水晶振動子発振余裕度 測定方法の基礎知識

発振余裕度とは

発振余裕度とは、発振している状態から発振停止に至るまでのマージン(余裕)を表したもので、水晶振動子を使用する発振回路において最も重要な項目の1つです。
水晶振動子の抵抗値(信号を減衰する能力)に対し、水晶振動子を除く回路側がどれだけの信号増幅能力を有しているかを示す指標です。
理論上は発振余裕度>1であれば回路は発振しますが、1倍に近い場合にはまれに発振しない、発振立ち上がり時間が異常に長い、などの現象によってセットが正常に動作しない場合がありますので、注意が必要です。これら発振不良は、発振余裕度を大きくすることによって改善します。

測定方法

計算方法(判定)

発振余裕度は「負性抵抗」「水晶振動子の等価直列抵抗規格値」を用い、以下の式で算出できます。

発振余裕度 [倍] = |−R| / R1spec

|−R|
負性抵抗
R1spec
水晶振動子の等価直列抵抗規格値

R1specは水晶振動子のカタログ、または納入仕様書にて確認できます。負性抵抗は実際の発振回路で測定を行うことで確認できます。発振余裕度は5倍以上となる条件で使用してください。

負性抵抗測定方法

  1. 測定に必要なもの
    • 実装基板
    • 水晶振動子(等価回路定数データも必要)
    • SMD抵抗
    • 測定器(発振有無を確認できるもの)
      例)オシロスコープ、周波数カウンタなど
  2. 図のように水晶振動子に直列に抵抗を挿入した状態で基板に電源を投入し、発振するかを確認する。
  3. 測定方法のイメージ画像
  4. 2で発振した場合は抵抗値を大きく、発振しなかった場合は抵抗値を小さくする。
  5. 2~3を繰り返し、発振を確認できる最大の直列抵抗値(= Rs_max)を得る。
  6. Rs_maxをつけた状態での発振周波数(= fosc)を記録する。
  7. 下式から、実効抵抗値(= RL)を得る。
  8. 実効抵抗値の計算式
  9. 下式から、負性抵抗(= |−R|)を得る。
  10. 負性抵抗の計算式
通常使用状態 / 負性抵抗測定状態の発振回路図

簡易確認方法

発振余裕度が5倍以上あるかを簡易的に確認する方法を紹介します。

  1. 水晶振動子の等価直列抵抗R1規格値の約5倍に相当する抵抗を準備する。
    例)等価直列抵抗規格値が100Ωであれば、510Ωなど
  2. 準備した抵抗を水晶振動子に直列に挿入する。
  3. 発振するかどうか / セットが正常に動作するかどうかを確認する。
発振余裕度確認状態(簡易)の発振回路図

判定

3で発振が確認できた / セットが正常に動作していれば、発振余裕度は5倍以上あります。
発振しない / セットが正常に動作しない場合は、発振余裕度が5倍未満であることが考えられます。この場合はまず制限抵抗値を小さくする、外部負荷容量の値を小さくするなどの対策をお奨めします。

判定

発振余裕度は5倍以上となる条件で使用してください。
理論上、発振余裕度>1であれば回路は発振しますが、実際には水晶振動子、マイコン、使用環境などの変動を考慮する必要があります。発振余裕度が低いほどトラブルの発生する可能性が高まりますので、事前に発振余裕度を確認し、余裕度が十分な回路条件で検討 / 使用されることをお奨めします。

注意事項

  • 水晶振動子の特性のほかに、発振回路を構成する部品(マイコン、コンデンサ、抵抗)によっても変わりますので、ご使用されるマイコンが決定した後、できるだけ早い段階でご確認されることをお奨めします。
  • 直列抵抗は発振余裕度の評価にのみ使用します。実際のご使用条件では使用しないでください。
  • 発振を確認できている場合でも、周波数のずれなどによりセットが正常に動作しない場合も想定されます。発振余裕度の確認だけではなく、セットの動作も十分にご確認ください。
  • 発振余裕度の確認において、部品取り付け / 交換にソケットを使用しても構いませんが、ソケットの寄生容量などの影響を受けますのでご注意ください。