インダクタの違いがBluetooth® Low Energyの電力変換効率にどのように影響を及ぼすかを調査しました。ここで、インダクタにおけるロスにはDCロスとACロスがあることに着目しています。DCロスは、インダクタに流れる電流の直流成分に起因する損失であり、直流抵抗(Rdc)と電流の直流成分(Idc)を用いて以下のように表されます。
一方、ACロスは主にインダクタに流れる電流の交流成分に起因する損失であり、巻線抵抗+コアロスによる見かけ上の抵抗である交流抵抗(Rac)と電流の交流成分(Irms)を用いて以下のように表されます。
交流成分(Irms)は電流振幅の大きさを表すものであり、この値はスイッチング周波数を高くすることやパワーインダクタのインダクタンスを高くすることで、低減することができます。
Bluetooth® Low Energy ICに内蔵されたDC-DCコンバータは、2020年現在ではスイッチング周波数が1MHz程度のものと4MHz程度のものが主流です。そこでそれぞれの周波数ごとにインダクタンス1.5uHと10uHのインダクタを使用した場合、DCロスとACロスの割合がどの程度になるかをシミュレーションしてみました(図1)。
周波数条件などにもよりますが、パワーインダクタではRdcよりもRacの方が大きくなります。そのため、図1に示すような負荷電流(=Idc)が50mA以下と小さい領域においては、DCロスは非常に小さくなり、ACロスが大部分を占めていることが分かります。
この結果より、 Bluetooth® Low Energy用途でのインダクタロスを低減するためには、ACロスに影響をあたえるインダクタンスやRacが重要なパラメータとなります。
低Racでインダクタンスを高く取得するのが理想的ですが、インダクタンスを取得しようとすると、巻き線抵抗やコアロスが増加してしまいます。そのため、インダクタンスとRacのバランスが重要になります。
Rdcについては、DCロスの割合が小さいBluetooth® Low Energy環境においては影響度が低いと考えることができます。ただし、大きくなりすぎると無視できなくなるので注意が必要です。
DC-DCコンバータの電力ロス要因としては、インダクタロスの他にもICのスイッチングロスやIC導通ロスなどが考えられます。
Bluetooth® Low Energy向けパワーインダクタでは、インダクタンスの大きさがスイッチングロスに影響する場合があるので、その点も考慮して選定する必要があります。
図2はインダクタに流れる電流波形をシミュレーションしたものです。
Bluetooth® Low Energyのような低負荷での動作時には、電力変換効率を向上させるために一般的にPFM制御(パルス周波数変調)と呼ばれる制御モードで動作します。PFM制御では、スイッチングを連続的には行わず回数を減少させることで電力変換効率を向上しています。図2の左図は同じ周波数でインダクタンスを変更した際の電流波形です。
インダクタンスを大きくした方が電流振幅を小さく抑えられていますが、トータルの電流量を合わせるために三角波の発生数が増加しています。これはスイッチング回数の増加を意味しており、スイッチングロスが増加することになります。同じく図2の右図は、同じインダクタンスで周波数を変更した際の電流波形です。周波数が高い方が電流振幅を小さく抑えられていますが、スイッチング回数は増加していることが分かります。
このようにPFM制御においては、インダクタンスや周波数を高くして電流振幅を小さくすることによりACロスを低減できる一方で、スイッチングロスを増加させる側面をもっています。
それでは、どの程度のインダクタンス値を使うのがよいのでしょうか?
図3では、スイッチング周波数1MHzと4MHzの両方で、インダクタンス値を変えたときのDC-DCコンバータのロスをシミュレーションしてみました(LQM21P-GHシリーズの特性をベースに、インダクタンス値の変動に合わせてRacも変化させて計算しています)。
グラフはDC-DCコンバータのトータルロスとインダクタだけのロスをそれぞれ表示しています。
スイッチング周波数が低い1MHzの場合は、インダクタンスが大きいほどインダクタロスが低下しており、これに伴いトータルロスも低下していることが分かります。
一方、4MHzの場合は、インダクタンスが大きいほどインダクタロスが低下していますが、トータルロスとしては増加する結果となっています。これは、インダクタンスが大きくなることによりスイッチングロスが増加したことが原因です。
1MHzに対して4MHzの場合では、そもそものスイッチング回数が多くスイッチングロスの割合が大きいため、インダクタンスの変動によるスイッチングロスの増加が著しくみられたといえます。
これらの結果より、トータルロスを低減するインダクタンス値は、1MHzの場合は10µH程度が適切であり、4MHzの場合は0.47µH~1.0µHが適切となります。