ノイズ対策技術 / 事例紹介(民生)

ワイヤレスヘッドホンのノイズ対策

1. はじめに

はじめにのイメージ画像

最近、"音楽を聴きながらのスポーツ"のシーンが増えてきて、ワイヤレスヘッドセットの人気が高まっています。
スマートフォンとヘッドセットの間の通信はBluetoothを使うケースが多いですが、ここで、通信不具合による音飛びが発生する事があり、対策が必要となります。

ユーザー評価の点では非常に重要で、且つ解決には難しい課題です。
ここでは、実際のケースを想定して、音飛びの原因となる機器内妨害のメカニズムと改善のためのポイントについて解説し、課題解決に役立つ対策方法をご紹介致します。

設計を円滑に進めるための一助にして下さい。

2. 設計時の悩み

設計時の悩みとして、主には2つあると思います。

  1. 音飛び対策で必ず解決が必要な、ヘッドホン機器内妨害
  2. ヘッドホンの中でも、特に図1のような左右が分離したトゥルーワイヤレスヘッドホンなど、実装面積の制約がある。
設計時の悩みのイメージ画像
図1. 設計時の悩み

ここで非常に重要なのが、「1.」のヘッドホン機器内妨害です。

3. ヘッドホン機器内妨害対策についての検証

ヘッドホン機器内妨害は、機器内の不要電波が通信に必要な信号に重畳され、雑音となって音飛びの発生原因となるケースが多いです。

ここでは市販品を使用し、Bluetoothでも機器内妨害対策の設計によって、音飛びの起こりやすさの違いを確認するために、2.4GHzの信号の最小受信レベルを測定確認致しました。

機器内妨害の観点で言うと、グラフの値が大きい方が、微弱な信号であっても通信を行うことが可能で音飛びが起こり難いことを表しています。

製品により様々なレベルであることが確認されましたが、なぜこれだけ違うのでしょう? 

どのような理由でこのような差が生じるのか、音飛びが多く観測された製品Aと、あまり観測されていない製品Dで確認してみました。

音飛び測定のイメージ画像
図2. 音飛び測定

製品Aと製品Dの最小受信レベルの違いを知るために、アンテナで受信するノイズスペクトラムを観察しました。Bluetoothのアンテナでは通信を行うための信号が流れますが、そこにノイズが入り込んでしまうと、通信障害が起こります。

図3.の左が受信感度の良い製品D、右側が感度の悪い製品Aです。
グラフの赤は電源がoffの状態のノイズレベル、青はペアリング状態のノイズレベルになります。

Bluetoothの場合、ホッピングを行いますので、狭帯域スペクトラムとして通信信号が見えています。感度の良かった製品Dは、通信信号のみが確認されるだけで、他のスペクトラムは見られません。

一方、感度の悪かった製品Aでは、数MHz程度の帯域をもつスペクトラムが確認されます。(赤色のマーク)

Bluetoothは通信時にホッピングを行うため、通信を行う全帯域にこのようなノイズスペクトラムが発生していると、通信信号とノイズが混在することになるため、感度が劣化します。

音飛び測定結果の製品比較のイメージ画像
図3. 音飛び測定結果の製品比較

赤色のマークの広帯域ノイズの原因を調べるために、製品Dの基板表面における磁界分布の測定を行いました。(図4)
実際のノイズ対策では、ノイズの発生源がセットや状況によって異なるため、ノイズ低減に効果的な回路箇所をあらかじめ特定しておくことはとても重要です。

図4の右側が、周波数を2.4GHzに固定した時の磁界分布強度の結果になります。赤色の部分が強い磁界を示しており、BluetoothのRF-ICの、特にDC-DCコンバータ回路部が磁界強度が強く、ノイズ対策箇所として有効ではないかと着目しました。

このノイズは、内部で電源生成を行うときのスイッチングノイズであり、スイッチング周波数の高次高調波が2.4GHz帯まで発生していると推測できます。

製品Dの基板表面における磁界分布の測定のイメージ画像
図4. 製品Dの基板表面における磁界分布の測定

ここからは、対策手法について紹介していきます。

図5の測定環境に従って測定を行い、Bluetoothのアンテナに結合するノイズを測定した結果です。
非常に大きなノイズが観測され、レベルを下げるためのノイズ対策が必要です。

Bluetoothのアンテナに結合するノイズ測定結果のイメージ画像
図5. Bluetoothのアンテナに結合するノイズ測定結果

Bluetoothのノイズ対策を行う上で、対策箇所のポイントは2つあります。

一つは、電源ライン、もう一つはクロックラインです。

電源ラインは、スイッチングによる高次高調波、クロックは信号の高次高調波が2.4GHz帯にまで及ぶため、Bluetooth信号に対してノイズとなります。ノイズの伝導を抑制するためのフィルタリングが有効となります。

ムラタとしては、2.4GHz帯のノイズ除去を目的とした、フィルタを2種類商品化しています。
一つは、電源ライン向けのBLF02RD、LQZ02HQ、もう一つはクロックライン向けのLQZ02HQシリーズです。

BLF02RDの詳細はこちら

LQZ02HQの詳細はこちら

それぞれの特性については、次にご紹介します。

表1と図6のグラフは、今回ノイズ対策に使用したBLF02RD、LQZ02HQの代表的な電気仕様と挿入損失周波数特性です。

電源ラインやクロックラインが大きなノイズ源となる事例が多く、その回路箇所への適切なフィルタを使うことが効果的です。

表1. 電気仕様

品名 在庫検索 ノイズ対策
ターゲット周波数
インピーダンス @2.4GHz 定格電流/直流抵抗 Feature Target circuit
BLF02RD buy now 2.4GHz 330Ω 330mA/0.6Ω 広帯域ノイズ対応 電源ライン
470Ω 200mA/0.9Ω
LQZ02HQ buy now 580Ω 200mA/0.55Ω 狭帯域ノイズ対応 電源ライン/クロックライン
挿入損失周波数特性のイメージ画像
図6. 挿入損失周波数特性

4. 測定結果(アンテナ結合ノイズ)

Bluetooth通信時におけるアンテナに結合するノイズスペクトラムの測定結果です。

電源ラインにBLF02RDを挿入しました。狭帯域ノイズが5dB程度改善でき、BLF02RDが有効であることが確認できました。

BLF02RDの詳細はこちら

LQZ02HQの詳細はこちら

電源ライン:BLF02RD測定結果のイメージ画像
図7. 電源ライン:BLF02RD測定結果

同じくLQZ02HQを電源ラインに挿入しました。
同様に狭帯域ノイズに対して約5dBの改善が確認できました。

電源ライン:LQZ02HQの測定結果のイメージ画像
図8. 電源ライン:LQZ02HQの測定結果

続きまして、クロックラインにLQZ02HQを挿入した時の波形とノイズスペクトラムです。

LQZ02HQは、低周波の減衰特性が小さいため、信号品位は維持したまま、問題となる2.4GHz帯のスペクトラムのみ除去することが可能です。
そのため、クロックのような信号ラインでの対策に有効です。

クロックライン:LQZ02HZの測定結果のイメージ画像
図9. クロックライン:LQZ02HZの測定結果

5. まとめ

今回のケースでは、DC-DCコンバータ回路へのノイズフィルタの挿入が効果的でしたが、ノイズ源は場合によって異なります。
先の例で示した確認方法は一例ですが、ノイズ源を特定するのはノイズ対策検討を進めるうえで非常に重要です。

お勧めのノイズフィルタは、回路箇所により異なりBLF02RD/LQZ02HQをご用意しています。

電源ラインはBLF02RD/LQZ02HQを、クロックラインはLQZ02HQです。
いずれのシリーズも2.4GHzの高い周波数で減衰量が大きく、ノイズ減衰の点で大きな効果が期待できます。

今回のケースでは、同一回路内からのノイズが、Bluetoothの通信信号に干渉した際のノイズ対策の一例をご紹介致しました。
Bluetooth以外でも2.4GHzの周波数で通信する機器にも同様の適用できる技術であるのと、2.4GHzという高い周波数で効果の高いノイズ対策部品を、0.4mm×0.2mmという超小型サイズで実現しており、部品を追加する場合でも省面積搭載を考慮しております。

音飛び対策、小型のご要望の設計の際にお役立て下さい。

BLF02RDの詳細はこちら

LQZ02HQの詳細はこちら

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