EMI除去フィルタ(EMC・ノイズ対策)ノイズ対策 基礎講座【第1部】
第6章 EMI除去フィルタ

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第6章

EMI除去フィルタ

6-3-6. コンデンサとインダクタを組み合わせたフィルタ

(1) LCフィルタ

コンデンサとインダクタを組み合わせると、周波数特性を改善することができます。図8に、コンデンサとインダクタを組み合わせたLCフィルタの基本特性を示します。
コンデンサやインダクタを1個使うときは、周波数特性は20dB/dec.の傾きになっています。
コンデンサとインダクタを1個ずつ組み合わせたL型のフィルタは、この傾きが40dB/dec.になります。また、合計3個組み合わせたπ型やT型のフィルタでは60dB/dec.になります。

(2) 1個につき20dB/dec.ずつ傾きが増す

このように組み合わせる部品の数を増やすことで、周波数特性の傾きを20dBずつ大きくできます。このことは、図1の信号とノイズを選り分ける性能が改善することにつながります。
組み合わせる部品の数を、フィルタの次数と呼びます。L型のフィルタは2次の、π型やT型のフィルタは3次のフィルタです。次数の大きなフィルタの方が、周波数特性が急峻になります。

(3) コンデンサとインダクタを交互に組み合わせる

部品を組み合わせるときは、インダクタとコンデンサが交互になるように組み合わせます。コンデンサ同士、インダクタ同士を重ねて組み合わせても、フィルタの次数が大きくなることにはなりません。単にコンデンサやインダクタの定数が大きくなることになります。
なお、図8に示した特性は理想的なものです。コンデンサとインダクタの定数を周囲の回路のインピーダンスに応じて適切に設定しないと、このような急峻な傾きにはなりません。

LCフィルタの構成と周波数特性

【図8】LCフィルタの構成と周波数特性

(4) LCフィルタを使う利点

このように次数の大きなLCフィルタは周波数特性の傾きが急峻になります。この性質はノイズ対策では以下の点で有利です。 (反面、部品数が多いのでコスト面で不利です)

  1. 1.カットオフ周波数が同じなら、ノイズをより大きく除去できます
  2. 2.同じノイズ除去性能であれば、信号をより高い周波数まで通せます
  3. 3.1つの部品は達成できない非常に大きな挿入損失が得られます

以下にこれらの点の説明をします。

・信号とノイズを分離しやすくなる

1と2は、信号の周波数とノイズの周波数が近付いたときに有利です。図9に示すように、信号周波数を確保しながらノイズを除去できるようになります。このため、パルス波形の維持が求められるクロック信号などではLC複合のフィルタがよく使われます。
カットオフ周波数を正確に制御するには、周囲の回路のインピーダンスに合わせてコンデンサやインダクタの定数を調整する必要があります。信号用のフィルタとして用意されているLCフィルタの多くは、約50Ωの回路に合うように調整されていることが多くなっています。

急峻な周波数特性の利点

【図9】急峻な周波数特性の利点

・ノイズを大きく減衰できる

上記の3の利点は、1つの部品では挿入損失に限界があるためです。
例えばコンデンサでノイズを除去する際、理論的には極端に大きな静電容量 (例えば1000μF) のコンデンサを使えば、ノイズは完全に (1MHzを超える全ての周波数で100dB以上) 除去できるはずです。ところが実際には、どんなに静電容量の大きなコンデンサを使っても、単独では一部の周波数で60dB程度の挿入損失を得るのが精一杯です (後述する3端子コンデンサなどの特殊なコンデンサを除きます) 。コンデンサには静電容量だけではなく、ESRやESLといった寄生要素があるためです。
インダクタと組み合わせることによってこの限界を打開できます。LCフィルタでは、例えば80dB程度の挿入損失であっても (条件によっては100dBを超えても) 実現可能です。
このため、ノイズの強いスイッチング電源などでは、LCフィルタが使われます。

6-3-7. 現実のフィルタの特性の例

(1) 10MHz付近にカットオフのあるフィルタで比較

コンデンサやインダクタの現実の特性はどの程度なのでしょうか。10MHz付近にカットオフ周波数を持つ3種類のフィルタの特性を比較した例を図10に示します。コンデンサ、インダクタ、π型のLCフィルタで代表させています。

(2) 理論特性

図10 (a) は以上で紹介した理論値です。ここではグラフが分かれて見やすくなるように、コンデンサとインダクタの定数は切りの良い数字としています。定数をしっかり合わせると (例えばインダクタの方を2.5μHにすると) コンデンサとインダクタの曲線は完全に重ねることができます。π型フィルタのカットオフ周波数は、約16MHzになっています。

(3) 現実の部品の特性

図10 (b) は現実の部品の特性の例です。各部品の値は全て公称値ですので誤差が含まれています。また、π型フィルタの定数は、 (a) の計算で使った値とは違っています。それでも図のように、100MHz以下の周波数域では、ほぼ理論特性に近い特性が現実にも得られることがわかります。
その一方で、100MHzを超える周波数では、理論特性から大きく外れてきます。特に1GHz付近になると挿入損失の値はぐっと小さくなってしまいます。
このように周波数が高い領域では、コンデンサやインダクタに寄生する要素の影響が大きくなるためです。この寄生要素の影響について次項で紹介します。

理論特性と現実の特性

【図10】理論特性と現実の特性


「6-3. LCを使ったローパスフィルタ」のチェック
ポイント

  • ローパスフィルタの要素にはコンデンサとインダクタがある
  • コンデンサはノイズの電流をグラウンドにバイパスする
  • インダクタはノイズの電流を絞る
  • コンデンサとインダクタを組み合わせると周波数特性を改善できる