Lキャンセルトランス(LCT)は、トランス技術の応用により、LCTに接続されたデカップリングコンデンサ内部のESLとMLCC(積層セラミックコンデンサ)のGND側端子からGND層までの基板(スルーホール等)で発生するESLを低減します。これによりMLCCが持っているノイズ除去性能を最大限に引き出し、高周波帯のノイズを大きく抑制するコンポーネントです。
図1は、10uFのMLCC単品(黒線)とMLCCをLCTと接続したとき(赤線)の挿入損失特性の比較を示します。
LCTの接続により、MLCCの自己共振周波数より高い周波数帯で挿入損失が大きくなります。これにより、DC-DCコンバータなどによる電源ライン上の数MHz~1GHzの高調波ノイズに対し、優れた抑制効果があります。
Lキャンセルトランス(LCT)は部品内部に2つのコイルが内蔵されています。この2つのコイルが近接し、結合されたトランス構造となることにより、2つのコイルの中間部分に負の相互インダクタンス(−M)が発生します。この負の相互インダクタンスは村田製作所のセラミック多層技術により、高精度で安定したM値を実現します。
また、部品筐体には非磁性体(誘電体材料)を使用しているため、直流重畳特性が無く、電流の変化に対して安定したノイズ対策が可能となります。
デカップリングコンデンサは、電源ノイズをGNDに流してノイズの低減をします。ところが、コンデンサの内部にはESL(L3)があります。また、コンデンサからGND層の間にもスルーホールなどでESL(L4)が発生します。これらのESLはノイズをGNDに落とす性能を劣化させます。
LCTは、これらのESLを負のインダクタンス(−M)により、打ち消すことができます。L3+L4の値がM値と同等になるとESLが完全にキャンセルされ、理想的なコンデンサの性能が得られ、ノイズをGND層へ効率よく落とすことが可能になります。
Lキャンセルトランス(LCT)はデカップリングコンデンサのノイズ除去性能を改善できるため、より少ない数量のMLCCでノイズ対策が可能になります。また、高調波ノイズを落とすための小容量のMLCCなども削減が可能となります。
図5に、LCT追加によるMLCC削減の回路例を示します。この回路ケースでは、MLCCを10個削減した後でもノイズレベルは初期回路と比較し低減できた例になります。降圧コンバータ(Buck
converter)の場合、入力電源ラインに漏れてくるスイッチングノイズをLCTで効率よく除去可能となります。
図5の回路例の伝導ノイズ比較結果を、図6に示します。
LCTを追加することで、MLCCを10個削減してもノイズを低減できていることが分かります。特にFMラジオ帯を含む20~108MHzの周波数での効果が多く見られます。