• アプリケーション別製品使用例

インダクタ (コイル)携帯電話 -Speaker/Microphone-

アンテナ、パワーアンプ、SAWフィルタ、スピーカー、マイク、これらの周辺回路に必要とされる特性の解説、推奨製品をご紹介いたします。

はじめに

携帯電話の市場規模は年々拡大を続けていますが、なかでも従来の携帯電話よりも高性能なプロセッサを搭載したスマートフォンとよばれる多機能携帯電話の台数が著しく伸びています。
一般的にスマートフォンは2G/3G、無線LAN、Bluetooth®などの無線通信機能を内蔵していますが、今後はLTE (Long Term Evolution) をはじめとする次世代高速通信規格にも順次対応していくと考えられます。携帯電話の利用者にとっては高機能化することでますます使い勝手がよくなるスマートフォンですが、一方で複数の無線通信機能が搭載されることでベースバンド回路からのノイズの回り込みの問題や、その問題に起因する受信感度低下に対する設計変更など携帯電話の開発者は多くの時間と労力を割いて対応されているのが現状です。

具体的な例として、携帯電話のベースバンド部からのノイズはメイン基板に接続されるFPC (フレキシブルプリント基板) などから輻射されることが多くみられますが、代表的なFPC使用箇所としては音声信号ラインが挙げられます。スマートフォンの場合は一般的にメイン基板からFPCなどを介してスピーカーと接続されています。このFPCがノイズ電波を放射するアンテナとなって問題を引き起こしている場合が多くあります。

このような問題に対する一つの解として、チョーク用のチップインダクタを使用することが有効であると分かってきています。ここでは、音声信号ライン、特にスピーカーラインにも使用することができるインダクタ (LQW15Cシリーズ/LQW18Cシリーズ) をご紹介します。

部品に求められる性能、特徴

音声ラインからのノイズ放射を防ぐために、部品に求められる技術的要求は、大きく以下3点に集約することができます。

  1. 無線周波数帯で大きなインピーダンス値を有すること
  2. スピーカー駆動に必要な電流レベルに対応していること
  3. 小型サイズであること

1. 無線周波数帯で大きなインピーダンス値を有すること

携帯電話の主要バンド、無線LANなどに対応した周波数帯の不要輻射ノイズを効果的に減衰させるためにそれぞれの周波数帯で大きなインピーダンス特性が求められますが、これを実現するためには無線周波数帯をカバーするだけの幅広いインダクタンスの選択肢があることが望ましいです。また、これらの無線周波数帯で十分に大きなインピーダンス特性を達成するために、幅広いインダクタンスのラインアップに加えて、部品そのものの寄生容量成分も一定レベル以下に抑制することが求められます。

2. スピーカー駆動に必要な電流レベルに対応していること

一般的に携帯電話のスピーカーラインには最大で500mA前後の電流が流れます。この電流レベルに対応するためには部品の直流抵抗を可能な限り小さくすることが求められます。また信頼性面で問題無いことはもちろん、電流印加時の発熱つまり温度上昇が一定レベル以下であること、さらに通電時においても電気的性能を保ちつづけることが求められます。

一般的に物理法則からもインピーダンス値はインダクタンス値に比例しますが、これらのパラメータと直流抵抗はトレードオフの関係にあります。
このためトレードオフの関係を考慮しながら部品の直流抵抗レベルを低減させていくことが技術的課題となります。

3. 小型サイズであること

スマートフォンというアプリケーション上、当然小型サイズの部品ニーズが強くなります。一般的にスマートフォンの利用者から電池持続時間に対する改善の要望や不満の声は非常に多いです。これらの利用者からの声にこたえるための対応策の一つはスマートフォンに大型サイズのバッテリーを搭載することですが、筐体サイズが限られているために結果的に基板サイズが大きな制約を受けることにつながります。

また、数多くの無線機能だけなく、多くの新機能が追加されるアプリケーションの宿命として、それぞれの回路ブロックに割り当てられる基板スペースは厳しさを増す傾向にあります。このため回路ブロックの一部をモジュール化することでスペースの削減を進めることや、従来使用していた電子部品よりも一回り小型サイズを採用することで回路全体の小型化に対応していく必要があります。

製品の特徴、技術ポイント

ムラタは前述の技術的要求を満たすべく、長年市場で数多くの採用実績のある高周波インダクタの設計技術と低直流抵抗を実現するための巻線微細加工技術を融合させることで小型サイズながら大電流対応を実現したLQW15Cシリーズ/LQW18Cシリーズを商品化しました。

具体的には、巻線用コアと外部電極の寸法最適化に加えて、低直流抵抗を実現するために、線径の太い線材を精密に加工することで性能面の追求と特性バラツキを極限まで小さくするよう高精度に管理することはもちろん、高周波数帯でも大きなインピーダンス値を得るために、部品の寄生容量成分を低減し、精度よくコントロールすることで高SRF (自己共振周波数) 特性を実現しました。

製品の選定ポイント

携帯電話のスピーカーライン回路例を図示します。

LQW15Cシリーズ/LQW18Cシリーズは多くのインダクタンスのラインアップを取り揃えていますが、本用途で採用検討いただく場合は、対象としている携帯電話のバンドや受信感度で問題となる無線周波数を特定した後に、インピーダンスvs周波数グラフ (図1、図2) から対象となる周波数帯域でインピーダンスが大きいインダクタンス値を選定することで、より大きな効果を発揮することが可能となります。

また、回路ごとに必要となる電流レベルは異なるためにインダクタンス値の選定と同時にインダクタの許容電流値 (図1、図2) も同時に確認することが必要です。

図1 : LQW15C インピーダンスvs周波数グラフ
図2 : LQW18C インピーダンスvs周波数グラフ

最後に

従来から搭載されているカメラやLCDパネルの高精細化はもちろん、今後標準的に搭載されていく機能としてLTEに加えて近距離無線通信のNFCなどがあるが今後もスマートフォンの高性能化、高機能化のトレンドは変わらないと考えています。
同時に、これらの新機能が追加される結果としてお互いの無線回路間の電磁波干渉の問題やベースバンド回路からのノイズの回り込み対策の必要性など、スマートフォンの設計の難易度はこれからも確実に増していく傾向にあります。

ムラタはLQW15Cシリーズ/LQW18Cシリーズをはじめとする受信感度改善部品を商品化し、スマートフォンの設計支援、課題解決に対するソリューションをご提供することにより、携帯電話のさらなる高性能化、高機能化に貢献していきたいと考えています。

推奨製品一覧

[信号ライン]

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