お客様に聞く

5G時代は目前、新しいネットワーク社会が生まれつつある今、災害時にも通信を確保する、安心安全な企業を目指す それが、地域ナンバーワンへの近道

永田 清人 氏 /Kiyohito Nagata
株式会社 NTTドコモ 前 常務執行役員 関西支社長
株式会社ドコモCS関西 前 代表取締役社長

通信事業者としてナンバーワンを目指す。ただし、単なるシェア争いではない。
追い求めるのは、より良い「通信環境」と「安心安全」を提供すること。
南海トラフ巨大地震など、災害時の通信について模索し、どんな環境でも可能な通信を提供すべく、技術力を磨く。
5Gの時代はまもなくやってくる。ビジネスが、マーケティングが変わる可能性がある。
人と人とをつなぐネットワークに加えて、モノをつなぐIoTの分野へ。
「関西からドコモを変える」という意気込みに、期待が寄せられている。

通信環境と安心安全の両面で、ナンバーワンのネットワークを

関西ではナンバーワンのネットワークを自負しています。それには二つの側面があって、一つは通信環境が良い、エリアが広いということ。もう一つは、安心安全のネットワークであるということです。ドコモは災害対策には先手を打っています。日本の通信事業者の中では最もしっかりやっていると自負しています。特に力を注いでいるのが地震対策。関西ではかつて阪神淡路大震災がありましたが、近い将来、「南海トラフ巨大地震」が起こるとされています。そうなれば、地震による被害はもとより、大阪や神戸、淡路島、和歌山など沿岸部では、津波による被害が起こると想定されています。

その対策をどうするのか。いかに通信を確保するのかということが、ドコモの課題です。中継基地局が破損すれば修復しに行かなければなりませんが、状況によっては現地へ赴くことができないかもしれません。そこでハザードマップを基に、関西の沿岸部に位置する基地局の中から、最大の津波に襲われても流されない35カ所を選び、次の三つの対策を行っています。

災害時に備えた三つの対策、万が一でも96%の通信を確保する

基地局のアンテナは光ファイバーでつながっています。もし、災害時に津波で道路が流されたり、電柱が倒れたりすると、そこに埋められた光ファイバーや張り巡らされた回線が切断されてしまいます。こうした場合の対策として、まず、「マイクロ波無線の稼働」を考えています。マイクロ波無線は、広帯域の信号を伝送できるので、テレビや多重電話などの中継伝送に用いられています。このマイクロ波無線を、見通し距離約50kmごとに基地局を設けて増幅中継していきます。現在すでに、両方が稼働していて、万一に備えています。

対策の二つ目は、「アルコールで稼働する燃料電池」の用意。電波を飛ばすためには電気が必要です。電力は飛ばせないので、アルコールで3日間動かすことのできる燃料電池を用意しています。つまり、災害から3日のうちにアルコールを届ければ、通信は途絶えないということです。

三つ目は、「通信エリアのコントロール」。通信が生きていて、基地局がネットにつながっていれば、遠隔でコントロールすることができます。電波を上空に向けて発信すれば遠くまで電波が届き、エリアを広げることができるわけです。普段はアンテナが干渉するので、下に向けていますが、災害時にはエリアをコントロールして被災地の方々が使えるようにします。

こうした対策で、南海トラフ巨大地震の際にも96%のユーザーの通信を確保しようとしています。平常時のようにスマートフォンがサクサク動くわけではありませんが、「災害伝言板」や「災害用音声お届けサービス」のようなものは十分に動きます。

関西においては、和歌山や奈良などの山林地区で、川の氾濫で浸水被害などが起きるケースもあります。こうした場合にも、同様の仕組みを用いて通信を確保するように考えています。“何か困ったことが起きたらドコモ”といわれるように、安心安全の面でナンバーワンの取り組みを行っています。

2020年には5Gを稼働、IoTが現実のものとなる

ドコモでは、2020年頃からの5Gの実用化を目指し、実験を重ねています。2020年といえば、東京五輪のある年。IoT (モノのインターネット) も含め、そのタイミングを計っているところです。5Gの世界になると、IoTが飛躍的に伸びてくると思います。いろんなモノの自動化、すでに町中の自動販売機をネットワークでつなぎ、遠隔操作で在庫や金銭の管理を行っています。健康管理の面では、身に付けたウェアラブル機器から情報を得るだけではなく、スポーツジムのトレーニングマシンのデータ、血圧計や体重計などからの生体情報など、NFC (近距離無線通信) を通じて統合することも可能です。今後はクルマの自動運転にも5Gが使われる可能性があります。

すでに、各地で稼働している太陽光発電でも、発電量をコントロールしている装置をネットワークでつなぎ、遠隔で操作して最も効率の良い発電を行うシステムを提供することも考えています。故障の個所もわかり、メンテナンスの無駄も減ります。

次のターゲットは、
ネットワークをコアにした新しいビジネス

メーカーはすでにモノを売る時代から、“ネットワークを介してサービスを売る”時代に入っています。ハードが寿命を迎える前に、予兆メンテナンスができるようになると、ビジネスとしては新しい提案ができます。例えば、飛行機やクルマであれば、どういう速度でどういう動かし方をすれば燃費が伸びるか、収集したデータから類推する。あるいは、どういうルートで進めば必ず時間通りに着くとか。今後はそういうサービスを提供するビジネスの時代になるでしょうね。

ドコモも、そういったビジネスを一緒にやらせていただきたいと考えています。通信によってモノを管理するプラットフォームは持っています。東日本大震災の時に、契約者情報をベースにどこで通信が行われているかをマッピングしたことがあります。すると、通信の状況によって、被災した道路や地域で人々が活動しているところ、活動していないところがわかります。こうした情報は、自治体の都市設計に活用できます。公共の建物や道路、新しい駅などをどこに造るか検討する際、有用な情報となるでしょう。

IoTが実現すると、ビジネスが飛躍的に変わる可能性があります。販売されたモノがどこで使われているか、どれくらいの期間動いているか、リアルでどのように使用されているかがわかると、マーケティングが変わるかもしれません。

世界を視野に疾駆する、技術のムラタへの期待

通信技術の進化は10年サイクル。だから、5Gの次は6Gになるでしょうね。かつて私が技術に携わっていた頃、携帯端末に周波数帯を一つ増やすのは大変でした。それが、今はいくつもの周波数帯に対応し、周波数帯を束ねて通信したり、その空きを探して通信したりしています。

こうしたことも、ムラタさんのようなデバイスメーカーが安くて品質の良い部品を作っているからこそ可能になっており、5Gの技術を支えてくれると思っています。ムラタさんは、昔から技術を重視し、技術力をもってグローバルな展開をしてきました。世界を視野に活動する、この点がドコモには決定的に欠けています。3Gの時代までは、国内の通信のことを考えていればよかったわけですが、これからは世界標準が販売の決め手になります。ずいぶん以前からグローバルな視野のもとで技術力を磨き、世界の動きを見据え、ビジネスのチャンスを逃すことなくものにしている点には感心します。米国が4Gの時代で先行した時には、すでに米国の製品の中にムラタさんの部品が搭載されていました。すごいなと思いましたね。

厳しい関西の市場、この地からドコモを変える

2015年6月から2016年6月までNTTドコモの関西支社長とドコモCS関西の社長を兼務しました。ドコモCS関西は、営業を中心にコールセンターやネットワークの管理と保守を行い、直下には支店も擁しています。関西支社長がその代表を兼務するようになって、風通しは良くなり、情報の統一、共有化も進みました。法人営業は、大手はNTTドコモ支社、中小はドコモCS関西が行いますが、最終的な代表者は同じなので、お客様が混乱することもなくなりました。

よく言っているのは、「ドコモは関西から変わる」「ドコモを関西から変える」ということです。関西は厳しい市場で、全国と同じことをしていると負けてしまう。逆にいえば、ここで成功すると、全国でも通用する。新しい施策、新しい売り方などを積極的にあみ出すなど、どんどんと新しいことにチャレンジしていく必要があります。

信条というか、自分自身に言い聞かせているのは、51%成功すると思ったらやってみる、やらなければ後悔するということ。商品企画とか、セールスプロモーションとか、何かにトライする時にはそのように思ってほしいですね。関西はまだまだ元気です。

ドコモの5G (次世代移動通信システム)

ドコモでは、2020年の実用開始を目指して「5G」の研究開発に取り組んでいます。一例をあげると、人々が密集したイベント会場や大都市エリアで、4K/8Kなどの動画ストリーミングを快適に楽しめるようになります。

飛躍的な性能アップ

2020年代の情報社会では、移動通信のトラヒック量は2010年と比較して1,000倍以上に増大すると予測されています。5Gでは、さらにさまざまな未来のアプリケーションに応えるため、10Gbpsを超えるような超高速データレートや低遅延化、超多数の端末接続のサポートといった幅広い要求条件を考慮した研究開発を進めています。

飛躍的な性能アップ

ドコモの5G技術コンセプト

5Gが目指す飛躍的な性能アップを実現するためには、複数の技術アプローチを相互補完的に導入し、それらによる高度化が必要となります。例えば、 (1) 周波数の利用効率を改善する無線技術、 (2) 幅広い周波数帯を有効利用する技術、 (3) 高密度なスモールセルを効率的に運用するための技術など。特に、電波の波長が短く、遠くに飛ばない高い周波数帯は、高速・大容量化に必要な広い周波数帯域幅の確保には適しているものの、通信の安定性確保が困難であり、従来では移動通信に適さないものとされてきました。ドコモの考える「5G技術コンセプト」は、このような高い周波数帯を従来の低い周波数帯と組み合わせて用いることにより、通信の安定性を確保しつつ、100倍の高速化、1,000倍の大容量化を実現することを目指しています。

ドコモの5G技術コンセプト

5Gで有望な無線伝送技術

ドコモは、5Gの実現に向けて「ファントムセル」と「Massive MIMO」という技術の組み合わせを提案しています。ファントムセルは安定した高速通信を、Massive MIMOは高い周波数帯の有効活用を実現します。なお、ファントムセルはすでに携帯電話の標準化プログラムである3GPPで関連技術の標準化が進められています。

5Gで有望な無線伝送技術

南海トラフ巨大地震に備えた災害対策

ドコモ関西支社は、南海トラフ巨大地震での津波による想定被災エリアにおいて、基地局の基盤を強化して有事の際も通信を確保する災害対策を2015年3月20日に完了しました。東日本大震災の教訓を踏まえて取り組んだ、南海トラフ巨大地震の津波被害を意識した携帯電話基地局の強化は、広域災害時の通信の確保に多大な貢献を果たすと評価され、総務省近畿総合通信局・近畿情報通信協議会が行った平成27年度「電波の日・情報通信月間」において、「電波の日」近畿総合通信局長表彰を受けました。南海トラフ巨大地震が発生すると、沿岸部などでは津波による浸水被害などが想定されます。その津波により基地局の伝送路が断線、電力供給が途絶え通信が確保できないなどの被害を受ける可能性があります。そこで、直接的な被害を受けないと想定される35局 (大阪府5局、兵庫県16局、和歌山県14局) の基地局の基盤を強化。これにより、有事の際も想定被災エリアでご利用いただいている約96%の通信を確保することができます。

対策内容

  1. 伝送路の二重化
    津波などで有線 (光回線) の伝送路が流され断線してしまった場合でも、無線 (マイクロ回線) で2重化をしておくことで、通信を確保
  2. 通信用補助電源の長時間化
    電力供給が途絶え通信が確保できない場合でも、大容量の燃料電池を設置することで3日間の通信を確保
  3. 遠隔からのエリアコントロール
    被災エリアの基地局が直接的な被害を受け通信が確保できない場合でも、周辺基地局の電波の発射角度を遠隔でコントロールすることで被災エリアの通信を確保

こうした取り組み以外にも、移動基地局車や可搬型衛星エントランス基地局の配備に加え、災害対策機器の操作技術の習得や応急復旧人員の拡大などを目的とした設備応急復旧総合訓練を実施するなど、さまざまな場面を想定した災害対策を実施しています。

基地局イメージ

大阪府・兵庫県・和歌山県沿岸の対策イメージ

基地局イメージ

対策内容イメージ

対策内容イメージ