世界初の排ガス処理用耐熱セラミック触媒材料を開発~化石燃料を最大53.0%削減した実績をもとに社内外に展開~

  • その他

2024/02/29

株式会社村田製作所
代表取締役社長 中島 規巨

主な特長
  1. 耐熱性に優れ、高濃度の排ガス処理が可能
  2. 貴金属を不使用
  3. 化石燃料消費量の削減

株式会社村田製作所(以下、「当社」)は、セラミックコンデンサの材料設計技術を応用した世界で初めての排ガス処理用耐熱セラミック触媒材料(以下、「当材料」)を開発しました。 当材料を使用した触媒を利用することで、VOC※1などの排ガス処理時の化石燃料消費量を最大53.0%※2削減する効果を、これまでの導入実績の中で確認しています。 また、当材料はすでに量産を開始しており、当材料を使用した排ガス処理用ハニカム触媒を中国の触媒メーカー上海斐腾科技公司(Shanghai FT Technology Co., Ltd. 以下、「F-Tech社」)が製造・販売しています。

  • ※1揮発性有機化合物のことを指すVolatile Organic Compoundの略。大気中に放出されると公害などの健康被害や自然破壊の要因になる。
  • ※2一定期間での平均燃料消費量を当社基準で比較。

近年、製造業においては、企業活動によって自然環境に与える影響を抑える取り組みの強化が求められています。工場での生産活動に伴って発生する排ガスの処理もそのひとつです。

工場から排出されるトルエン、キシレン、酢酸エチルなどの排ガスは、自然界に放出されると健康被害や自然破壊を引き起こす可能性があるため、蓄熱燃焼式排ガス処理装置(RTO※3)を活用し、 天然ガスなどを燃料とするバーナーによって数百℃にまで加熱することで、分解処理しています。ただし、この過程でエネルギー消費とCO2の排出を伴うため、気候変動など別の環境問題に悪影響を及ぼします。

  • ※3Regenerative Thermal Oxidizerの略。

一般的に、排ガス処理時の熱エネルギーロスを低減する方法として、パラジウムや白金などの貴金属を使用した触媒が利用されています。これらの貴金属は、排ガスを分解する化学反応を促進する機能を持つため、 自燃触媒として使用することで、排ガス処理装置の設定温度を下げることができます。既に活用例もありますが、こうした貴金属触媒は排ガス処理装置内での加熱による劣化が避けられません。

そこで当社は、セラミックコンデンサの材料設計技術を応用した当材料を開発しました。耐熱性の高いセラミックの構造内にVOCの分解反応を促進させる活性元素が埋め込まれているため、燃焼室の温度が850℃を超えても熱劣化しません。 そのため、濃度変動による温度上昇がある場合でも安全・高効率な利用が可能です。

当材料はすでに量産を開始しており、産業用触媒メーカーである中国F-Tech社が排ガス処理装置用のハニカム触媒※4に加工し、販売しています。 この排ガス処理用ハニカム触媒は、既に当社拠点(中国無錫 2台、野洲 2台、出雲 1台)と社外の協力企業の工場に先行導入し、処理に伴うバーナーでの天然ガスの消費を最大53.0%削減する効果を確認しています。 この結果を受けて、排ガス処理用ハニカム触媒を当社グループ国内外の拠点に全面展開し、2024年度中には計10台(導入済み5台を含む)運用する予定です。

  • ※4   排ガス処理装置に組み込み、排ガスを処理する際のエネルギー効率を高めるために利用する触媒のこと。ハニカム(ハチの巣状)構造によって表面積を大きくした基材の表面に触媒材料を塗布することで、排ガスをCO2や水などに分解する化学反応の効率を高める。

設置イメージ

当社は今後も、自然環境の保全を後押しする技術や商品の開発に注力するだけでなく、その成果を自社内でも積極活用することによって環境経営を推進し、持続可能な社会の実現に貢献していきます。

当材料の主な特長

  1. 耐熱性に優れ、高濃度の排ガス処理が可能

    当材料は活性元素が構造に埋め込まれているため、高温環境下でも劣化しません。このため、高濃度の排ガス燃焼時の高温にも耐えることができます。これによって、従来の触媒を使用できなかった装置でも利用でき、さらなる環境負荷の低減を実現します。

  2. 貴金属を不使用

    当材料には、市場価格の変動が大きい貴金属を一切使用していません。

  3. 化石燃料消費量の削減

    当材料をコーティングした排ガス処理用ハニカム触媒を使用することで、排ガス処理装置の設定温度を下げ、熱回収率や自燃率を向上できるため、バーナー加熱での燃料と燃料由来のCO2排出量を削減できます。 これにより、削減が困難だったスコープ1※5の温室効果ガス(GHG※6)の排出量削減に貢献します。

    • ※5      事業活動に伴う温室効果ガスの総排出量のうち、事業者自らが化石燃料の燃焼などによって直接排出する温室効果ガスのこと。 他社から供給される電力、熱、蒸気などを生成する過程で排出する温室効果ガスはスコープ2、サプライチェーン上での他社による部材生産や物流などで排出する温室効果ガスはスコープ3と呼ばれる。
    • ※6Greenhouse Gasの略。

排ガス処理用ハニカム触媒の主な仕様

形状 ハニカム
サイズ 100×100×50tmm、150×150×50tmm
セル数 100cpsi、200cpsi
使用温度域 短時間(3時間)~1,000℃
長期間(3年)~850℃
製品寿命 3年 ※1年保証
劣化要因 硫黄、ハロゲン、有機P、有機Siなど各種被毒成分
※従来の触媒と同様、排ガス中に高濃度の被毒成分があると短期間で劣化するため使用できません。

主な用途

  • 自動車、二輪車、鉄道、船舶、重機および各種部品製造などの塗装工程
  • 印刷、電子部品、化学などの多品種製造工程

導入事例

導入企業1:河南博愛強力車輪製造有限公司(中国、河南省)

適用先工程:商用車のホイールに塗料を塗布する工程

課題:排ガスの主成分は酢酸エチル。排ガス濃度は低いが、変動が大きいため、燃焼室温度を高く設定(850℃)して処理していたが、燃料消費量が大きく、年間燃料費は1,000万円(LNG)費やしていた。処理風量は38,000N㎥/h、出口排ガス濃度は約30mg/㎥以下。

解決方法:2021年2月に排ガス処理用ハニカム触媒をRTOに投入。排出基準を満たしていることを確認しながら燃焼室温度を700℃まで低減。

導入効果:燃料削減率53.0%を達成。特に、排ガス濃度が高くなる高稼働時は自燃が可能になり、大きな燃料削減率を実現した。導入後、3年間継続使用して安定稼働中。

導入企業2:無錫村田電子有限公司(中国、江蘇省無錫市新呉区)

適用先工程:電子部品の脱脂工程

課題:排ガスは濃度が低く、変動が大きい。規制遵守のために出口濃度を低くするためRTOの燃焼室温度を870℃と高い設定にしていたため、RTOの燃料消費量が大きい。年間燃料費は3,300万円(LNG)。処理風量は44,000N㎥/h、出口排ガス濃度は約5-10mgC/㎥。

解決方法:2021年5月に排ガス処理用ハニカム触媒をRTOに投入。排出基準を満たしていることを確認しながら燃焼室温度を750℃まで低減。

導入効果:燃料削減率38.2%を達成。導入後、2年9ヶ月継続使用して安定稼働中。

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ムラタについて

村田製作所はセラミックスをベースとした電子部品の開発・生産・販売を行っている世界的な総合電子部品メーカーです。独自に開発、蓄積している材料開発、プロセス開発、商品設計、生産技術、それらをサポートするソフトウェアや分析・評価などの技術基盤で独創的な製品を創出し、エレクトロニクス社会の発展に貢献していきます。

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