インダクタの基礎知識高周波インダクタ- マッチングについて

高周波インダクタのインピーダンス整合についてご紹介しています。
※当社では、高周波回路の使用に適しているインダクタを「高周波インダクタ」、「RFインダクタ」と呼んでいます。

1インピーダンス整合 (マッチング)

高周波回路では、回路間のインピーダンス整合 (マッチング) が重要となります。
インピーダンス整合とは、信号の伝送路において、送り出し側回路の出力インピーダンスと、受け側回路の入力インピーダンスを合わせることであり、整合を取ることにより送り出し側の電力を受け側に最大に伝送することができます。

整合回路にはコンデンサやインダクタが使用されますが、実際のコンデンサやインダクタは理想的な素子とは違い、損失があります。この損失を表すものとしてQがあります。Qが大きいものは損失の少ないコンデンサやインダクタであることを示しています。

2インダクタのQと高周波回路の損失

さて、整合回路に使用するインダクタのQの大きさによって高周波回路の損失にも影響を及ぼします。
このことを確認するために、弊社のSAWフィルタ (通過帯域800MHz帯) とRFインダクタを用いて整合回路にQの違うRFインダクタを載せ替え、SAWフィルタの挿入損失を測定・比較しました。

図1に回路図を示します。今回の回路の場合、整合回路と言ってもRFインダクタが1つだけです。

Figure 1: shows the circuit diagram. 図1: SAWフィルタと整合回路

図2に今回載せ替えを行ったRFインダクタのQの周波数特性、表1に構造、サイズ、Q (800MHzでのTyp.値) を示します。

Figure 2: Comparison of RF Inductor Q (both 7.5 nH) 図2: RFインダクタのQ比較 (ともに7.5nH)

 

表1 RFインダクタの比較
品番 構造 サイズ (mm) Q
LQW15AN7N5H00 巻線 1.0×0.5 59
LQW04AN7N5D00 巻線 0.8×0.4 48
LQG15HN7N5J02 積層 1.0×0.5 33
LQP03TN7N5H02 フィルム 0.6×0.3 27

※図2のグラフは、弊社が提供しています設計支援ツールSimsurfing 別ウィンドウで開く を使い表示させたものです。

整合回路のRFインダクタを載せ替えたときのSAWフィルタの全体特性を図3に、通過帯域特性を図4に示します。

  • Figure 3: Overall Characteristics of SAW Filter 図3: SAWフィルタの全体特性
  • Figure 4: Pass Band Characteristics of SAW Filter 図4: SAWフィルタの通過帯域特性

図4の通過帯域特性を見ますと、使用したRFインダクタによってSAWフィルタの挿入損失が違っていることが確認できます。高周波回路ではこのレベルの損失の違いが重要になってきます。
今回の実験結果から、RFインダクタのQの大きいもの (損失の小さいもの) ほど、SAWフィルタの挿入損失が小さいことがわかります。つまり、インダクタの損失の大小が整合回路を含んだSAWフィルタの損失の大小となります。

なお、使用する高周波部品 (今回はSAWフィルタ) や整合回路、周波数帯などにより、損失は変わってきますので、ご注意ください。

3インダクタの偏差と整合回路への影響

実際のインダクタのインダクタンス値は、1.0nH、1.1nH、1.2nHという不連続な値となります。
マッチングを行う際、微調整のために細かな定数ステップが必要となることがあります。
また、インダクタンス値の偏差 (ばらつき) がマッチングのばらつきとなるため、必要特性を満たすためには狭偏差のインダクタが必要となることがあります。
弊社のインダクタでは、細かな定数ステップや狭偏差の対応については、フィルムタイプのLQPシリーズ 別ウィンドウで開く が最適です。

以上より、整合回路のRFインダクタは、Q特性・偏差・サイズ、そしてコストなどを比較検討し、選択してください。