高速の伝送が、なぜ差動伝送になっているのか?

2013/08/30
基礎

カテゴリー:ノイズ対策PLAZA
最近のノートPCはぐっとスリムになりました。初期の頃は、超特大のお弁当箱のようで、これでもかというほどコネクタがたくさん付いていました。プリンタとの接続もセントロニクスで、太くてごついケーブルを使い、2Mbpsでプリンタと通信していたのも、遠い記憶になりつつあります。

現在は、プリンタ・HDD・マウスなど、さまざまな機器が、USBの細いケーブルで簡単に接続できます。USB3.0だと、5Gbps(5120Mbps)と、通信速度もぐっとリーズナブルになりました。
この技術を支えているのが、高速差動伝送技術です。
今回は、高速差動伝送技術が採用された背景を簡単にご紹介します。

かつて、パソコンに接続されるケーブルの信号伝送は、プリンタの接続に用いられたセントロニクス、モデムに使用されたRS-232Cに代表されるように、シングルエンド方式が主流でした。シングルエンドは、信号線は複数で、信号が戻ってくるグラウンドを共通にするやり方です。電圧検知の場合、グラウンドに対する信号の電位で、ロジックを判断します。このやり方で、伝送レートを上げる方法として、以下の二つの方法が挙げられます。

①各信号線の伝送速度を早くする。
②信号の本数を増やす。


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図1. 信号のシングルエンド伝送


②の方法だと、さらにコネクタが大型化し、ケーブルも太くなってしまいます。どちらかというと、信号の伝送速度を上げることにより、中の信号線の数も減らし、スリム化したいですよね。
でも、単純に信号の速度を上げると、高価なICが必要となるだけでなく、放射されるEMIノイズが強くなります。
電圧振幅を低くすると、信号の立ち上がり/立ち下がり時間が短くなるため高速伝送しやすくなります。しかし、良いことばかりではなく、電圧が下がると、外部からのノイズにより、簡単に誤動作してしまいます。

これらの問題を解決するために、差動伝送技術が採用されました。差動伝送は、二本の信号線を用い、互いに逆相の電流を流し、信号線間の電位差で伝送する方法です。外部からのノイズというのは、+側と-側の信号線に同じノイズが加わったとしても、差動伝送では信号線間の電位差をみるため、ノイズがキャンセルされ誤動作しにくくなります。


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図2. 信号の差動伝送


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図3. ノイズ印加しないときの波形


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図4. ノイズを印加した時の波形


また、互いに逆向きに電流が流れることにより、磁束が打ち消されるので、信号の高調波によるEMIノイズが低減されます。 


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図5. 差動伝送のノイズ低減の原理


差動伝送ラインはEMIノイズが放出されにくいと言っても、ドライバICの基準電位の揺れや伝送ラインの非対称性によって、ある程度のコモンモードノイズが出ることは避けられません。このためコモンモードノイズを除去する部品がほしいという要望もあり、ノイズフィルタとしてコモンモードチョークコイルが開発されました。コモンモードチョークコイルは、EMIノイズ対策効果だけでなく、トランスのような働きによって、信号の非対称性を改善し、波形を整形する効果もあります。ノイズ対策部品を通じて、差動伝送の発展に貢献したと弊社は自負しています。


担当:村田製作所 コンポーネント事業本部 EMI事業部 坪内 敏郎