ノイズ対策技術 / 事例紹介(民生)

サービスロボットのノイズ対策-3(3/3)

10. イミュニティ(近接照射イミュニティ)について

次に、無線通信電波の近接照射イミュニティ試験を行いました。本試験は公的なノイズ規格がないため、独自の測定系を構築して行いました。
LTEやWi-Fiの通信電波を想定した700MHz-2600MHzの周波数帯で、100MHzごとに10MHzステップで電波を放射し、モーターの挙動が変化するかどうかをモーター回転数や消費電流で確認しました。

近接照射イミュニティの測定系の図
近接照射イミュニティの測定系

■試験条件

照射した電波周波数帯:700MHz~2600MHz(LTEや無線LANの通信電波を想定)。100MHzごとに、10MHzステップでイミュニティ評価を実施

照射した電界強度:10V/m以上、各周波数で5秒照射、パルス変調 0.2kHz、Duty50%

近接距離:5cm

広帯域スリーブアンテナを使用(型番 NKU07M32G、NoiseKen製)。
モーターは、1サイクル(正回転1.5秒、負回転1.5秒)を連続運転したメインIC内部のカウンタをモニタリングして、モーター回転数とモーター消費電流を測定。

下図の左側は、モーターが通常動作をしているときのモーター回転数と電流波形を示しています。回転数を見ると、1.5秒ごとに正回転と逆回転を繰り返しているのがわかります。一方、電流波形を見ると、特徴的な変化をしています。モーターの回転方向が切り替わる瞬間に大きな電流が流れており(この例では605mA)、それ以降は小さな電流(100mA)に落ち着きます。イミュニティ試験を行った際、この反転時の電流の最大値が増加しました。外部のノイズの影響を受けていることがわかります。また、この変化量は照射した電波の周波数によって影響度が異なっていました。

電波照射なし(初期0V/m)の図
電波照射なし(初期0V/m)
電波照射ありの図
電波照射あり

※初期状態でのモーター回転数と消費電流

11. イミュニティ問題発生のメカニズムと対策手法

この問題は次のような仕組みで発生していると想定されます。
外来電波がノイズとして照射された際、ノイズが基板配線などにコモンモードで結合します。モーターは基板上に実装されたメインICで動作がコントロールされており、モーターとメインICの間にはフィードバック回路が構成されているため、コモンモードで結合したノイズがフィードバック信号に重畳されます。ノイズの混じったフィードバック信号がメインICに入力されるとIC内部でコモンモードの一部のノイズがディファレンシャルモードに変換されます。ノイズが混じり誤った値でフィードバックを受けたメインICは誤った制御信号を出力してしまいます。この事例ではモーターの回転のために必要な量以上の電流が流れたため、過剰な分の電流は無駄なエネルギーとして消費されてしまっています。
このような場合、メインICに入力されるフィードバック信号からコモンモード成分のノイズを除去することが有効です。三相モーターのフィードバック信号は3ラインで構成されるので、3ラインが結合したコモンモードチョークコイル(CMCC)を使用することになります。

ノイズ発生の想定メカニズムと対策の図
【ノイズ発生の想定メカニズムと対策】モーター制御回路(概略図)
  • 外来ノイズを照射
  • コモンモード(ノイズ)で重畳
  • メインIC内部で、コモンモードの一部がディファレンシャルモードに変換される(フィードバック信号にノイズ重畳)
  • メインICがモーター実動作状態を誤認し、過剰な電流を流す
  • モーター回転に不要な電流は熱として消費される(無駄なエネルギーになる)

12. イミュ二ティ対策の効果

コモンモードチョークコイルを適用して同様の評価を行ったところ、モーターに流れる最大電流の増加分が大幅に低下しました。
これにより、外来ノイズが侵入してもモーターの制御が乱れることが防げます。また、余計な電流が流れないため、バッテリーの容量が無駄に減ることも防ぐことができます。

対策後の最大電流の変化の図
対策後の最大電流の変化

3ラインCMCCを追加すると、最大電流が低下。メインICの誤動作を抑制できる

バッテリー寿命がのびる、省エネになる

13. まとめ

サービスロボットは家庭環境などで使用されるため、ノイズ対策は重要です。エミッション問題としては、モータードライバで発生したスイッチングノイズが放射して起こるものが注目されます。イミュニティ問題では、外来ノイズがドライバのフィードバック信号ラインに侵入して、あやまった制御信号をモーターに伝達して誤動作することがあります。

  • エミッション対策としては、ドライバICに接続されるケーブルの取り付け部分であるコネクタ付近にノイズフィルタを適用します。
  • イミュニティ対策としては、フィードバック信号ラインにコモンモードチョークコイルを適用します。フィードバック信号ラインは3ライン構成となっているため、コモンモードチョークコイルも3ラインタイプを選択します。

今回紹介したフィルタ(エミッション対策用)

ノイズフィルタ NFZシリーズ

小型で大電流に対応したノイズフィルタです。ノイズの周波数にあわせて定数を選択します。

フェライトビーズ BLT5BPTシリーズ

最大11Aの大電流に対応。最高使用温度150°Cで使用箇所を選びません。

今回紹介したフィルタ(イミュニティ対策用)

コモンモードチョークコイル 3ラインCMCC

ノイズの周波数にあわせて商品を選択します。

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