ノイズ対策技術 / 事例紹介(民生)
Qi規格のワイヤレス給電モジュールのノイズ対策
INDEX
1. 概要
Qiに準拠したワイヤレス給電の送信モジュール・受電モジュールについてノイズ評価及びノイズ対策を検討し、効果的なノイズ対策手法を確立しました。
受電側・送電側の療法で対策が必要であるため、それぞれの回路の対策を順に紹介します。
2. ワイヤレス給電モジュールにおけるノイズ問題
ワイヤレス給電した際に、音声通信の受信感度の抑圧が発生するか調査しました。
その結果、ワイヤレス給電することで、800MHz帯において受信感度の抑圧が発生していることが確認されました。また、受信感度の抑圧は、全周波数に亘って一様に発生していました。
受信感度の測定結果(800MHz帯)
全帯域にわたって受信感度の抑圧が発生しています。
3. ノイズ発生 / ノイズ伝搬メカニズム
ノイズ切り分け調査の結果、受電モジュールのノイズメカニズムを推定しました。
主なノイズ源は2つあります。
1つ目は充電器です。
2つ目は受電モジュール内の受電ICです。
これらのノイズが、受電モジュール基板から直接放射するまたは、電源ラインおよびGNDラインを伝導し、スマートフォンの基板や導線から放射し、それがアンテナに結合することによって受信感度の抑圧が発生すると考えられます。
ワイヤレス受電モジュールの簡易的な等価回路
- ノイズ源
①充電器(受電コイルに結合)
②受電IC - 伝搬モード
①受電モジュール基板から放射
②電源/GNDラインを伝導 → スマートフォンの基板または導線から放射
充電器から放射されるノイズと、受電モジュール内で発生するノイズが存在します。
補足:
充電器の送電コイルと直列に入っているコンデンサ、受電モジュールの受電コイルと直列/並列に入っているコンデンサは規格で規定されています。
受電IC後のコンデンサは、整流用のコンデンサです。
伝搬モード②の導線とは、受電モジュールとスマートフォンを接続する導線や、スマートフォン内の導線を意味しています。
ワイヤレス受電モジュールのノイズ対策
ノイズ問題のメカニズム
4. ノイズ対策
次に、ワイヤレス受電モジュールの簡易的な等価回路(ノイズ対策回路)について説明します。
ノイズ対策回路
図の通り受電コイルの根元(2箇所)にフェライトビーズを挿入します。
これにより、充電器から放射され受電コイルに結合したノイズが受電モジュール内へ伝搬するのを防止できます。
スマートフォンへとつながる電源ラインおよびGNDラインにフェライトビーズを挿入します。
これにより、受電ICから発生したノイズがスマートフォンへ伝導するのを防止できます。
また、使用するフェライトビーズとしては、小型/大電流対応のBLM15PD800SN1を推奨します。
以下のノイズ対策により、音声通信の受信感度の改善が可能です。
①受電コイルの根元にフェライトビーズ(推奨:BLM15PD800SN1)
②スマートフォンにつながる電源ラインにフェライトビーズ(推奨:BLM15PD800SN1)
③スマートフォンにつながるGNDラインにフェライトビーズ(推奨:BLM15PD800SN1)
①は充電器から放射され、受電コイルに結合するノイズに効果があります。
②③は受電ICで発生するノイズに効果があります。
補足:
充電器からの漏れ磁束が大きい場合、受電側のノイズ対策だけでは受信感度を改善できない場合があります。
充電器でもノイズ対策を十分に行う必要があります。
また、充電器からの漏れ磁束が大きい場合は、送電コイルから放射されたノイズがアンテナに直接結合するので、フェライトビーズを使った対策では効果がありません。
その場合は、電波吸収シートを受電コイルよりも大きくする(ケース全体に貼るイメージ)ことで、アンテナへの結合を防止し、受信感度を改善できます。
回路の共振周波数への影響
上図のノイズ対策が充電器の動作に悪影響を与えないか検討しました。
フェライトビーズの挿入により、回路(受電コイル+直列コンデンサ、受電コイル+直列コンデンサ+並列コンデンサ)で形成するインピーダンス特性が変化すると送受電が変化するため問題となります。
Qiでは、
「受電コイル+直列コンデンサの共振周波数=100kHz+5%-10%、受電コイル+直列コンデンサ+並列コンデンサの共振周波数=1000kHz±10%」と規定されています。
フェライトビーズを挿入した時に、回路(ここでは例として受電コイル+直列コンデンサ)のインピーダンス特性がどのようになるか計算しました。インダクタンス値、容量値が異なる2種類の場合を想定して、計算しています。
条件①:受電コイル=25uH、直列C=100nF
条件②:受電コイル=10uH、直列C=250nF
条件①は評価用に用意したセットに設定されていた実測値、条件②はインダクタンスが上記の半分以下の値になるよう設定しました。(送電コイルのインダクタンスが小さいとフェライトビーズの影響を受けやすいため。)
フェライトビーズを挿入しても、回路のインピーダンス特性に影響はありません。
結果、フェライトビーズを挿入しても、回路のインピーダンス特性に影響はありませんでした。よって、フェライトビーズを挿入しても、充電器の動作に与える影響は小さいと考えられます。
補足:
受電コイルのインダクタンス値(10~20uH程度)と比較して、BLM15PD800SN1のL値は210nH(LCRメーターでの実測値)と小さいため、共振周波数が変化しないといえます。
5. ノイズ対策の効果
前項で説明したノイズ対策を施した時の、ワイヤレス給電中の受信感度を評価しました。
その結果、全周波数にわたって受信感度が改善していました。
今回の評価サンプルでは、最大5dB改善し、ワイヤレス給電中の受信感度の抑圧はゼロとなっています。
フェライトビーズを用いたノイズ対策により、受信感度を大幅に改善できます。
6. 受電モジュールのノイズ対策のまとめ
ワイヤレス受電モジュールのノイズ問題
充電器で発生したノイズが送電コイルから受電コイルに結合し、無線回路に侵入することにより、無線回路の受信感度が抑圧されます。
ノイズ対策手法
以下のように、受電回路側にフェライトビーズを使用してノイズ対策を行うことにより、無線回路の受信感度の改善が可能です。
①受電コイルの根元にフェライトビーズを搭載(推奨:BLM15PD800SN1)
②スマートフォンにつながる電源ラインにフェライトビーズを搭載(推奨:BLM15PD800SN1)
③スマートフォンにつながるGNDラインにフェライトビーズを搭載(推奨:BLM15PD800SN1)
ワイヤレス送電モジュールのノイズ対策
受電モジュールに引き続き、送信モジュールで対策が必要なノイズについて考察します。送信モジュールでは、送電コイルに交流を供給するために使われるインバータがノイズ源となります。電源ケーブルから放射するノイズは外部に放射するノイズとして問題になり、送電コイル側に流れ込むノイズは外部に放射するだけでなくスマートフォン本体の受信感度低下という問題に繋がります。
このあと、放射ノイズ対策と受信感度低下対策の2つの観点からノイズ対策をすすめます。
ノイズ問題個所
放射ノイズ:①送電コイル&②電源ケーブル
受信感度 :①送電コイル
最初に放射ノイズ対策を行いました。
インバータから電源ケーブル側に漏れるノイズと送電側に漏れるノイズの2種類があるため、それぞれ対策回路を挿入します。(対策①・対策②)
放射するノイズはコモンモードで伝導するものが主体となるため、コモンモードチョークコイルを使用します。また、送電コイル側は高周波のノイズが多く含まれるため、ラインバイパスコンデンサも併用します。
電源ケーブル側にノイズ対策部品を接続しました。この対策によって、放射ノイズは最大12dB改善しました。
送信コイル側にノイズ対策部品を接続しました。この対策によって、放射ノイズは最大12dB改善しました。
電源ケーブル側と送信コイル側の両方にノイズ対策を適用することによって、放射ノイズは最大14dB改善しました。
続いて受信感度低下対策を行います。対策方法は放射ノイズ対策で送信コイル側に行ったものと同じで、コモンモードチョークコイルとラインバイパスコンデンサを使用しました。その結果、受信感度が最大12dB改善されました。
7. 送電モジュールのノイズ対策のまとめ
- 送電モジュールのインバータがノイズ源となり、電源ケーブル側や送電コイル側にノイズが伝導して放射し、放射ノイズとなったり受信感度を低下させたりしています。
- インバータの電源ケーブル側と送電コイル側にコモンモードチョークコイルとコンデンサを組み合わせたフィルタを組み込むことで、放射ノイズ対策と受信感度低下対策を行うことができます。
記事内で紹介したノイズ対策部品
チップフェライトビーズ BLM15PDシリーズ
- チップサイズ:1.0x0.5x0.5mm
- インピーダンス@100MHz:80Ω
- 定格電流:1.5A (85℃以上で使用する際はディレーティングあり)
チップコモンモードチョークコイル DLW5BTMシリーズ
- チップサイズ:5.0x5.0x2.5mm
- コモンモードインピーダンス:1400Ω@100MHz
- 定格電流:1.5A