Murata Icon X はじめに

近年、スマートフォンをはじめとして、デジタル機器に無線LANの搭載が進んでいます。
また、一部の地域では、5GHz帯をLTE通信として使用する技術(LAA/LTE-U)が導入され、データ通信の高速化が実現されており、5GHz帯の無線通信はますます増えていくものと予想されます。

無線LANと言えば、2.4GHz帯がまだまだ主流ですが、通信障害の問題が多々発生し、ユーザビリティが阻害される経験をされた方も多いのではないでしょうか?
では、5GHz帯の無線を使えば、通信障害は起こらないのでしょうか、または起こりにくいのでしょうか。
今回は、5GHz帯を使った通信時に発生するノイズ問題とその解決事例について紹介します。



Murata Icon X 注目される5GHz帯の無線通信

今回、ご紹介する事例は、屋内で高速なデータ通信が有線インターフェースで行われるときに発生するノイズ問題と複数の無線通信環境下で発生する問題の2つになります。

屋内では個々の電子機器が対応する駆動周波数が高まり、高周波領域でのノイズの発生が懸念されます。また、後ほど説明しますが、無線LANの5GHz帯とLTEの5GHz帯が同時に使われるケースが出てきます。

その際に想定される問題としては、以下が考えられます。
  1. 機器同士が接続されている際に、無線LANが接続されにくい問題
  2. 複数の通信方式が用いられるときに、ダウンロードが遅くなる問題
次から具体的なノイズの発生事例について紹介して行きます。

高速差動データ通信時に発生するノイズ問題
→なかなか接続されない


複数の無線通信時に発生するノイズ問題
→ダウンロードが遅い




Murata Icon X 複数の無線通信時に発生するノイズ問題

LAA・LTE-Uの紹介

まず、複数の無線通信が行われるケースを紹介します。
冒頭でも説明したとおり、5GHz帯を使った無線通信としては、Wi-Fiが馴染み深いと思いますが、スマートフォンで使われているLTE方式でも5GHz帯を使っていくことが決まっています。
海外の一部のエリア・端末で使われ始めており、さらなる高速データ通信が可能になっていくものと思われます。
5GHz帯を使ったLTEはLAAやLTE-Uと呼ばれており、既存のLTEとキャリアアグリゲーションすることで大容量通信を実現する技術となります。この際、Wi-Fiも同時に使うことが想定されるため、LTE・LAA・Wi-Fiの3方式の回路が動きます。
では、このときに、無線通信は問題なく行えるのでしょうか。
■ LAA通信の事例

■ スペック
Item Band Name Downlink (MHz)
Low Mid High
LTE-U 252 Unlicensed NII-1 5150 5200 5250
255144 255644 256143
255 Unlicensed NII-3 5725 5787.5 5850
260894 261519 262143
LAA 46 TD Unlicensed 5150 5537.5 5925
46790 50665 54539

複数通信が行われたときの受信感度

これらの図は、Wi-Fi通信が行われた状態で、LAA通信させたときのLAAの受信感度の測定結果になります。
Wi-Fi通信をonすることで、受信感度が劣化することが分かりました。





複数通信が行われたときの受信感度


受信感度が悪いと、基地局やアクセスポイントからの電波強度が小さい場合に、正常に通信が行えなくなるだけでなく、データレートも遅くなるため、ユーザーにとっては、ストレスを感じることも起こると予想されます。
これは、Wi-FiとLAAが同一周波数を使って通信しているために起こる現象で、5GHz帯の電波同士の干渉、もしくは無線回路が動作したときに発生するノイズが影響しています。
従来は、同一周波数の無線回路が同時に動作することは無かったため、問題が見えていませんでしたが、今後は対策が必要になると考えられます。

受信感度の劣化が発生した原因

受信感度の劣化が発生した原因を確認するために、システムシミュレーションによる検討を実施しました。 シミュレーションでは、各ブロックが理想的に動作するためノイズが発生していない環境での通信特性が得られます。
■ LAA通信の事例
結果をみると、実際の端末では受信感度が劣化していたのに対して、シミュレーションでは変化が見られず、LAAとWi-Fiが同時に通信するだけでは受信感度の劣化が起こらないことが分かります。
そこで、各回路が動作する際に発生するノイズが原因であることを疑って、実際の端末内部のノイズ調査を行うこととしました。
■ LTE・LAA・WiFi通信時のノイズ

電源ラインの伝導ノイズ測定結果


上記の図はLTE・LAA・Wi-Fiの回路ブロックを簡略化したものになります。図の右に示す条件で通信が行われたときの電源ラインのノイズを測定しています。結果を見ると、Wi-Fiモジュールの電源ラインが最もスペクトラムのレベルが大きく、RFICの電源ラインにも同じスペクトラムが観測されました。これは、Wi-Fiの通信信号の帯域幅と一致しており、Wi-Fi起因のノイズが電源ラインを伝導して、各回路ブロックに流れ込んでいると考えることが出来ます。
つまり、ノイズの発生・伝導経路を整理すると下記のようになります。

【ノイズの発生・伝導経路】
  • 各RF回路の電源ラインで確認されたノイズは帯域幅80MHzである。
  • Wi-Fi信号は帯域幅が80MHz、LTE・LAAは20MHzで通信を行っている。
  • 上記より、ノイズはWi-Fiモジュールから電源ラインに漏れ出ている。
  • ノイズは各RF回路に流れ込み、受信用のLNAのSN比を悪化させる。
  • 最終的に受信感度が劣化する。

対策手法と改善効果

ノイズの発生と伝導経路が分かったため、ノイズの伝導を抑制するために、ノイズフィルタを挿入しました。挿入箇所は、各種RF回路の電源入力部になります。

フィルタ挿入箇所


対策手法

ここでは、5GHz帯のノイズ除去に適した、弊社のBLF03VKシリーズを使っています。


BLF03VK600SNL


BLF03VK221SNG

改善効果

伝導ノイズの抑制に伴って、受信感度が改善されていることが確認できます。



このように、周波数が重なる無線方式が複数使われている環境下では、片方の通信回路からもう一方の回路にノイズが伝導して悪影響を及ぼすことがあるため、特定の周波数帯を除去できるノイズ除去フィルタを電源ラインに配置することが効果的です。



Murata Icon X 高速差動データ通信時に発生するノイズ問題

HDMI通信を行った場合の問題

次に、家庭環境でHDMI通信を行った場合の問題について紹介していきます。
HDMIはBDレコーダーやSTBとTVをつなぐ映像系インターフェースとして広く普及しています。また、TVをPC化できるStick PCのインターフェースとしても利用されています。 HDMIのバージョンは最新規格で2.1が発表されましたが、ユーザーの多くは2.0もしくは1.4を使っていると思います。

下の表はStickPCをTVに挿して、HDMI通信しているときのWiFiの受信感度を測定してみた結果になります。結果を見て分かるとおり、4dB弱悪化しており、HDMIの回路動作に伴ってノイズが発生し、受信感度が悪くなったと考えられます。
■ HDMI通信時のWiFi受信感度

受信感度(36CH)
HDMI信号なし -74dBm
HDMI信号あり -70.4dBm

3.6dBm 悪化

HDMI通信時の現象調査

それでは、HDMI通信時に何が起きているのでしょうか。現象を調査してみました。

Stick PCの構成とノイズ分布


電波吸収シートによる改善効果


先ほどのStickPCの基板表面の磁界分布をマッピングしたものになります。HDMI端子と無線回路、制御ICから構成されており、15cmx8cmほどのサイズに収納されているため、全ての回路が近接した状態にあります。
そのため、機器内部でノイズが発生するとアンテナなどのRF回路に結合して無線通信を簡単に阻害してしまいます。
今回のStickPCでは基板全体にノイズが分布しているように見えますので、電波吸収シートを全体に貼り付けてアンテナに結合しているノイズレベルが変化するのか確認を行いました。
すると、10dB程度ノイズレベルが低減しており、基板からアンテナに向かってノイズが結合していたことが分かります。

効果的な対策は?

先ほどは電波吸収シートを基板全体に貼り付けて、改善効果の確認を行いましたが、HDMIが動作するときにノイズが発生することを考えると、信号ラインをノイズが伝導している可能性が疑われます。
そこで、HDMIの信号・クロックラインにノイズ除去フィルタを使用してみることにしました。使用したフィルタは2種類で、一つはコモンモードチョークコイル、もう一つはπ型のLPFです。コモンモードチョークコイルは差動伝送ラインの信号波形に影響を及ぼさず、コモンモードのノイズのみ除去する効果をもつフィルタです。

コモンモードチョークコイルの効果


LPFの効果


コモンモードチョークコイルでは効果が見られず、π型のLPFでノイズの低減効果が見られました。 つまり、今回評価したStickPCではディファレンシャルモードのノイズが伝導しているということが分かります。
対象機器によっては、コモンモードのノイズ成分が支配的な場合もあるため、コモンモードチョークコイルが有効となるケースもあります。

フィルタの選定

ディファレンシャルモードのノイズが支配的であることが分かったため、ノイズ対策を行うためには信号に影響を与えないようなフィルタの選定を行う必要があります。

村田製作所では、5GHz帯にノイズ除去効果が得られるように、新しくBLF03VKシリーズというアイテムを商品化しております。そのシリーズの中から特性のアイテムを選定しました。
■ 5GHz帯向けフェライトビーズ
【特徴】従来のフェライトビーズのように低周波からインピーダンスが大きくなるのではなく、5GHzにおいてインピーダンスが大きくなるように、材料と内部構造の工夫を行っています。

Murata
Part Number
Impedance@5GHz
(ohm_typ)
Rated Current
(mA)
DC Resistance (max.) (ohm)
BLF03VK221SNG 220 800 0.155
BLF03VK600SNL 60 1200 0.065
ここでは、5GHz帯向けのフィルタのみ紹介しますが、その他にも、2.4GHz帯や700MHz帯向けのフィルタもラインナップを揃えています。


ノイズフィルタによる対策での効果

先ほどのπ型フィルタをBLF03VKに置き換えてノイズ低減効果を確認した結果が以下の図になります。クロックの高調波成分が10dB程度低減されていることが確認できます。

アンテナに結合するノイズ


WiFi 受信感度


黄色で塗りつぶした範囲がWiFi(11ac)で使われるチャンネルを示していますが、36chと124chでノイズが確認できます。
このため、ノイズが発生していたチャンネルでは、特に大きな受信感度の劣化が発生していましたが、新しいノイズフィルタで対策を行うことで、HDMIのクロックに起因する狭帯域ノイズが低減され、受信感度も改善させることが出来ました。

信号品位の確認

HDMIのデータ・クロックラインにフィルタを挿入したため、信号品位の確認を行いました。

フィルタなし


BLF03VK使用時

■ HDMI1.4の信号波形
HDMI1.4のプリコンプライアンステストを実施した結果になりますが、フィルタを使用してもアイマスクにヒットすることなく、テストをパスすることが分かります。
これは、BLF03VKシリーズが低周波帯においてインピーダンスが小さいことが貢献しており、ノイズを除去させたい帯域のみインピーダンスを大きくしたフィルタというものは信号品位時のためにも、今後必要になってくるものと考えられます。
ただし、実際に使用される場合の波形はICやセットの環境によって異なるため確認が必要です。



Murata Icon X まとめ

問題点 対策方法 対策部品
5GHzのWiFi信号が別の5GHz帯の無線回路に影響を及ぼす

WiFiモジュールの電源ラインにノイズフィルタを挿入する

・チップフェライトビーズ

差動伝送方式におけるクロックの高次高調波が5GHz帯まで発生している

データ・クロックラインに
ノイズフィルタを挿入する

・コモンモードチョークコイル
・チップフェライトビーズ


5GHz帯のノイズ対策事例として、2例紹介させていただきました。
5GHzという周波数は今まであまりなじみが無く、ノイズ問題の起こりにくい帯域と思われがちでしたが、実際に調べてみると、信号系・電源系のいずれでもノイズ問題が発生することが分かりました。
安定して高速通信させるために5GHz帯を選定したとしても、ノイズが発生する状態では最高のパフォーマンスを発揮することは出来ません。
今回ご紹介したノイズ対策部品を使用いただくことで、低ノイズ環境を作り出し、安定した通信品位が保てるようになります。

今回使用したシリーズはこちら

BLF03VKは5GHzのノイズを効果的に除去できるよう設計されたノイズフィルタです。


BLF03VK600SNL


BLF03VK221SNG