6-1. はじめに
ノイズ対策の基本手段にはフィルタとシールドがあります。この両者は互いに支え合う関係にあり、原則として両方必要なのですが、ノイズが軽微な場合は簡略化することができます。一般にシールドは金属の構造物であり、電子機器全体を覆う必要があることから大掛かりでコストがかさみ、重量も増えます。電子部品であるフィルタを上手に使うことでシールドを簡略化できると、電子機器のコストダウンと軽量化に役立ちます。
ここではフィルタを上手に使うための基礎知識として、フィルタの動作原理と代表的な回路構成を説明します。なお、電磁ノイズの除去に使うフィルタ回路をEMI除去フィルタと呼びますが、ここでは単にフィルタと呼ぶことにします。
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6-2. EMI除去フィルタ
6-2-1. EMI除去フィルタの働き
フィルタをノイズの伝導経路に取り付けると、回路の動作に必要な成分 (図1では信号と表現) とノイズに選り分けたうえで、ノイズだけを除去する働きをします。
信号とノイズを分けるには、それぞれを分離するための基準が必要です。通常は図1 (b) に示したような周波数分布の違いを利用するのですが、伝搬モードや電圧の違いを利用する場合もあります。表1に、代表的なフィルタが使っている手がかりを示します。
【表1】信号とノイズの分離
6-2-2. 周波数で分ける4つのフィルタ
周波数で分離するフィルタには、図2に示す4つの主な種類があります。EMI 除去フィルタとして
は、対象のノイズの周波数をあらかじめ絞り込むことが難しい場合が多いので、多くの場合、ローパスフィルタが使われます。
6-2-3. フィルタの効果を測る方法
(1) 挿入損失
フィルタのノイズ除去効果は挿入損失で表されています。これは図3に示すように、50Ωの信号源と負荷を接続した回路を用意し、中間にフィルタを挿入した時の、負荷側の電圧の変化 (B→C) を測定したものです。通常はdBで表されています。
(2) dB
dB (デシベル) とは比率を表す単位です。表2に示すように、ノイズを1/10にする性能は20dB、1/100にする性能は40dBと表現されます。ノイズが1/10倍になるたびに、挿入損失では20dB数字が大きくなります。
dBはこのように、大きな比率を足し算で表現できるので便利です。ノイズの測定結果も、通常はdBで表現されます。例えば40dBμVは、1μVを0dBとした電圧を表していて、100μVという意味です。
(3) 覚えておきたい数字
ノイズが2倍変化すると、dBでは6dB変化します。10倍変化するときは、20dB変化します。この2つの数字はよく使うので、覚えておくと便利です。
なお、これは電圧で表現した場合で、電力でみると、10倍の変化が10dBになります。これは電力が電圧の2乗に比例する (P=V2/R) 関係があるためです。
(4) Sパラメータで代用
挿入損失は、フィルタを線形回路とみなせる場合は、50Ω系で測定したSパラメータの透過係数 (S21またはS12) の絶対値で代用することができます。どちらの測定も、フィルタの前後に50Ωの測定系を接続して測定するためです。弊社の場合、特に断らない場合は、Sパラメータで測定した値を挿入損失として使っています。
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「6-2. EMI除去フィルタ」のチェックポイント
- EMI除去フィルタは主にノイズと信号の周波数の違いでノイズを分離する。
- ノイズと信号の伝搬モードの違いや電圧の違いを用いてノイズを分離するEMI除去フィルタもある。
- ノイズフィルタのノイズ除去効果を測る尺度として挿入損失が使われることが多い。