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あらゆるデバイスがネットワークでつながる 拡大するEMI対策のニーズ、答えは見えはじめている

あらゆるものがネットワークでつながる社会。機器間の通信が当たり前となり、スピードが上がり、通信量が増加する。通信の高密度化は、基板内や機器間でのノイズ干渉を高め、通信障害を引き起こすため、ノイズ対策についてのニーズも増えてくる。ノイズの抑制と、高速通信回路の動作安定化を図るインダクタがEMI事業のかなめ。市場拡大が期待される中で、新たなマーケットへのチャレンジを行う。

水野 健一/Kenichi Mizuno
執行役員 コンポーネント事業本部 EMI事業部長

1983年福井村田製作所入社。積層コンデンサの開発、製造技術、商品技術などを担当し、1995年~2000年英国工場にも勤務。
2009年11月より第2コンデンサ事業部長、2012年7月執行役員、2013年7月よりEMI事業部長。
趣味はガーデニング。

ムラタのノイズ対策はコンデンサの機能を利用したフィルタからスタートした。
やがて、巻線技術によりインダクタも製品化。
フェライト材料技術や、積層技術を駆使してラインアップを充実させてきた。
新しいターゲットはクルマ、エネルギー分野にも通用する「高信頼・高パワー化」。
未来市場にも視野を広げ、高まるニーズへの対応が強化されている。

市場のニーズに応じ いろいろなノイズ対策部品を製品化

ノイズ対策部品は、貫通型コンデンサの機能を利用したノイズフィルタからスタートした。その後、1960年代に日本でカラーテレビ放送が開始され、IC電卓が発売されるのにともない、コンデンサタイプのノイズフィルタのバリエーションを増やしていった。

70年代の半ばには、ノイズ対策部品以外の領域として、巻線型の「チップインダクタ (チップコイル) 」を製品化。このインダクタ技術により電源用フィルタとの複合商品も作った。80年前後には、パソコンやゲーム機器の普及によりノイズが社会問題化し、ノイズ規制が強化される中で、高い周波数のノイズ対策に対応するフェライト材料を使った「リード付フェライトビーズ」を製品化した。80年代半ばごろには、ノートパソコンなど機器の小型化要求に対応するため、チップ型のフェライトビーズや3端子コンデンサも登場した。90年代後半には、高精細画像データなど大量の情報を伝送するために高速差動伝送方式が普及してきた。これに対応すべくチップインダクタからは、さらにノイズ対策部品の一つである「コモンモードチョークコイル」も派生している。

このように、ムラタのEMI事業はコンデンサ型のノイズ対策部品からスタートし、インダクタを事業として加え、さらにインダクタ技術を生かしたノイズ対策部品も増やして成長してきた。

主力はノイズで2種 インダクタでも2種

ノイズ対策部品で主力となっているのは、周波数の違いによってノイズを分離するフェライトビーズと、ノイズの伝導モードで分離するコモンモードチョークコイル。共にインダクタ型のノイズフィルタである。

インダクタも、大きく電源系と信号系の2種類に分類できる。一つは、電源とICをつないでいる個所で、ICを駆動するための電源回路に使用される「パワーインダクタ」。もう一つは、無線機器など高周波信号のやりとりをするときに使う「RFインダクタ」である。

例えば、1台のスマートフォンの中には、こうしたノイズ対策部品やインダクタなど、信号受信や電源安定化のために働く部品が、およそ100個は入っている。ムラタは、これらの製品を実現するために、巻線工法、積層工法、薄膜 (フィルム) 工法といった3種類の製造工法を有し、求められる特性・性能に応じた最適な製品設計を可能にしている。

チップフェライトビーズ

コイルのように巻かれたものではなく、磁性材料であるフェライトでできたビーズ (円筒形) の中にリード線を通した形状のものが「フェライトビーズ」。フェライトシートにコイルパターンを印刷し、積層しながらコイルパターンを構成し、一体化させ焼成することにより、立体的なコイル構造を実現しているのが「チップフェライトビーズ」。内部をコイル構造にすることにより、大きなインピーダンスを得ることができるようになった。構造は積層タイプのチップインダクタと基本的には同じだが、使用しているフェライト材料がよりノイズ対策に適したものである点が異なる。

コモンモードチョークコイル

ノイズの伝導には、信号ライン間や電源ライン間に発生し、2本のライン間を互いに逆向きに流れるノーマルモード (ディファレンシャルモード) と、信号線・電源線・グランド線などの種類に関係なく、すべてのラインを同じ向きに流れるコモンモードがある。このコモンモードにだけ働くフィルタが「コモンモードチョークコイル」。信号とノイズの周波数が重なっていても、伝導モードが違えばノイズだけを除去することが可能。構造はコアに2本の導線を巻いた状態で、巻き方向は反対方向。コモンモードの電流が流れると、発生した磁束は同じ方向になるため、お互いの磁束が足しあわされる仕組み。

コモンモードチョークコイル

未来を創造すべく、"未来がありそうなところ"にしっかりと目を向け、リソースをかけていく

さまざまな機器間の通信が当たり前の世界 役割が大きくなるEMI製品

今後、EMIの製品群は、さらなる需要の伸びが期待できる。最近、IoT (Internet of Things) という言葉を耳にするが、あらゆるものがインターネットを通じてつながることで実現するサービスやビジネスモデルが注目されつつある。従来のパソコン、サーバー、携帯電話、スマートフォンのほか、ICタグ、ユビキタス製品、組み込みシステム、各種センサーや送受信装置などがM2M (Machine to Machine) で相互に情報をやりとりできるようになり、新たな価値をともなうネットワーク社会を実現すると予想されている。その流れの中で、電子機器におけるノイズ対策部品の需要は、おのずと増加傾向にあるといえる。

IoTの社会では、あらゆるものがつながり、コミュニケーションし、制御される。通信が当たり前となり、通信スピードが上がる。スピードが上がれば通信量が増え、ノイズ抑制のニーズも増える。HEMS (Home Energy Management System) 、BEMS (Building Energy Management System) や、交通システムの高度化、スマートコミュニティ、ウェルネスなどなどさまざまな領域で期待が膨らむ。もちろん、ノイズ対策部品だけではなく、コンデンサもインダクタの需要も増える。

モバイルからクルマ、エネルギーへ 「未来市場」もターゲット

EMI事業において、二つの大事にしたい市場がある。一つはモバイルを中心とした小型高密度なコンシューマー電子機器の領域。もう一つは、クルマを中心としたカーエレクトロニクス、ならびに通信インフラ系など産電系の市場。ムラタはモバイルやコンシューマーの比率が高く、これはしっかりと継続していきながらもう一つの柱を強化していく。さらに、環境問題ともつながるエネルギー関係の市場、メディカル・ヘルスケアなどの医療系の分野にも注目している。規模は大きくないが、人工衛星や打ち上げ用ロケットも面白い市場。一つひとつの部品が故障しないという、より高い信頼性が求められる。クルマや産電系ではより高い電圧・より大きな電流に対応する高パワー化も必要。ニーズに適合する設計や評価と生産の方法、製品の検査方法など、多くを市場のニーズにあわせて変えていく必要がある。もっとユニークな作り方をしなければならないと思う。

さらに、二つの市場に加えて、中期計画では「未来市場」を視野に入れている。すなわち、未来において市場が形成されるようなものを、漠然とではあれ想定する必要がある。明確ではなくとも、“未来がありそうなところ”にしっかりと目を向け、リソース (資源) をかけていく。そのためには、公的・民間の研究機関との連携、今よりも上のレイヤー (産業の階層) との付き合いをめざして努力していく。

EMI (Electromagnetic Interference)

日本語では「電磁障害」。EMI (除去) フィルタとは、電磁障害を除去するための部品のこと。近年、身の回りに電気電子機器があふれるようになり、それにともない、多くのデジタル回路が使われるようになった。デジタル回路には高周波の電流が流れているため、この電流が基板配線やケーブルの中を通ると、その経路がアンテナの役割を果たし、電波が放射される。近くに他の電気電子機器があった場合、この電波が悪影響を与えることが懸念される。例えば、ラジオのすぐ近くにパソコンを持ってくると、ラジオの音に雑音が入ることがある。この原因は、パソコンのデジタル回路で発生したノイズで、これが電波となってラジオ受信機のアンテナに入り雑音となる。強い電波がデジタル回路に入り込むと、デジタル信号の波形が変わり、デジタル回路が誤動作することも考えられる。ノイズの問題は空間を伝わる電波だけでなく、信号/電源ケーブルなどでつながっている機器同士でも発生することがある。