超小型メタルアロイ®パワーインダクタ

超小型メタルアロイ®パワーインダクタ 座談会

未知の小型化に挑戦したエンジニアたち~主力製品・超小型メタルアロイ®パワーインダクタの開発秘話~

2010年1月、東光は業界の常識を覆す、高性能の超小型コイルを発売した。
またたく間に、ほとんどのスマートフォンに導入され、
世界でもトップクラス(※)のシェアを誇っている。
実現不可能とまでいわれた、製品をなぜ開発できたのか。
当時を知る4名のエンジニアが集まり、
それぞれの視点から、その挑戦の軌跡をたどります。

メタルアロイは東光株式会社の登録商標です。
※当社調べ 
  • 商品開発担当 K

    入社/2004年

    メタルアロイ®パワーインダクタの立ち上げから製品開発を担当。短納期での開発は当初不可能だと思っていたが、量産化を経験して、東光の技術力と一体感を改めて知った。

  • 材料開発担当 T

    入社/2007年

    メタルアロイ®パワーインダクタには欠かせない磁性材料の開発を入社3年目にして担当。工場での設備導入・保守など、初の海外出張も経験した。

  • 生産技術担当 R

    入社/2005年

    新製品を量産するための最適な生産ラインの計画と具現化が主な仕事。今も多品種同時生産や新Typeを生産するために、新技術開発に余念がない。

  • 生産技術担当 H

    入社/1999年

    メタルアロイ®パワーインダクタの、カメラによる外観検査を安定運用するために2011年から担当。当初の100倍もの生産量においても品質を保持している。

01:プロジェクト、始動

超小型メタルアロイ®パワーインダクタは、どのように開発されたのか?

K
2008年9月だったと思います。私たちの商品開発部門への研究開発部門からの新製品の開発提案が、そもそもの始まりです。これまでの2倍となる高い電気特性と、体積比1/4というメタルアロイ®パワーインダクタ(=コイル)。今までもクライアントからの小型化の要求はあったのですが、既存のやり方では大きさ3mmが限界というところまできていました。2.5×2.0mmというサイズを実現するためには新規の構造にする必要があり、私自身初めての試みだったので、正直最後までできるかどうか、とても不安でした。
H
さらに量産化までの期間も、かなり短かったよね。
K
そうです。アイデアとして、当社で培ってきた<端子成形技術><平角巻線技術><磁性粉末成形技術>の3つのコア技術を融合しようと言われていました。しかし、このサイズを考えると、既存の製品とは全く異なる構造にしないといけないので、単なる融合は難しく、開発者としては一から製品をつくるようなものでした。しかも仕様を決定するまでの期間もほとんどなく、2009年6月がデットラインでしたので、時間との戦いでもありました。

R
たしか最初の段階では、量産化するまでのアウトラインはなかったんだよね。
K
そこも全くの白紙状態だったので、Rさんたち生産技術部門の人たちを交えて、詳細を決める必要がありました。3つの技術をどのように応用するのかも、同時に詰めていかないといけなかったので、立ち上がりこそ私たちの部署だけでしたが、プロジェクトを進めていくうちに、他部署の人たちも巻き込み、いろんなアイデアをもとに仕様を固めていきました。最初数名でやっていた打ち合わせが、気がつけば30名近くで行う会議になって、“一大プロジェクトなんだ!”という実感が湧いてきたのを覚えています。
T
これまでは、既製品から派生する開発がほとんどでしたが、今回は3つの技術を同時に応用しながら、新製品を模索していくプロジェクトだったので本当に大変でした。
H
当時、開発過程での一番大きな課題って何だったの?
R
やっぱり、作れなかったということじゃないですか。ね、Tさん

K
量産化に向けて、特に磁性粉末の成形のところが大きな課題でした。
R
最初は本当に形にならなかったんです。磁性粉末を成型してインダクタを形成する<磁性粉末成形技術>を、そのまま活用してもメタルアロイ®パワーインダクタはできなかった。時間をかければ作ることができても量産化の場合、それでは採算が合わなくなるので、その調整が大変でした。
成型には最低でも5分は必要といわれていましたが、生産現場はもっと短時間で生産したい。そうすると押し固められずに、すぐに粉に戻ってしまう。
K
性能の高い製品にするためには、磁性粉末の圧縮には、最適な成型時間が必要なんです。研究開発部門から提示された条件も最低5分は要するというものでしたから。デジカメなどに使われている既存の製品でも、月に6000~7000万個生産していたので、1つに対してそんなに時間をかけていたら、量産化は難しい状況でした。これが厚き壁になっていました。そこで取り組んだのが磁性粉の見直しです。ね、Tさん。

T
そうです。短時間の成型でも電気特性が得られ、成形できるように新工程を採り入れました。けれども、「これだ!」といえるものがなかなかできなくて。そこに辿り着くまでに配合を変えたものを、何十種類も作りました。
R
生産技術部門では、生産工程の時間を短縮するため、いくつかの施策に取り組みました。1つは生産量の拡大です。2.5×2.0mmというのは、米粒よりも小さい製品なので、当初1個ずつ手作りで製造していましたが、複数の生産ラインを組んで、同時に大量生産できるように調整。その他には、これまでは一つひとつの端子をピンセットでつまんで貼り付けていた工程を、数千個まとめて端子をつける<端子成形技術>を応用することで、トータルの工程時間を短くして、成形に必要な時間を確保するようにしました。最初5分以上かかっていた成型時間が、大量生産することができる程速くなりました。

H
2009年6月に仕様が決まり、次年の1月には量産がスタート。振り返ると、今までにない短納期で、新製品ができたよね。
K
何か問題が発生したら、関係者が部署の枠を越えて何度もすり合わせをして、次第にできるようになっていく。意見が合わないことはあるものの、根底には「今までにないものを世の中に出したい」というエンジニアとしての気概が、メタルアロイ®パワーインダクタを産み出したのだと思います。
R
また<端子成形技術><平角巻線技術><磁性粉末成形技術>の技術が確立していたのも、これだけの短納期での量産化を可能にした理由だと思う。この3つの技術がしっかりしていないと、メタルアロイ®パワーインダクタはできなかったかもしれない。

02:新製品の誕生

超小型メタルアロイ®パワーインダクタを、どのように増産したのか?

K
量産化してからは多品種に展開し、順調に売上も伸ばしていきました。
H
初期の生産量と比べて、今や100倍だよね。
R
月産100万個、1000万個・・・と、生産量が増えるたびに、生産工程の難易度は高まっていった。その都度、新しい問題が発生し、それを解決するために新技術の導入を検討。結果、生産現場では3つのコア技術とは別に、様々な技術も開発・採用されてきた。
T
カメラによる外観検査もその1つですよね。
R
そのとおり。これまでは目視による検査で対応できた。今も人海戦術で行っている製品もあるけど、メタルアロイ®パワーインダクタは生産量やコスト面から、それでは難しくなってきて、自動外観検査を導入。Hさんに加わってもらったのも、それが理由ですよね。

H
そうだね。私が担当している、カメラを使ってのキズや破損などの不良品の外観検査は2011年にスタートした。検査には、製品の色を一定にしないと不良品率が上がっているという課題はあるものの、一定の効果を上げてきました。
K
自動化と生産量が圧倒的に増えたことに伴い、管理コストの低減と品質向上のため、製造トレーサビリティシステムも導入しましたよね。
H
それも、新しく採り入れた技術だよね。これまで人手により生産工程のデータを集計していたものを、データベースと連動して社内のネットワークシステムを介して、リアルタイムに生産情報を把握。万が一の不良発生時の原因究明や、市場クレームが発生した場合の製品隔離なども、迅速に行える。2011年に導入した、この製造トレーサビリティシステムも、量産化には必要不可欠な技術だね。
R
今後は、今までできなかったことをやるために生まれたこれらの技術が、将来のコア技術になっていくと思います。

03:未来に向けて

次世代の製品開発では、どんな思いで、どんなことに取り組むのか?

T
メタルアロイ®パワーインダクタは従来と異なるパウダー使っています。次世代製品では、さらに仕様の異なる作りにくいパウダーになっていくと思います。そう考えると、これまでの作り方ではなく、新たな材料技術や設備が必要に。詳しくは言えませんが、そのための新材料の検討は、私たちの材料開発部門でもうすでに始めています。メタルアロイ®パワーインダクタでは若手として参加していましたが、次世代製品では、中核メンバーとなるので、率先していろんなことに挑戦してきたい。それができる環境だと思います。
H
検査工程を担当する立場としては、開発・生産をしてみないと分からない所はあります。ただメタルアロイ®パワーインダクタを一から作り上げたことで、東光の技術力や、それを支えるチームワークや信念はエンジニア同士の共通理解として深まったと思う。さらに今は当初よりも100倍、200倍の生産量を運用できる基盤もある。難易度は高まりますが、大きな可能性を感じています。

R
東光では、いろんな工程を一貫してみることができるので、トータル的な視点から創意工夫をして、新たな技術を積極的に導入することができます。Hさんと同じくやってみないとわからない部分も多いですが、チャレンジできる環境はたくさんあると思っています。
K
メタルアロイ®パワーインダクタの開発者として最初に担当したときは、ムリだろうと思っていました。それがスケジュールも遅延することなく、製品としてリリースされたときは、やっていて驚嘆しました。そのくらい難易度の高い開発だったんです。次世代の製品も、メタルアロイ®パワーインダクタに負けないくらい、世の中を驚かせるような高性能な製品を開発したいですね。