EMI除去フィルタ(EMC・ノイズ対策)ノイズ対策 基礎講座【第1部】
第6章 EMI除去フィルタ

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第6章

EMI除去フィルタ

6-5-2. コンデンサの等価回路

(1) 高周波のインピーダンスは同じ値に集まる傾向がある

図4のグラフを詳しく見ると、V字型曲線の右側 (高周波側) は、どのコンデンサもほぼ同一の場所に集まる傾向があることがわかります。
図5では、比較のために0.5nHのインダクタンスのインピーダンスを、図4のグラフに重ねて破線で示しました。不思議なことに測定したコンデンサのインピーダンス (V字曲線の右側) は、ほぼこの線上に集まっていることがわかります。すなわち、ここで測定されたコンデンサ (MLCC) は、高周波では約0.5nHのインダクタンスに見えているといえます。

コンデンサのインピーダンスとESLの関係

【図5】コンデンサのインピーダンスとESLの関係

(2) ESLを考慮した等価回路

このインダクタンスはコンデンサのESL (Equivarent Series L: 等価直列インダクタンス) と呼ばれます。コンデンサがESLを持っていることを等価回路的に表わすには、図6のように静電容量 (Cap) に直列にESLを接続します。

ESLだけを考慮したコンデンサの等価回路

【図6】ESLだけを考慮したコンデンサの等価回路

なお、図5ではこのESLを仮に0.5nHとしましたが、この値はコンデンサによって異なります。図5では同じサイズのMLCCを取り上げたので、ESLがほぼ同一となっています。コンデンサの種類が違うとこの値は大きく変わってきます。

(3) 自己共振

先に述べたようにコンデンサのインピーダンスの多くはV字型の特性曲線となりますので、曲線の中央部分で極小点を持っています。この現象はコンデンサの自己共振と呼ばれ、図6の等価回路のCapとESLの間で直列共振が発生したものと説明されます。極小点の周波数は自己共振周波数 (SRF: Self Resonant Frequency) と呼ばれます。
ところで図6の等価回路を使ってインピーダンスを計算すると、自己共振周波数でインピーダンスがゼロになります。すなわち、この周波数では現実のコンデンサは、理想コンデンサよりも小さなインピーダンスを実現できることになります。

(4) ESR

もちろん現実のコンデンサにはわずかに損失があるため、自己共振周波数でもインピーダンスは完全にはゼロになりません。この損失を表わすために、コンデンサの等価回路には通常、図7のように抵抗分であるESR (Equivarent Series Resistance: 等価直列抵抗) を含めています。

ESLとESRを考慮したコンデンサの等価回路

【図7】ESLとESRを考慮したコンデンサの等価回路

このESRの値が小さいほど損失が小さい、良いコンデンサであることを示します。図8に、ESRの大きさが違うMLCCのインピーダンスの例を示します。共振回路で使われる温度補償系のコンデンサは、汎用の高誘電率系のコンデンサに比べて、自己共振周波数のインピーダンスが格段に小さいことがわかります。温度補償系特性のコンデンサの方が、ESRが小さいためです。
なお、コンデンサが自己共振しているときのインピーダンスは、コンデンサのESRの値を示します。図7のCapとESLのインピーダンスが相殺されてゼロになっているためです。

ESRの違うコンデンサの例

【図8】ESRの違うコンデンサの例

(5) 等価回路が示すインピーダンスの性質

ここまで紹介してきた内容をまとめると、図9 (a) のようになります。
周波数が低い部分のインピーダンスは理想コンデンサにほぼ一致します。これは静電容量のインピーダンスが全体に占める割合が大きく、ESLやESRの影響を無視できるためです。このとき、コンデンサは「容量性」であるといい、インピーダンスは周波数や静電容量に反比例します。
周波数が高い部分のインピーダンスはESLのインピーダンスにほぼ一致します。高周波ではこの部分のインピーダンスの割合の方が大きくなるためです。このときは「誘導性」であるといい、インピーダンスは周波数に比例します。
容量性から誘導性に切り替わる領域に自己共振周波数があり、インピーダンスは極小になります。このときのインピーダンスはESRに等しくなります。
図9 (b) は、例として等価回路に0.1uFのMLCCの代表的な値を入れ、インピーダンスを計算した結果です。全体のインピーダンスが (a) に示したように、それぞれの要素のインピーダンスに沿っていることがわかります。

コンデンサのインピーダンスの周波数特性

【図9】コンデンサのインピーダンスの周波数特性

(6) 等価回路はどの程度信頼できるのか

図9 (b) の計算例に、1608サイズのMLCCを実際に測定した結果を重ねると、図10のようになります。このように、比較的おおまかな定数で計算した結果であっても、図7に示したLCR直列の等価回路は測定値とよく一致し、現実の特性を表現できることがわかります。
なお、より正確に現実の特性を表現するには、ESRやESLの値を周波数に応じて変える必要があります。また、ここではMLCCを例にとり説明していますが、ESLやESRの値を調整することにより、MLCC以外のコンデンサであっても適用することが可能です。

計算値と測定値の比較

【図10】計算値と測定値の比較

(7) ESLやESRが発生する原因

以上のように、コンデンサのインピーダンスは静電容量だけではなく、高周波ではESLやESRによって影響を受けます。これらはコンデンサの「寄生成分」と呼ばれ、多くの場合、コンデンサのノイズ除去効果を減少させます。寄生成分を減らすにはどのようにしたらよいのでしょうか。
MLCCの場合、図11のように、コンデンサは外部電極、誘電体、内部電極により構成されています。この外部電極や内部電極の抵抗や、誘電体の損失がESRの主な原因になります。また、外部電極や内部電極を電流が流れるときに、コンデンサの周囲に磁界を作ります。この磁界がESLの主な原因になります。
これらの寄生成分を減らすのは簡単ではないのですが、ESLを小さくしたEMC対策用のコンデンサを後の章で紹介する予定です。また、この寄生成分は、後に述べるようにプリント基板に取り付けるときにも発生します。コンデンサはESLが小さくなるように気をつけて取り付ける必要があります。

MLCCの構造と等価回路

【図11】MLCCの構造と等価回路