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インダクタ (コイル)インダクタ開発秘話【第2回】初めてのフィルムタイプインダクタ“LQP31Aシリーズ”の誕生

初めてのフィルムタイプインダクタ“LQP31Aシリーズ”が誕生したのは、今から約20年前の1991年のことだ。それは、それまでの銅線を巻いたチップインダクタとは全く異なるものだった。数十µm幅の導体を蚊取り線香の様なうずまき状に形成し、nHオーダーの微小インダクタを薄膜プロセスで形成した世界初の高周波用チップインダクタなのである。
小型薄型(3.2mm×1.6mm×0.5mm)サイズであり、フォトリソプロセスを用いたことにより高い寸法精度で形成されているため、当時のチップインダクタのインダクタンス偏差が±10%であるのに対して、±2%という狭偏差を実現したシロモノである。携帯電話や自動車電話などの移動体通信機、およびBSチューナなどの高周波回路用途向けに商品化されたものだった。

当時の携帯電話や自動車電話といえば、どこかの一部の社長さんが持つようなとても高価なもので、サイズも大きく誰もが手軽に持てるようなものではなかった。携帯電話市場が伸びると言う資料に関しては、誰もが半信半疑のような時代だったのだ。
そのような中で、私が開発の担当することになったのは村田製作所に入社1年目の1989年の出来事。私にとって全く畑違いの分野で全てが未知のことであったのだが、当時の部署においても初めてのプロセスとなるため実験試作を行う機材もなく、何もかもが一からのスタートだった。クリーンルームの立上げやビーカー等の備品を準備することから始まり、試作ラインができたのは1990年のことだった。ただし、試作ラインといっても、溶剤の入った容器にゴム手袋をして手を入れ、ウエハーを液内で揺動させエッチングをするような手加工ラインを並べたものであり、本当に手作り感のあふれる試作ラインだった。
この試作ラインで開発をスタートすることになり、いろいろな薬品を調合しては試作実験を繰り返した。だがパターン形成がうまくできず、未知との戦いを続けながら解決策を探し求める日々が続いた。初めてパターン形成がうまくできたときは大変喜びしたものだが、すでに6ヶ月強の月日が流れていた。
そこからも試行錯誤しながら開発を進め、商品として性能や信頼性が確保できるようになったのは開発着手から二年後の1991年のことだった。月2万個程度の規模で量産を開始した。量産ラインといっても試作ラインと変わらない手加工ラインを使用していた。当然、当時の巻線タイプのものに比べ数倍のコストとなり、商売としては本当に厳しいものだった。しかしこの“LQP31Aシリーズ”の登場は、その後の1005サイズや0603サイズ、更には0402サイズなどの小型高周波インダクタに繋がる第一歩になった。今ではスマートフォンなどに1台あたり数十個単位で使われ、数万倍の数が生産されるようになった。現在もこの試作ラインはバージョンアップして開発試作に使用されており、新たな価値を生み出すために今日も頑張っている。

LQP31Aシリーズのイメージ画像
  • フォトリソプロセス : 感光性の物質を塗布した物質の表面を、パターン状に露光(感光性の物質に光を照射して反応させる)することで、露光された部分と露光されていない部分からなるパターンを生成し、現像液に浸すことで余分な部分を除去する技術。主に半導体素子、プリント基板、印刷版、液晶ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネルなどの製造に用いられる。
厚膜微細加工プロセスとスクリーン印刷プロセスのイメージ画像
  • 記事公開日 : 2012/09/28
  • 執筆 : 村田製作所 コンポーネント事業本部 K.M.
  • 記事の内容は、記事公開日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますのでご了承ください。