ノイズ対策技術 / 事例紹介(自動車)

PoCシステムに求められるインダクタとノイズ対策-3

5. 電源ノイズがPoCシステムに与える影響

PoC回路の電源ICとしてはDC-DCコンバータが使われることが多いですが、DC-DCコンバータは内部で高速なスイッチングを行っているため、スイッチングノイズが問題になることがあります。DC-DCコンバータによるスイッチングノイズ問題がPoCシステムに悪影響を与える事例を確認しました。スイッチングノイズは同軸ケーブル上をディファレンシャルモードとコモンモードの両モードで伝導する可能性があります。

電源ノイズがPoCシステムに与える影響のイメージ画像

ディファレンシャルモードノイズによる問題 スイッチングによる電源ノイズのSIへの影響

PoCの信号は同軸ケーブルの中心導体とシールド層の間をディファレンシャルモードで伝導します。外来ノイズの影響がない場合は良好な波形品位を保っています。ところが、スイッチングノイズが同軸ケーブル内に侵入してディファレンシャルモードで伝導すると波形品位が低下する可能性があります。

ディファレンシャルモードノイズによる問題  スイッチングによる電源ノイズのSIへの影響のイメージ画像
ディファレンシャルモードノイズによる問題 スイッチングによる電源ノイズのSIへの影響

複数のインダクタを組み合わせた場合とBias-T用に開発されたLQW32FTの両者で、SerDes信号のSI(Signal Integrity)に差があるかどうかを確認しました。
複数のインダクタを組み合わせた場合はインピーダンスカーブが安定しないため、信号波形の乱れが見られます。一方、LQW32FTシリーズを使用した場合は信号波形が乱れず伝送されています。

スイッチングによる電源ノイズのSIへの影響の測定

スイッチング制御のDC-DCコンバータのノイズによる影響を確認するために、DC-DCコンバータにBias-Tインダクタや同軸ケーブルを接続して、オシロスコープで波形に与える影響を確認しました。
この際、信号発生源は3Gbpsとし、DC-DCコンバータはスイッチング周波数が200kHzのものを用いました。

スイッチングによる電源ノイズのSIへの影響の測定のイメージ画像
スイッチングによる電源ノイズのSIへの影響の測定

以下がオシロスコープで観測された波形です。3Gbpsの高周波と200kHzの低周波が重ね合った波形が観測されました。3Gbpsの信号の基準電位が200kHz周期で変動しています。変動幅は約70mVです。基準電位の変動は通信に悪影響を与える可能性があるため、基準電位の安定化を検討しました。

Bias-Tインダクタ:LQW32FT(10uH+47uH)のイメージ画像
Bias-Tインダクタ:LQW32FT(10uH+47uH)

Bias-Tインダクタの追加によるスイッチングノイズ低減検討

200kHzのノイズを抑制するために、DC-DCコンバータと信号ラインとの間のBias-Tインダクタが実装されているところに100uHのインダクタLQH3NPH101MMEを追加しました。Bias-Tインダクタに対して直列に100uHを追加することにより、200kHz程度の低周波領域のインピーダンスを高くすることができます。

Bias-Tインダクタの追加によるスイッチングノイズ低減検討のイメージ画像
Bias-Tインダクタの追加によるスイッチングノイズ低減検討

改善後の結果

100uHのインダクタを追加することにより、200kHz周期の基準電位の変動を抑えることができました。

改善後の結果のイメージ画像
改善後の結果

コモンモードノイズによる問題 スイッチングによる電源ノイズが放射ノイズに与える影響

次に、スイッチングノイズが同軸ケーブルの中心導体とシールド層の間をコモンモードで伝導する場合について考えます。
コモンモードノイズは放射ノイズレベルを高くする傾向があるため、スイッチングノイズが放射ノイズの問題を引き起こす可能性があります。

コモンモードノイズによる問題  スイッチングによる電源ノイズが放射ノイズに与える影響のイメージ画像
コモンモードノイズによる問題 スイッチングによる電源ノイズが放射ノイズに与える影響

スイッチングによる電源ノイズが放射ノイズに与える影響、測定方法

同軸ケーブルから放射されるノイズの評価のため、以下のようにDC-DCコンバータ搭載基板とBias-T回路の搭載基板を接続し、Bias-T回路搭載基板同士を同軸ケーブルで接続、その同軸ケーブルから放射されるノイズをカレントプローブで測定しました。カレントプローブで同軸ケーブルを挟む形になるので、検出されるのはコモンモードノイズになります。

スイッチングによる電源ノイズが放射ノイズに与える影響、測定方法のイメージ画像
スイッチングによる電源ノイズが放射ノイズに与える影響、測定方法

スイッチングによる電源ノイズが放射ノイズに与える影響

まず、Bias-Tインダクタがフィルタとして働くことも期待できるため、インダクタ未実装状態(フィルタなし)とインダクタ実装状態(インダクタのみ)の条件でノイズ測定結果を比較しましたが、ほとんど変化していませんでした。Bias-Tインダクタではディファレンシャルモードのノイズにしか効果がないためだと考えられます。
次に、中心導体とシールド層を伝導するコモンモードノイズを抑制する目的で、コモンモードチョークコイル(CMCC*)を追加したところ、ノイズレベルは5~10dB抑制されました。

スイッチングによる電源ノイズが放射ノイズに与える影響のイメージ画像
スイッチングによる電源ノイズが放射ノイズに与える影響

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