PTCサーミスタ(ポジスタ)基本特性

PTCサーミスタ(ポジスタ)の基礎知識

抵抗値-温度特性(R-T特性)

キュリー点(C.P.)は、25°Cにおける抵抗値の2倍の抵抗値となる温度と定義されています。
常温からキュリー点の間で、わずかに減少するか、ほぼ一定の抵抗値ですが、キュリー点を超えると対数的に抵抗値が増加します。

図1 : PTC抵抗値-温度特性代表カーブとキュリー点

【参考】

キュリー点(C.P.)は、図2のようなタイプがあります。

図2 : キュリー点の違うPTC抵抗値-温度特性

キュリー点を超えて温度上昇を続けると、正の温度特性を失い、抵抗値が減少します。この点をTN点といいます。
PTCサーミスタの定格値は、TN点を超えることがないように、マージンを持って設計されています。

図3 : PTCのTN点

電流-電圧特性

I-V特性、静特性

PTCサーミスタのI-V特性を図4に示します。
電圧の印加に対し内部発熱と外部への熱放散が平衡状態になったときに、印加電圧と安定自電流の関係を示したものです。定抵抗領域は、V = IR が成り立つ領域で、PTCサーミスタは自己発熱をしていません。電流の極大点と、定電力領域を持っています。

図4 : PTC電流-電圧特性

R-T特性との関係

抵抗値-温度特性との関係図
電流の極大点を超えることを、『トリップする』といいます。

図5 : PTC I-V特性とR-T特性との関係

I-V特性の変化

過電流保護用PTCは、図6の「初期抵抗値」、「キュリー点」、「熱放散」をコントロールし、特性を調整します。

初期抵抗値の変化
キュリー点の変化
熱放散の変化
周囲温度の変化

図6 : 各要因によるI-V特性の変化

特性が決まったPTCは、図6の「周囲温度の変化」のように周囲温度の変化でI-V特性が変動します。電流極大点が、トリップ電流となります。
このグラフから、周囲の温度でトリップ電流値が異なることが確認できます。そのため、定格で25°C以外の温度(たとえば、−10°C)でのトリップ電流が定義されています。

保持電流(ホールド電流)

周囲温度以外の要因で電流極大点にはならない電流を示します。

図7 : PTCの接続図

トリップ電流(動作電流)

電流電圧特性において、電流の極大点をトリップ電流といいます。

図7の回路において、

  1. PTCサーミスタに流れる電流がトリップ電流より小さい場合

    図8に示す負荷曲線aとPTCサーミスタの電流電圧特性の交点Aで安定し、単なる固定抵抗として働きます。

  2. PTCサーミスタのトリップ電流より大きな電流が流れた場合

    負荷曲線bとの交点Bで安定します。
    つまりトリップ電流より大きな電流が回路に流れた場合には、PTCサーミスタの抵抗値が大きくなり、回路電流をトリップ電流より小さい値に減衰させ、電源側および負荷側を保護します。

図8 : I-V特性と負荷曲線

【参考】負荷曲線

PTCの電流-電圧特性グラフの負荷曲線は、図7の接続図の回路抵抗への電圧が、PTCでの電圧降下が大きくなることによって、徐々に下がるときに回路に流れる電流を表しています。

  1. 通常時(回路に異常がなく、正常に動作している)

    通常の電流を通常Iとすると、電源電圧E / 通常I = 通常回路抵抗となります。

  2. 異常時(回路の何らかの異常となっている)

    異常時の電流を異常Iとすると、電源電圧E / 異常I = 異常回路抵抗となります。

これらの回路抵抗に電圧を印加すると図9のようになります。

図9 : 回路抵抗 のI-V特性

定義に従い、横軸を「PTCでの電圧降下 = 電源電圧 - 回路抵抗での電圧降下」に変更し、縦軸 / 横軸ともに対数表示とすると図11のような特性となります。

図10 : 横軸をPTCでの電圧降下に変更
図11 : 両軸を対数に変更

保護電流変動範囲

PTCサーミスタのトリップ電流は、周囲温度・抵抗値・温度特性・形状などの要因によって変動します。トリップ電流の上限より上の電流領域をトリップ電流領域、下限より下の電流範囲を保持電流領域、上限と下限の間の電流領域を保護電流変動範囲と呼びます。
回路電流が保持電流より小さければ、PTCサーミスタは単なる固定抵抗として働きますが、トリップ電流より大きい電流が流れたときは必ず抵抗値を大きくして保護動作を行います。

図12 : 保護電流変動範囲とI-V特性の変動の関係

【参考】保護電流変動範囲算出

電力エネルギー
トリップ電流印加時の電力
熱エネルギー
V-Iの最大点(CP)での発熱

電力エネルギー = 熱エネルギーの熱平衡式より、

式1
D
熱放散定数
R
抵抗値
Ia
周囲温度Taのときのトリップ電流
Tcp
キュリー温度

DとRは、同一素子で同じとなるため、周囲温度25°C時との比率の場合、

式2

となります。

仮に、キュリー点120°Cで、周囲温度60°C、−10°Cを算出すると、

式3

→ 25°Cトリップ電流の0.795倍

式4

→ 25°Cトリップ電流の1.17倍

となります。

図13 : 保護電流変動範囲

動作曲線

PTCサーミスタがトリップしたときの素子温度を動作曲線で推定可能です。

動作曲線の作成方法

  1. 熱放散定数

    セットが使用される環境下で、異常電圧を印加状態で、電流、素子温度を実測して、熱放散定数を確認します。
    (チップタイプのPTCサーミスタは、実装状態によって熱放散が異なるために、この確認が必要となります。)

  2. 抵抗値算出

    素子の発熱温度を任意に設定し、以下の式で抵抗値を算出します。
    Rx =(異常電圧)2 /(熱放散定数 ×(素子発熱温度−周囲温度))

  3. 抵抗-温度特性との交点を確認する

    異常電圧でPTCサーミスタがトリップした状態での素子温度となります。

図14 : R-T特性と動作曲線

電流時間特性(動特性)

電流極大点以上の電圧印加に対し、内部発熱と外部への熱放散が平衡状態になるまでの電流と時間の関係を表します。

図15 : トリップ電流を超える電流印加と時間特性

印加電圧(電流)が大きくなると、瞬間の消費電力が大きくなり、熱平衡までの時間は短くなります。

動作時間

突入電流が1/2になるまでの時間と定義しています。

図16 : 動作時間特性
図17 : 突入電流と動作時間

最大電圧 / 最大電流

使用温度範囲内において、PTCサーミスタに常時印加することのできる最大の電圧 / 電流を示します。

耐電圧

25°Cの静止空気中において、3分間印加に耐える電圧を示します。電圧の印加は0Vから徐々に耐電圧まで上昇させる方法で行います。
耐電圧は、素子の厚みが厚いほど、電極間距離が長いほど高くなります。つまり、結晶粒が多くあると高くなります。