電源系インダクタBluetooth® Low Energy向け電源に最適なパワーインダクタ
LQMシリーズの紹介

1Bluetooth® Low Energyとは?

これまで、Bluetooth®はワイヤレスヘッドセット、ワイヤレスヘッドホンなど近距離の音声通信の手段として普及してきました。

Bluetooth® Low Energyは、このBluetooth®をより省電力にしてIoTなどでの使い勝手を向上させ、 Bluetooth® 4.0で追加された規格です。

従来のBluetooth®と同様、2.4GHz帯の電波を用いて通信を行いますが、従来のBluetooth®に比べ伝送速度や到達距離を抑えることにより低消費電力を実現しています。

2推奨されるBluetooth® Low Energy用パワーインダクタ

IoT向けのデバイスは、ビーコンや活動量計など小型のものが多く、パワーインダクタもより小型で低価格のものが望まれます。

結論が先になりますが、 Bluetooth® Low Energy用として推奨できるパワーインダクタをここで紹介します。積層構造のフェライトコアを採用した1608サイズのLQM18DN100M70とLQM18PNR47NFRです。
特にLQM18DN100M70は、当社の積層技術を駆使した新商品で、低Rdcでありながら10μHという高いインダクタンスと優れた直流重畳特性を達成しています。

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表1 Bluetooth® Low Energy用として推奨するパワーインダクタ
内蔵DC-DCコンバータの
スイッチング周波数
サイズコード 品 番 インダクタンス値
1MHz 1608 LQM18DN100M70 10µH
4MHz 1608 LQM18PNR47NFR 0.47µH

これらがどういう理由でBluetooth® Low Energy用として推奨されるのかという点について、この後説明していきます。

3Bluetooth® Low Energyに使用されるパワーインダクタに必要な特性

Bluetooth® Low Energy はBluetooth® Low Energy用ICに内蔵されたDC-DCコンバータによって必要な電圧が用意されます。

この際、電圧変換用のパワーインダクタが外付けされますが、ここで使用するパワーインダクタの性能によってDC-DCコンバータの電力変換効率が左右されます。
Bluetooth® Low Energyにおいては省電力であることが重視されるため、電力変換効率にすぐれたパワーインダクタを外付けすることが求められるのです。

ここでは、Bluetooth® Low Energyに適したパワーインダクタについて、必要な性能の考察を行い、具体的な商品を紹介します。

4インダクタの違いが電力変換効率に与える影響の調査

インダクタの違いがBluetooth® Low Energyの電力変換効率にどのように影響を及ぼすかを調査しました。ここで、インダクタにおけるロスにはDCロスとACロスがあることに着目しています。DCロスは、インダクタに流れる電流の直流成分に起因する損失であり、直流抵抗(Rdc)と電流の直流成分(Idc)を用いて以下のように表されます。

一方、ACロスは主にインダクタに流れる電流の交流成分に起因する損失であり、巻線抵抗+コアロスによる見かけ上の抵抗である交流抵抗(Rac)と電流の交流成分(Irms)を用いて以下のように表されます。

交流成分(Irms)は電流振幅の大きさを表すものであり、この値はスイッチング周波数を高くすることやパワーインダクタのインダクタンスを高くすることで、低減することができます。

Bluetooth® Low Energy ICに内蔵されたDC-DCコンバータは、2020年現在ではスイッチング周波数が1MHz程度のものと4MHz程度のものが主流です。そこでそれぞれの周波数ごとにインダクタンス1.5uHと10uHのインダクタを使用した場合、DCロスとACロスの割合がどの程度になるかをシミュレーションしてみました(図1)。

周波数条件などにもよりますが、パワーインダクタではRdcよりもRacの方が大きくなります。そのため、図1に示すような負荷電流(=Idc)が50mA以下と小さい領域においては、DCロスは非常に小さくなり、ACロスが大部分を占めていることが分かります。

この結果より、 Bluetooth® Low Energy用途でのインダクタロスを低減するためには、ACロスに影響をあたえるインダクタンスやRacが重要なパラメータとなります。
低Racでインダクタンスを高く取得するのが理想的ですが、インダクタンスを取得しようとすると、巻き線抵抗やコアロスが増加してしまいます。そのため、インダクタンスとRacのバランスが重要になります。
Rdcについては、DCロスの割合が小さいBluetooth® Low Energy環境においては影響度が低いと考えることができます。ただし、大きくなりすぎると無視できなくなるので注意が必要です。

図1 Bluetooth® Low Energy用電源ICのACロス/DCロスの割合

DC-DCコンバータの電力ロス要因としては、インダクタロスの他にもICのスイッチングロスやIC導通ロスなどが考えられます。
Bluetooth® Low Energy向けパワーインダクタでは、インダクタンスの大きさがスイッチングロスに影響する場合があるので、その点も考慮して選定する必要があります。

図2はインダクタに流れる電流波形をシミュレーションしたものです。
Bluetooth® Low Energyのような低負荷での動作時には、電力変換効率を向上させるために一般的にPFM制御(パルス周波数変調)と呼ばれる制御モードで動作します。PFM制御では、スイッチングを連続的には行わず回数を減少させることで電力変換効率を向上しています。図2の左図は同じ周波数でインダクタンスを変更した際の電流波形です。

インダクタンスを大きくした方が電流振幅を小さく抑えられていますが、トータルの電流量を合わせるために三角波の発生数が増加しています。これはスイッチング回数の増加を意味しており、スイッチングロスが増加することになります。同じく図2の右図は、同じインダクタンスで周波数を変更した際の電流波形です。周波数が高い方が電流振幅を小さく抑えられていますが、スイッチング回数は増加していることが分かります。

このようにPFM制御においては、インダクタンスや周波数を高くして電流振幅を小さくすることによりACロスを低減できる一方で、スイッチングロスを増加させる側面をもっています。

図2 インダクタンス値やスイッチング周波数を変えたときの電流波形

それでは、どの程度のインダクタンス値を使うのがよいのでしょうか?
図3では、スイッチング周波数1MHzと4MHzの両方で、インダクタンス値を変えたときのDC-DCコンバータのロスをシミュレーションしてみました(LQM21P-GHシリーズの特性をベースに、インダクタンス値の変動に合わせてRacも変化させて計算しています)。
グラフはDC-DCコンバータのトータルロスとインダクタだけのロスをそれぞれ表示しています。

スイッチング周波数が低い1MHzの場合は、インダクタンスが大きいほどインダクタロスが低下しており、これに伴いトータルロスも低下していることが分かります。
一方、4MHzの場合は、インダクタンスが大きいほどインダクタロスが低下していますが、トータルロスとしては増加する結果となっています。これは、インダクタンスが大きくなることによりスイッチングロスが増加したことが原因です。
1MHzに対して4MHzの場合では、そもそものスイッチング回数が多くスイッチングロスの割合が大きいため、インダクタンスの変動によるスイッチングロスの増加が著しくみられたといえます。

これらの結果より、トータルロスを低減するインダクタンス値は、1MHzの場合は10µH程度が適切であり、4MHzの場合は0.47µH~1.0µHが適切となります。

図3 インダクタンス値と電源ロスの関係

5Bluetooth® Low Energyに適したインダクタのまとめ

図4にBluetooth® Low Energyに適したインダクタのまとめを示します。
これまでに解説しているように、スイッチング周波数が1MHzの場合はインダクタンスが10µH程度、4MHzの場合はインダクタンスが0.47µH~1.0µHが適切といえます。

【1MHzのとき】

インダクタンスは10µH以上で、低Racが重要。
推奨インダクタ : LQM18DN100M70

【4MHzのとき】

インダクタンスは0.47~1.0µHで、低Racが重要。
推奨インダクタ : LQM18PNR47NFR

図4 パワーインダクタの必要特性まとめ

6Bluetooth® Low Energy用に選択したインダクタのパフォーマンス

Bluetooth® Low Energy向けの評価ボードを用いて、パワーインダクタを置き換えたときの消費電力の比較評価を行いました。同じインダクタンスをもつインダクタでも、直流抵抗や磁性体特性の違いによりその結果は変わってきます。

図5はスイッチング周波数1MHzの場合です。LQM18DN100M70は、当社がもつ電極形成技術や積層技術を結集した新商品であり、低Rdcかつ優れた直流重畳特性を実現したものです。従来品であるLQM18FN100M00と比べると、消費電力が大幅に抑制できていることが分かります。また、他社メーカーの推奨品と比べても、優れた特性を実現しています。

図5 スイッチング周波数1MHzにおける消費電力比較

図6はスイッチング周波数を4MHzで動作させた場合です。この動作条件下では、インダクタンスは10µHよりも低インダクタンス値の方がインダクタロスを低減できていることが分かります。当社の商品ラインアップより、LQM18PNR47NFRが最も消費電力を低減することができます。

図6 スイッチング周波数4MHzにおける消費電力比較

7まとめ

Bluetooth® Low Energyに使用するパワーインダクタは電力変換効率に影響をあたえるため、 Bluetooth® Low Energyの特長である低消費電力を左右するキーパーツになります。

インダクタに求められるスペックはBluetooth® Low Energyで使用されるパワーICのスイッチング周波数によって異なり、1MHzでは10µH程度、4MHzでは0.47-1.0µH程度となります。

ただし、同じ形状、同じインダクタンス値でもインダクタのシリーズによって電力変換効率は異なってくるため、 Bluetooth® Low Energyに適したインダクタのシリーズを選択することが必要となります。

ここで紹介したBluetooth® Low Energyに最適なパワーインダクタ

スイッチング周波数1MHzに対応

スイッチング周波数4MHzに対応