ノイズ対策技術 / 事例紹介(民生)

MIPI C-PHYのノイズ対策

1. はじめに

近年のスマートフォンは、情報量の増加に従って大画面・高解像度化してきています。これに伴って、ディスプレイに送られる映像信号のデータ量も増加しています。
これらの信号を効率よく伝送するために、これまでMIPI D-PHYと言われる差動伝送のインターフェイスが使われていましたが、より高速に伝送できるインターフェイスとして、MIPI C-PHYが使われ始めています。
MIPI C-PHYでは伝送方式が従来のD-PHYと異なるため、従来とは異なるノイズフィルタが必要となります。
ここでは、MIPI C-PHYのノイズ対策で知っておくべき特長と、MIPI C-PHY用に商品化されたノイズ対策部品について解説します。

はじめにの図

2. MIPI C-PHYとは

MIPI C-PHYは標準化団体MIPI Allianceが策定した携帯機器内のデータ伝送の規格で、D-PHYの1レーンあたり最大2.5Gbpsに対してC-PHYは5.7Gbpsと信号速度が高速化されています。
D-PHYの後継としてM-PHYも規格化されていますが、C-PHYはD-PHYとM-PHYの間をつなぐ規格として標準化されました。
D-PHYは1レーンあたり2ピンで構成される一般的な差動伝送ラインですが、C-PHYは1レーンあたり3ピンで構成される複雑な差動伝送ラインとなっています。

D-PHY ver1.2 項目 C-PHY ver1.0
2ピン ピン数/1レーン 3ピン
4ピン
(データ:1レーン,クロック:1レーン)
最小動作ピン数 3ピン(1レーン)
High Speed(HS)モード
Low Power(LP)モード
モード High Speed(HS)モード
Low Power(LP)モード
カメラライン
ディスプレイライン
想定される
採用箇所
カメラライン
ディスプレイライン
80Mbps~2.5Gbps 転送速度/1レーン(HS) 183Mbps~5.7Gbps
(80M~2.5Gsym/s)

■ C-PHYのメリット

  • C-PHYでは3ラインで伝送→データ転送速度が向上(※信号周波数はD-PHYと同じ)
  • クロックラインが存在しない→従来よりも省スペース

■ MIPI C-PHYの信号伝送

MIPI C-PHYの信号伝送のイメージ画像
  • 3ラインを1レーンとしてデータ転送する
  • クロックラインは存在しない。
  • 3ライン(A,B,C)の値はHigh、Middle、Lowのどれかになる
  • 3ラインはそれぞれ異なる値となる。(2つ以上のラインが同じ状態になることはない)
  • 受信は2ラインごと(AB,BC,CA)の差動
  • 各ラインは50Ωに整合、差動で100Ω

3. MIPI C-PHYに必要なノイズフィルタ

従来のMIPI D-PHYでは差動信号に悪影響を与えずにコモンモードノイズを除去する必要があるため、2ラインのコモンモードノイズフィルタが利用されていました。ところが、MIPI C-PHYでは3つの信号ラインを使って差動信号を送信するため、通常のコモンモードノイズフィルタをそのまま使うことができません。
下図の左に示すように3つのコモンモードノイズフィルタを組み合わせる方法が考えられますが、信号への影響が大きく発生し、コモンモードノイズの除去効果もあまり期待できません。このため、MIPI C-PHYのノイズ対策には3ラインの差動信号に対応したコモンモードノイズフィルタが必要になってきます。

MIPI C-PHYに必要なノイズフィルタのイメージ画像

3つのラインを内部で磁気結合させた3ラインコモンモードノイズフィルタを使った場合、信号がうまく伝送できるかどうか回路シミュレーションで確認してみました。
2ラインのフィルタでは伝送波形が乱れてしまいましたが3ラインのコモンモードノイズフィルタを使った場合、波形が乱れることなく信号が伝送されていることがわかります。

■ シミュレーションによる波形検証

~2ラインと3ラインのコモンモードノイズフィルタ比較

2ラインと3ラインのコモンモードノイズフィルタ比較のイメージ画像1
2ラインと3ラインのコモンモードノイズフィルタ比較のイメージ画像2

■ MIPI C-PHYに必要なノイズフィルタ

  • MIPI C-PHYの3ライン構成に対応した3ラインノイズフィルタであること
  • 信号品位に悪影響を与えないこと
  • 広い周波数範囲にわたるコモンモードノイズを除去できるノイズフィルタであること

4. MIPI C-PHY用に開発されたコモンモードノイズフィルタ

NFG0NCN_HL3シリーズは、MIPI C-PHYにおけるコモンモードノイズ対策のために開発されたノイズフィルタです。
0.90x0.68mmの小型サイズの中に3ラインが磁気結合したコモンモードノイズフィルタの構成となっています。
NFG0NCN162HL3は、900MHzから3GHzの間でコモンモード減衰量のピークを持ち、キャリア周波数へのノイズ干渉を防止するのに適しています。

■ MIPI C-PHY用に開発されたコモンモードノイズフィルタ

NFG0NCN_HL3シリーズ 

MIPI C-PHY用として、3ライン構成となっています。

MIPI C-PHY用に開発されたコモンモードノイズフィルタのイメージ画像
品番 在庫検索 コモンモードインピーダンス
(at 100MHz)
コモンモード減衰量(Typ.) 定格電流 定格電圧
800MHz 1GHz 1.6GHz
NFG0NCN162HL3 buy now 25Ω±25% 19dB 22dB 29dB 100mA 5Vdc

5. NFG0NCN_HL3シリーズによるノイズ対策効果

NFG0NCN162HL3シリーズを使ってノイズ対策効果を確認しました。
以下の図は伝送線路から放射されるノイズスペクトラムをフィルタ挿入前後で比較したものです。
NFG0NCN162HL3を挿入することによって、2GHz以下で目立っていたノイズを大幅に除去することができています。

■ MIPI C-PHY用コモンモードノイズフィルタのノイズ対策効果①

MIPI C-PHY用コモンモードノイズフィルタのノイズ対策効果①のイメージ画像

次に、基板上のノイズ分布がどれだけ変化するかを近磁界プローブで観察しました。
フィルタ挿入部より後の場所ではノイズの分布が減少しており、0.8GHzや1GHzのノイズ減少量が目立っています。

■ MIPI C-PHY用コモンモードノイズフィルタのノイズ対策効果②

MIPI C-PHY用コモンモードノイズフィルタNFG0NCN_HL3シリーズのノイズ対策効果を確認しました。

MIPI C-PHY用コモンモードノイズフィルタのノイズ対策効果②のイメージ画像

6. 信号波形の検証

NFG0NCN_HL3シリーズを信号ラインに挿入することにより、信号波形に悪影響が出ないか確認しました。信号のアイパターンはテンプレートの規格を満たしていることが確認できました。

■ MIPI C-PHY用コモンモードノイズフィルタの信号伝送特性の確認

MIPI C-PHY用コモンモードノイズフィルタの信号伝送特性の確認のイメージ画像

7. コモンモードノイズフィルタによるスキューの改善効果

コモンモードノイズフィルタは差動信号ラインのスキューを改善する効果もあります。
スキューというのは複数の信号ライン間の信号伝搬時間のずれのことで、回路の非対称性等によって発生しますが、それぞれの信号がずれることによって受信側が受け取る信号電位差が変化することによって、回路の動作マージンが減少します。
スキューがある差動信号回路にコモンモードフィルタを利用すると、スキューによって生み出されたコモンモード成分が除去され、スキューが改善されます。以下にコモンモードノイズフィルタによってスキューが改善された例を示します。

■ コモンモードノイズフィルタによるスキュー改善効果

コモンモードノイズフィルタにより、伝送信号のスキューを改善する効果が期待できます。
信号のスキュー(信号間のタイムラグ)はコモンモードで伝わるため、コモンモードノイズフィルタを使用することによりスキューを改善することができます。

コモンモードノイズフィルタによるスキュー改善効果のイメージ画像

8. まとめ

  • MIPI C-PHYは従来の差動伝送ラインと異なり、3ライン伝送であるため、従来の2ライン用コモンモードノイズフィルタは使用できません。
  • NFG0NCN_HL3シリーズはMIPI C-PHYで使用することを前提に設計された3ラインコモンモードノイズフィルタです。
  • NFG0NCN_HL3シリーズを使用することにより、 MIPI C-PHYに伝送するコモンモードノイズを低減することができ、信号品位の劣化は低く抑えられています。
  • コモンモードノイズフィルタを使用することにより、信号のスキューを改善することもできます。

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