使用効率向上とCO2排出量の削減は、これからの社会において共通のテーマです。HEV (ハイブリッド車) やEV (電気自動車) 、燃料電池車へと、エレクトロニクスがクルマの環境問題への対応を進めています。

快適

快適なドライブの実現によって、ドライバーの負荷は大きく軽減され、ストレスのない運転が可能となります。例えば、レーダーによって自動的に車間距離を保つ。あるいは、カメラでドライバーの顔の向きを検知し、わき見運転に対して警告を発する。その他、移動中の車内の空調、音楽や映像の無線でのやりとりなど、居心地の良い空間づくりのために、エレクトロニクスが活躍しています。

自動

インテリジェント化の進むクルマは、「自動運転」への道を歩んでいます。例えば、車車間のデータ通信や交通インフラからの道路情報の取り込みによって、自動的にエンジンやブレーキを制御する。あるいは、自動的にハンドル操作を行って車庫入れや車線変更をする。これらの中核技術は、センサや通信ネットワークです。今後は、いかに人々の信頼を勝ち得ていくか、それが自動車産業にとっての課題です。

ガソリン機関の自動車が発明されてから約130年。クルマは、それぞれの時代の技術に多大な影響を受けながら発展し、人々とともに走り、人々の生活と密接にかかわってきました。革新的な技術は一つひとつ現実のものとなり、いつの時代にも名車といわれるクルマが誕生しています。そして今、「インテリジェント化」によって、クルマが人々の暮らしにもたらす「夢」は、さらに大きく広がろうとしています。

インテリジェント・ビークルの実現

Column 車輪の歴史

新しいクルマの世界がやって来る そこに、ムラタのインテリジェント化デバイス群

安全で快適なドライブができるクルマ、人と地球に優しいクルマを目指し、エレクトロニクス化への取り組みが進んでいます。ムラタは、セラミックスが持つ耐熱性を生かした信頼性の高い電子部品を開発、エンジンの電子制御やメカニズムとの一体化を目指す「機電一体化」にも対応。

ECU (Electronic Control Unit) の小型化を支える高信頼性部品によって、省エネにも貢献しています。温度環境や耐用年数など、厳しい使用条件に耐え得るデバイス生産のために、ハードとソフトの技術を結集した総合的なモノづくりへ。ムラタ独自のセンサとネットワークの技術によって、これからのクルマは情報機器へと変貌します。可能性に満ちたクルマの未来─インテリジェント化の扉が開こうとしています。

クルマのインテリジェント化に貢献するムラタの電子部品

センシング部品

超音波センサ
Ultrasonic Sensors

長年にわたり培った独自のセラミック技術と超音波センサ設計技術により、防滴型の超音波センサの小型化と高信頼性化に成功しました。車載用途では、駐車支援システムに採用され、搭載率の増加とともに大きな需要の伸びが期待されています。

ショックセンサ
Shock Sensors

加速度 (衝撃) を電気信号に変換する部品。本来はハードディスクのショック検知ために採用されていたセンサ。車載用途ではタイヤ空気圧監視システム (TPMS) やエアバッグのバックアップセンサとしても利用されています。

環境対応部品

PHEV・EV対応安全規格認定コンデンサ
Safety Standard Certified Capacitors for PHEV/EV

プラグインハイブリッド車 (PHEV) や電気自動車 (EV) は、外部電源 (車) から直接充電するため、コンデンサは高電圧サージを受ける可能性があります。それに耐えるのが安全規格認定コンデンサで、車載用途では業界で初めて製品化。温度サイクル1000サイクル保証※などの高い信頼性も得ています。

大電流対応積層セラミックコンデンサ
Monolithic Ceramic Capacitors for High Current

セラミックコンデンサは、フィルムコンデンサやアルミ電解コンデンサに比べて小型化しやすく、高温に強いといった特徴を持っています。そこで、低ESR化、高耐圧化、大容量化を進め、パワーエレクトロニクスの分野にも対応できるようにしました。大容量化により他のコンデンサの代替部品とすることができ、新たな市場開拓が期待できます。

通信モジュール

コネクティビティコンボモジュール
Connectivity Combo Modules

Wi-Fi®とGPS、Bluetooth®とGPSなどを組み合わせたコンボモジュール。2013年にはBluetooth®とWi-Fi®のコンボも登場します。車内でスマートフォンやタブレットとリンクすることで、クルマのネットワークはさらに充実します。

MEMSセンサ

加速度センサ
Accelerometers

マイクロマシン (MEMS) 技術を基本に開発したセンサ。重力・振動・動き・衝撃を測定することができ、クルマへの応用は多岐にわたります。横滑り防止装置 (ESC) やアンチロック・ブレーキシステム (ABS) など、クルマの基本性能にかかわる部分にも導入されています。

傾斜センサ
Inclinometers

多くの国では、リフトやクレーンの傾斜測定が法的に義務付けられています。傾斜センサは、地球の重力に対して垂直あるいは水平からのずれ (傾き) を測定し、事故防止や安全性確保に役立てるもので、クルマへの応用展開も進んでいます。

ジャイロセンサ
Gyro Sensors

回転が生じたときに発生する角速度 (回転の速さ) を測る慣性力センサで、角速度を電気信号に変換します。カーナビの自動航法や位置検出精度の向上のために使用され、また加速度センサと組み合わせて横滑り防止装置 (ESC) にも採用されています。

Special Interview クルマから見たエレクトロニクス

Modern Electronics Supports Automotive Technology to Allow Drivers to Enjoy Driving by Improving Car Safety / Seiji Tanaka, Editor in Chief, Car Graphic magazine

1975年東京生まれ。材料を専攻する理系の学生だったころ、田舎暮らしでクルマに目覚め、自動車のエンジニアになろうと思っていたが、先輩が大企業に就職して専攻以外の仕事に就いたのを知り、とにかくクルマだけにかかわりたいと「カーグラフィック」の編集記者に。2000年より輸入中古車専門誌「UCG」編集長として雑誌創刊を経験後、2003年「カーグラフィック」に復帰、2010年より同誌編集長。思惑通り、クルマざんまいの日々を送っている。

創刊50周年を迎えた自動車専門の月刊誌「カーグラフィック」。新車の紹介だけではなく、厳正中立なクルマ評論と批評、海外取材に基づく情報をベースに、美しい写真で誌面を飾るというのが編集方針。この日本を代表する自動車雑誌は、クルマのエレクトロニクス化をどうとらえているのでしょうか、田中誠司編集長にお話を伺いました。

エレクトロニクス化は1980年代後半から

クルマがエレクトロニクスの恩恵を受けはじめたのは、1980年ごろ、ブレーキを踏んだ時の車輪のロックを回避するABS (Antilock Brake System) 導入あたりから。その後、アクセルを踏んでもタイヤが路面をつかんでいなければ加速しないTCS (Traction Control System) が登場。クルマが曲がるときの姿勢を安定させる横滑り防止装置ESC (Electronic Stability Control) は、欧米で普及が進み、日本でも2010年12月には、装着が義務化されました。こうして1980年代の後半から、市販されているクルマにもエレクトロニクスによる制御が浸透してきました。

マイコン統合が進み集中制御へ

クルマの機能を個々に制御していると、すべてにCPUが必要となります。一時期は数十個もマイコンが搭載されていたこともあり、コスト低減や配線の省略化、部品点数の削減などを求めて統合化が図られました。こうした統合化の進展によって、システムレベルの安全性が部品に要求され、それが実現できたからこそエレクトロニクス化が進みました。今は、カーナビの画面からエアコンがコントロールでき、クルマの足回りの制御も可能。ネットワークの技術によって、ドライバーはセンターコンソールの画面を見れば、クルマがどういう状態で、どういう動きをしようとしているのかが判断できます。21世紀に入ったころには、コンセプトカーの技術だったものが、信頼性を向上させ、安全を確保して一般車にも導入されています。

サプライヤー技術の向上と横の広がり

自動車メーカーもしかりですが、エレクトロニクス化はティア1やティア2などの部品サプライヤーの貢献が大きい。例えば、危険を察知して自動ブレーキをかけるシステムは、あるメーカーが採用すると後を追って他のメーカーにもまたたく間に広がります。サプライヤーがその技術を確立し供給しているからで、技術の横の広がりが早い。そうなると、同じようなクルマが増えると考えられがちですが、そうはならない。自動車メーカーにもこだわりがあるからです。デザインやブランド、走りやスポーティ感といったイメージ戦略、それに開発者のこだわりも出てきます。

「走り」の楽しみは安全デバイスのおかげ

クルマの「走り」の楽しみの一つはパワーですが、昔では考えられないような馬力のクルマに乗れるようになりました。かつて日本自動車工業会は、安全のためにエンジンの最高出力を280馬力として自主規制していましたが、今は300馬力や500馬力以上のクルマでも乗ることができます。その背景には、安全デバイスの発達があります。パワーがあっても最終的には安全が担保されているからこそ、今のような走りが可能になったのだと思います。例えば、タイヤが滑ってもぎりぎりまで許してくれるクルマと、滑りそうならすぐに止めてしまうクルマ。滑りはじめたタイヤを止めるのは簡単ですが、それでは楽しくない。滑っている状態でアクセルもハンドルも操作できるほうが楽しい。これは、ぎりぎりの技術ですね。研究には手間がかかり、滑りはじめたタイヤを止めるより何倍も難しいけれども、走りにこだわるメーカーはぎりぎりの技術を持っています。同じメーカーでも車種によって違います。こういうテイストの違いには、やはり、担当開発者のこだわりのようなものを感じます。

クルマの未来、自動運転はどこまで進む

今後のポイントは、自動運転がどこまで進むかです。理論的には確立されているといわれていますが、まだ信頼性の確保ができない。現状では、責任はドライバーが持つのが常識ですが、それは自動運転という概念がなかったから。これからは、例えば保険の考え方など、社会のシステムや人々の観点も変えなければならない。はたして自動運転で安全になるのかという議論も生まれます。ただ、いえるのは、エレクトロニクスの導入なしには、ここまでのクルマの進歩はなかったということ。走りの魅力にしても、安全性の確保にしても、エレクトロニクスがクルマの未来を大きく支えていくのは間違いないでしょう。