EMI除去フィルタ(EMC・ノイズ対策)ノイズ対策 基礎講座【第2部】
デジタル回路の特性を考慮したフェライトビーズの選択方法

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第2回

デジタル回路の特性を考慮したフェライトビーズの選択方法

2-1. はじめに

 デジタル回路において信号周波数を高速化すると、放射雑音も強くなり、ノイズ対策が難しくなります。

 そのため、電流を小さくするため、信号の低電圧化なども必要となります。例えば、昔はデジタル回路の電源電圧は、5Vが主流でしたが、3.3Vや1.8V、1.3Vなど様々な電圧が使われるようになりました。

 このような低電圧化を進めると、わずかな波形のリンギングが、回路の誤動作につながってしまいます。そのため、信号波形のリンギングを抑えることが必要となります。

 波形のリンギングを完全に抑えるには、ダンピング抵抗の追加だけでは不十分で、①送信側の出力インピーダンス②伝送線路の特性インピーダンス③負荷側の入力インピーダンスを整合(マッチング)させることが必要となります。

 ここでは、デジタル信号ラインの抵抗を追加したり、伝送線路の特性インピーダンスを変更したりして、インピーダンスマッチングが波形や放射雑音に与える影響を紹介します。


信号の高速伝達のための低電圧化のメリット・デメリット


2-2. インピーダンスマッチング前の波形と放射雑音

 評価基板を用意し、波形と放射雑音を測定しながら、インピーダンスマッチングの影響を観測することとしました。

 図Aに評価基板を示します。汎用ロジックICの74ALVC04(NOT素子)で送信し、74ALVC04で信号を受信しています。信号周波数は40MHz、伝送線路長は10cm、基板厚みはt=1.6mm、両面基板(裏面は全面GND)で、電源電圧3.3Vです。今や40MHzは高速信号とはいえませんが、実験のしやすさを考え、信号周波数やICを選定しました。


 波形及び放射雑音の測定結果を図Bに示します。

 波形に大きなリンギングが発生しています。信号の出力インピーダンス、伝送線路の特性インピーダンス、負荷の負荷インピーダンスがマッチングされていないためです。


【図A】評価基板


【図B】初期の波形と放射雑音の測定結果

 この試験基板上でインピーダンスマッチングを行うために、図Cに示したように以下の変更を行いました。


  • ①特性インピーダンスzの変更:130ohm→50ohm
  • ②送信側の出力に30ohmの抵抗を追加し、出力インピーダンスを50ohmに変更
  • ③負荷を50ohmで終端

【図C】インピーダンスマッチングによる信号波形リンギングの抑制


2-2-1. 信号ラインの特性インピーダンスの変更

 まず、信号線の特性インピーダンスを130ohm(パターン幅0.30mm)→50ohm(パターン幅3.1mm)に変更しました。

 50ohmとした理由は、高速な信号伝送で一般的に使用されている値のためです。50ohmが使用されている理由は、同軸ケーブルなどの絶縁体の材料の関係で、損失が少なくなる値のためのようです。

 波形と放射雑音の測定結果を図Aに示します。

 波形のリンギングは、オーバーシュートの電圧が4Vp-p→3Vp-pと減少しました。

 伝送線路の特性インピーダンスと、送信側の出力インピーダンスが近づき、信号の反射が減少したためです。

 放射雑音は280MHz~960MHzで、最大10dB程度増加しました。パターン幅を0.3mm→3.1mmと広くしたので、パターンとグラウンド間の静電容量が増えたことが影響していると思われます。


【図A】信号パターンの特性インピーダンス変更時の波形と放射雑音(130ohm → 50ohm)


2-2-2. 出力抵抗と終端抵抗の追加

 出力抵抗と終端抵抗の追加を行った場合の波形と放射雑音を図Aに示します。

  • (1) 出力抵抗の追加

    送信側に出力抵抗を追加したことにより伝送線路の特性インピーダンスと出力抵抗が近づいたために、送信側での再反射が抑制されます。そのため、リンギングが、3Vp-p→0.96Vp-pと改善されています。
    抵抗が電流を抑制するために、放射雑音も5dB程度低くなっています。
  • (2) 終端抵抗の追加

    伝送線路の特性インピーダンスと負荷のインピーダンスが近づいたために、負荷側での反射が抑制されます。そのため、リンギングが、3Vp-p→0.56Vp-pと改善されています。
    200MHz以下の放射雑音が最大で約10dB増加しました。50ohmで終端したため、200MHz以下での負荷のインピーダンスが低くなり、電流が増加したためと思われます。
  • (3) 出力抵抗と終端抵抗の追加

    出力と伝送線路及び負荷のインピーダンスがマッチングされるために、リンギングは3Vp-pから0.28Vp-pへと大きく改善されています。ただし、波高値は1.9Vと、電源電圧値3.3Vより1.4V低くなっています。

【図A】出力抵抗と終端抵抗取付け時の波形と放射雑音


2-3. 基板厚みの影響

 インピーダンスマッチングにより、リンギングが抑制できましたが、基板厚みt=1.6mmでは、パターン幅が3.1mmと広く、高密度実装に向きません。

 特性インピーダンスを50ohmに維持しながらパターン幅を狭くするには、基板の厚みを薄くする必要があります。基板厚み(層間厚み)とパターン幅の関係の計算結果を図Aに示します。


【図A】マイクロストリップラインにおける層間厚みとパターン幅の関係(特性インピーダンス 50ohm)

 基板厚みをt=1.6mm→0.8mmと薄くし、波形と放射雑音を測定しました。本当は、基板を更に薄くしたかったのですが、入手性の関係で0.8mmとしました。特性インピーダンスは50ohmで固定しているので、パターン幅は3.1mm→1.6mmとしています。

 この条件での信号波形と放射雑音を図Bに示します。

 特性インピーダンスは変更していないので信号の反射量は変わらず、信号波形に変化はありませんでした。放射雑音は、全体的に5~10dB減少しました。基板を薄くしていくと更に放射雑音は減少すると思われます。基板を薄くするとたわみに弱くなるので、厚みを薄くするには、多層基板を使用することになります。つまり、費用をかけて多層基板を使うと、放射雑音を下げることができることになります。


【図B】特性インピーダンス同じで基板厚を薄くした場合の波形と放射雑音。Z=50ohm, t=1.6mm(パターン幅3.1mm)→0.8mm(1.6mm)


2-4. マッチングされた回路でのフェライトビーズのノイズ対策効果

 次にノイズ対策のためにフェライトビーズを取り付けた例を紹介します。

 フェライトビーズは材料により、インピーダンスカーブ-周波数の立ち上がりが異なります。また、インピーダンスを構成する抵抗成分Rとリアクタンス成分Xの比率も異なります。

 当社の場合、チップタイプのフェライトビーズはBLMと呼ばれており、一般的なものをBLM_Aシリーズ、急峻にインピーダンスカーブが立ち上がるものをBLM_Bシリーズとしています。

 これらのフェライトビーズを使用した場合の波形と放射雑音測定結果を図Bに示します。

 インピーダンスが急峻に立ち上がるタイプは、インピーダンスマッチングされている回路では、信号波形なまりを抑えながらノイズ対策効果が期待できます。


【図A】取り付けたフェライトビーズのインピーダンス

【図B】いろいろなフェライトビーズ取付け時の波形と放射雑音

 ただし、図Cに示したように、抵抗成分が主体となる周波数帯が狭くなる傾向にあるので、インピーダンスマッチングされていない場合は、波形のリンギングが問題となることがあります。(伝送線路が短い場合は、信号の反射の影響が小さく、リンギングも問題は起きにくくなります。そのため、急峻に立ち上がるタイプでも波形に問題ない可能性が高くなります。)


【図C】フェライトビーズの材料によるインピーダンス|Z|,抵抗成分R,リアクタンス成分Xの違い


Key points 第2回のまとめ

  • デジタル回路において、信号の高速化のために低電圧化するには、誤動作防止のため波形のリンギングを抑える必要がある。そのためには、信号経路の特性インピーダンスマッチングを行うのが効果的である。
  • 信号ラインの特性インピーダンス50ohmを満足させながら、配線の幅を狭くして高密度実装するには、基板を薄層化することが必要である。この薄層化は、放射雑音低減にも有効である。
  • インピーダンスマッチングされたラインや短いラインでは、周波数に対するインピーダンスカーブの立ち上がりが鋭いフェライトビーズが、波形のなまりを抑えるのに有効である。

次の回へ「第3回 差動伝送におけるノイズ対策」