EMI除去フィルタ(EMC・ノイズ対策)ノイズ対策 基礎講座【第1部】
第6章 EMI除去フィルタ

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第6章

EMI除去フィルタ

6-5-3. コンデンサの寄生成分の影響

(1) インピーダンスはどの程度変わるのか

前節では、コンデンサのインピーダンスの周波数特性がV字型になり、低周波 (左) 側は静電容量に、高周波 (右) 側はESLに対応していることを紹介しました。コンデンサの静電容量は、品番を指定すれば容易に制御できます。ESLはどの程度影響するのでしょうか。
1000pFの公称静電容量を持つ各種のセラミックコンデンサのインピーダンスを測定した例を図12に示します。図から、

  1. (a)単板よりもMLCC (積層構造) の方が
  2. (b)リードは短い方が
  3. (c)リード付きよりもSMDの方が

高周波まで理想コンデンサに近く、インピーダンスが小さいことがわかります。これは、この順にESLが小さくなっていることを示しています。セラミックコンデンサに限らず、一般にコンデンサはこのような傾向が見られます。内部電極やリードの形状がESLを発生させる主要な要素であるためです。
コンデンサを放射ノイズの除去に使う場合、30MHz以上の周波数で使われることになります。この周波数では図に示したように同じ1000pFのコンデンサであっても、ESLの違いによってインピーダンスが10倍以上違ってきます。

取り付けを変えたときのインピーダンスの変化の例 (1000pF)

【図12】取り付けを変えたときのインピーダンスの変化の例 (1000pF)

(2) ESLはどの程度の値を持つのか

このときESLはどの程度の値を持つのでしょうか。
等価回路モデルを使って1000pFのコンデンサでESLを変え、インピーダンスを計算した結果を図13に示します。図12と図13を比較すると、ESLは

  • リードを10mm付けたMLCC (図12の (1) ) で10nH程度
  • リードの無いSMDのMLCC (図12 (2) ) で1nH以下
  • 3端子コンデンサ (図12の (5) ) では0.1nH以下

であることが推定できます。
ここで言う数nHというインダクタンスは数mmのリード線でも発生する極めて微小な値です。グラフを見ると100MHz以上の周波数域では、このような微小なインダクタンスであっても大きな影響を持つことがわかります。
なお、図12の (5) で示した3端子コンデンサは、このESLを小さくするための特殊な構造を持った高性能なコンデンサです。3端子コンデンサについては8章で詳しく説明する予定です。

ESLを変えたときのインピーダンスの計算結果

【図13】ESLを変えたときのインピーダンスの計算結果

(3) コンデンサのリードはできるだけ短くして使う

ノイズ対策でコンデンサを使うときは、ESLが小さいコンデンサの方が有利です。図12の (2) 、 (3) 、 (4) を比べるとわかるように、コンデンサを使うときはできるだけリードが短くなるように (できればSMDで) 使います。
実は先の6-4項の図2で示した実験では、コンデンサ自身のESLの違い、リードの有無によるESLの違いを使ってノイズ除去効果を変えています。10mm程度の長いリードを介してコンデンサを取り付けた場合 (6-4項図2 (d) ) では、リードがないとき (6-4項図2 (c) ) に比べてノイズ除去効果は10dB以上小さくなっています。

(4) 電解コンデンサのインピーダンス特性

これまで主にMLCCを例にとりコンデンサの特性を紹介してきました。電源平滑など、大きな静電容量が必要な用途では、体積当たりの静電容量が大きい電解コンデンサが使われます。電解コンデンサのインピーダンスの特性はMLCCとは少し違っています。比較した例を図14に示します。
電源平滑用に広く使われている電解コンデンサにアルミ電解コンデンサがあります。図14をみると、アルミ電解コンデンサではインピーダンス曲線がなべ底型 (もしくはU字型) になっており、自己共振が明瞭に見えないことがわかります。これはコンデンサの損失が比較的大きいことを意味しており、図7の等価回路ではESRが大きいことになります。

電解コンデンサとMLCCのインピーダンスを比較した例

【図14】電解コンデンサとMLCCのインピーダンスを比較した例

(5) ESRはどのように影響するのか

図15に、1μFのコンデンサを例にとり、ESRを変化させたときのインピーダンスの計算結果を示します。ESRを500mΩにすると、図14 (a) のアルミ電解コンデンサの測定結果に類似した特性が得られることがわかります。このように電解コンデンサのインピーダンス特性は、ESRを大きくすることで再現することができます。なべ底型の特性曲線の「底」にあたるインピーダンスがESRの値を表わしています。
アルミ電解コンデンサのESRは、大きいときは1Ω以上になる場合もあります。コンデンサのインピーダンスはESRよりも小さくなることは無いので、ノイズ対策に使うにはESRの大きなコンデンサは不利と言えます。
一方で、ノイズ対策で使うコンデンサが周囲の回路と共振を起こして不具合がある場合には、このESRが共振のダンピング抵抗として働き、不具合を防ぐ場合もあります。このような場合にはある程度ESRの大きなコンデンサの方が有利です。

ESRを変えたときのインピーダンスの変化の計算結果

【図15】ESRを変えたときのインピーダンスの変化の計算結果

(6) ESRが小さい電解コンデンサ

ESRが小さくなるように工夫された電解コンデンサもあります。タンタルコンデンサや導電性高分子コンデンサなどです。図14の測定結果ではこれらのコンデンサの例も併せて示しています。アルミ電解コンデンサに比べて、共振周波数付近のインピーダンスが小さくなっていることがわかります。
ただし、このようなコンデンサでもMLCCには及びませんので、電源平滑などの大きな静電容量が必要な用途であってもノイズ除去効果を重視する場合には、容量の大きなMLCCを選ぶか、電解コンデンサ並列に、MLCCを追加して使います。