6-4. フィルタの基本特性と現実特性の違い
以上で述べたLCフィルタの周波数特性は、理論上の基本特性ですので、現実にはこのとおりにならない場合があります。現実の特性が基本特性とは違ってくる要因を知っておくと、部品を選んだり、上手に使おうとするときに役立ちます。ここから先の項では、この要因について説明していきます。
6-4-1. 同じフィルタのようでも効き方はこんなに違う
(1) フィルタの現実特性
フィルタの現実のノイズ除去効果が、先に述べた基本特性とは異なる例として、デジタル回路の電源のノイズに対してバイパスコンデンサを使ったときの測定結果を図1、図2に示します。
(2) 実験回路
図1は実験回路です。20MHzで動作するクロック発振回路をノイズ源にして、電源に発生するノイズを電源配線に引き出して、直径12cmのループ状にした配線から放射させています。この電源配線に1μFのバイパスコンデンサを取り付けてフィルタとし、ノイズの変化を観測します。
(3) フィルタを使う前
図2は測定結果です。 (a) はフィルタを使わないときのノイズの放射です。測定した30-1000MHzの範囲のほとんど全ての周波数で強いノイズが観測されています。
(4) コンデンサといっても効果は様々
(b) は、理想的に機能するフィルタの例として、3端子コンデンサを使った場合です。すべての周波数範囲でノイズの放射がしっかりと抑制され、ほとんど観測できないレベルになっていることがわかります。
(c) は、バイパスコンデンサとして広く使われているMLCCを、比較的理想に近い取り付け方で使った場合です。3端子コンデンサに比べるとノイズ除去性能は大きく劣っていることがわかります。ただし、すべての周波数でノイズは抑制されています。
(d) は、同じくMLCCを使っていますが、意図的に取り付け方に問題がある条件: 非常に長いリード線をつけて取り付けた場合です。ノイズの抑制効果が非常に小さくなることがわかります。
(5) 本来、ノイズは全く見えなくなるはず
これらの (b) ~ (d) のフィルタ回路は、回路図上では同一で、1μFのバイパスコンデンサです。したがって、基本特性は6-3-2項に示したように、20dB/dec.の傾きを持ったローパスフィルタとなり、まったく同一のはずです。
1μFのコンデンサの基本特性を図3に示します。図2で測定している30MHz以上の周波数域では、挿入損失は70dB以上あります。すなわち、図2 (a) で観測されたノイズは、正しくコンデンサが働けば、グラフからは全く見えなくなっていたはずなのです。
ところが実際に測ってみると、図2のようにノイズが残る場合があり、使う部品によってレベルが大きく違ってくるのです。ノイズ対策を行うときは、現実特性がどうであるのかを確認することが重要です。
(6) 現実特性が基本特性とは違っている原因
このようにフィルタの現実の特性が基本特性と違い、様々となる原因は、図4のようにフィルタ自身の性能の善し悪しによるものと、フィルタと外部との相互作用によるものの2つに分けて考えることができます。
次節でも紹介しますが、まずフィルタ自身のノイズ除去効果が基本特性とは違っています。このことに加えて、フィルタと外部との相互作用によってもフィルタの現実特性は影響を受けます。後者はフィルタが使われる条件に応じて様々に変化します。このため、フィルタの現実特性を理論的に正確に予測することは非常に難しいのが現実です。
6-4-2. フィルタ自身の効果が基本特性とは違っている
フィルタの現実の特性が基本特性とは違っている例として、単純なコンデンサ、インダクタの周波数特性を理論値と比較した例を図5に示します。
6-3項で述べたように、LCフィルタを構成する要素にはコンデンサとインダクタがあります。図5は先の6-3-7で紹介したデータを再編集し、挿入損失の測定値を理論値と比較したものです。100MHz以上の周波数で、現実の特性が理論値から大きく外れていくことがわかります。
このように理論値とは異なる周波数特性を示す領域では、これらの部品は単純な静電容量やインダクタンスでは表せなくなっています。以降の項では、コンデンサ、インダクタの現実特性について紹介していきます。最初にコンデンサについて少し詳しく解説し、この内容を元に、インダクタやLCフィルタについて、紹介していく予定です。
「6-4. フィルタの基本特性と現実特性の違い」の
チェックポイント
- LCフィルタの現実のノイズ除去効果は、基本特性とは異なっている
- LCフィルタを構成するコンデンサ、インダクタの特性が、そもそも理論上の特性とは異なっている