ノイズ対策技術 / 事例紹介(自動車)

PoCシステムに求められるインダクタとノイズ対策-1

1. PoC(Power over Coax)とは

PoCはPower over Coaxの略で、信号ケーブルに電源を重畳して、別途電源用のケーブルを設ける必要をなくした伝送方法です。PoCは自動車や産業機器で採用されており、自動車ではADASやサラウンドビュー用のカメラに使われ、配線設計の簡素化やハーネスの軽量化に役立っています。産業機器では外観検査用カメラなどに使われています。広い製造ラインでは長いケーブルが必要となりますが、PoCを使うことによりケーブルの本数を減らすことができ、配線の取り回しが容易になります。

従来の伝送システムとPoCの違い

従来の伝送システムとPoCの違いのイメージ画像

PoCシステムの用途例

PoCシステムの用途例のイメージ画像

2. PoCに必要な回路

PoCはSerDesインターフェイスに使われることが多く、ここではSerializerとDeserializerが同軸ケーブルで接続されます。この同軸ケーブルには高周波信号と直流電流が重畳されます。この際、高周波信号が電源ラインに漏れ出たり直流電流がDeseriaizerの方に流入したりするのを防ぐためにBias-T回路が構成されます。Bias-T回路では、直流を阻止すると同時に高周波を通すコンデンサと高周波を阻止しながら直流を通すコイルが使用されます。
本記事では、Bias-T回路に使用されるインダクタをBias-Tインダクタと呼びます。

PoCシステムの代表的な回路構成のイメージ画像
PoCシステムの代表的な回路構成

Bias-Tインダクタに必要な特性

Bias-Tインダクタの役割は交流を阻止して直流を通すことなので、このインダクタは高いインピーダンスをもつ必要があります。インピーダンスが低いと、交流である信号成分が電源ラインに漏洩し、同軸ケーブルを伝送する信号成分が減衰してしまいます。

Bias-Tインダクタに必要な特性のイメージ画像
Bias-T

Bias-Tインダクタの必要な特性について 信号ラインの特性インピーダンス測定

Bias-Tインダクタが信号ラインの特性インピーダンスに与える影響を調べました。
ネットワークアナライザをSerDes ICやBias-T回路が搭載された基板に接続して、TDR法で特性インピーダンスを測定しました。

Bias-Tインダクタの必要な特性について 信号ラインの特性インピーダンス測定のイメージ画像
Bias-Tインダクタの必要な特性について 信号ラインの特性インピーダンス測定

信号ラインの特性インピーダンス測定

伝送ラインの特性インピーダンスは基板のパターン設計や部品の位置で変動します。この変動を抑え、平滑に保つことで伝送特性がよくなります。平滑に保つためにはBias-Tインダクタのインピーダンスが十分高い必要があります。Bias-Tインダクタのインピーダンスが低いと伝送ラインの特性インピーダンスが低下してしまうためです。右図は極端な例としてBias-Tインダクタをショートチップと交換してみました。特性インピーダンスが50オームから0Ωに向かって急激に変化していることが確認できます。

信号ラインの特性インピーダンス測定のイメージ画像
信号ラインの特性インピーダンス測定

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