EMI除去フィルタ(EMC・ノイズ対策)ノイズ対策 基礎講座【第1部】
第6章 EMI除去フィルタ

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第6章

EMI除去フィルタ

6-5-4. コンデンサの上手な使い方

(1) ノイズの周波数を狙って自己共振周波数を調整する

コンデンサのインピーダンスは、自己共振周波数で極小になり、この周波数では理想コンデンサよりも小さくなることもあります。ノイズの周波数が固定している場合には、この自己共振周波数をノイズに合わせることができれば、大きなノイズ除去効果が期待できます。
自己共振周波数を調整するには、対象のノイズに合わせてコンデンサの静電容量を選びます。コンデンサの静電容量を変えると、先に図4に示したように、コンデンサが容量性となっている部分の特性曲線が並行に動きます。これに伴って、図16のように自己共振周波数も変化します。このようにして自己共振周波数をノイズの周波数に合わせることができます。
ただし、後に述べるように、この自己共振周波数はプリント基板の持つ微小なインダクタンスに影響されて変化します。机上計算ではうまく周波数を調整することができないため、実験でよく確認する必要があります。

自己共振周波数の調整

【図16】自己共振周波数の調整

(2) ノイズの周波数が広がっているときはESLの小さいコンデンサを使うしかない

一般にノイズ対策は、ノイズの周波数をあらかじめ予測することが困難ですので、どの周波数が表れても良いように、幅広い周波数で効果のあるフィルタを用意する必要があります。このような用途には (1) の方法は使えません。
図16をみると、コンデンサが誘導性になっている部分 (たとえば1GHz) のインピーダンスは、静電容量を変えてもほとんど変化しないことがわかります。先に述べたように、この周波数域ではコンデンサのインピーダンスの大部分をESLが占め、静電容量の影響を受けにくいためです。
コンデンサが誘導性になっている高周波のノイズを幅広く抑えるには、できるだけESLの小さいコンデンサを使うしかありません。

(3) 低周波のノイズであってもESLが影響することがある

図13ではESLが影響するのは100MHz以上の周波数域でしたが、静電容量の大きなコンデンサでは、ごく低い周波数でもESLの影響を強く受ける場合があります。自己共振周波数が下がるので、コンデンサが誘導性となる周波数範囲が低周波側に広がるためです。
図17に、静電容量が10μFのコンデンサでESLを変化させた例を示します。1MHzといった、ノイズ対策では低周波と呼べる周波数域であっても、ESLの影響を強く受けることがわかります。このように大容量のコンデンサで、期待したノイズ除去効果が得られないときは、ESLの影響が無いかどうか考えてみる余地があります。

なお、バイパスコンデンサのESLには、コンデンサ自身のESLの他に、次に述べるように部品を取り付ける配線が持つインダクタンスも含まれます。ESLを小さくなるように使うには、コンデンサを取り付ける配線にも注意します。

容量の大きなコンデンサに対するESLの影響

【図17】容量の大きなコンデンサに対するESLの影響

(4) コンデンサを取り付けるパターンもESLの原因になる

コンデンサのノイズ除去効果にESLが大きく影響することを述べましたが、もうひとつ大きく影響する部分があります。コンデンサを基板に取り付けるときに発生するインダクタンスです。
図18に示すように、コンデンサを基板に取り付け、回路につなぐには、配線パターンやviaが必要です。これらの部分が持つインダクタンスは、バイパスコンデンサに直列に加わります。このため、コンデンサが基板に取り付けられて実際に働くときには、コンデンサ単独の場合に比べて、バイパス回路全体のESLは大きくなっています。
現実のノイズ除去効果に影響するのは、この「全体のESL」です。

バイパス回路全体のESL

【図18】バイパス回路全体のESL

(5) パターンやviaのインダクタンスはどの程度影響するのか

これらの配線やviaのインダクタンスはどの程度影響するのでしょうか。実は無視できないほど大きくて、使い方によってはコンデンサ自身のESLよりも強く影響することもあります。
図19に、コンデンサの両端に幅1mmのパターンを取り付けたときのインピーダンスの計算結果を示しました。わずか数mmの配線であっても、100MHzのインピーダンスを10倍以上に増やしてしまう可能性があることがわかります。
高周波のノイズ除去にコンデンサを使うときは、パターンを文字通り切り詰めて使う必要があるのです。

パターンを含めたコンデンサのインピーダンス (計算値)

【図19】パターンを含めたコンデンサのインピーダンス (計算値)

(6) パターンやviaのインダクタンスの概数

パターンやviaが持つESLはどの程度の大きさなのでしょうか。これは極めて微小な量なので簡単に測ったり計算することができないのですが、大まかな値としては、パターンは1mmあたり0.5nH程度、viaは1個あたり0.1nH程度になります。 (いずれも多層基板で、0.4mm下にグラウンドプレーンがある、比較的良い条件を想定しています。両面基板などの場合はもっと大きな値になります。)
コンデンサ自身のESLがMLCCでも0.5nH程度であることを考えると、これは無視できない大きな値です。コンデンサを有効に使うには、このインダクタンスができるだけ小さくなるように取り付ける必要があります。

(7) ESLが小さくなるコンデンサの取り付け方法

パターンやviaのインダクタンスが小さくなる取り付け例を図20 (b)  (c) に示します。
コンデンサをつなぐグラウンドには、グラウンドプレーンのようなしっかりしたグラウンドを使います。この図では内層にグラウンドプレーンがあるものとして記述しています。
コンデンサをグラウンドプレーンにつなぐviaはコンデンサの直近に置き、図のようにできれば複数、コンデンサを取り囲むように配置します。このviaをコンデンサの下に置くことができれば、ESLはさらに小さくなります。
図20 (b) は、コンデンサをノイズが通る配線上に直に置き、配線を最短にした例です。このようにすることで、パターンやviaのインダクタンスは無視できる程度に小さくできます。
ただしこの方法は、グラウンドに接続するviaの場所を動かす必要があります。
図20 (c) は、このviaの場所が動かせないときの対処の例です。図のように、コンデンサはグラウンドのviaの近くに置き、ノイズが通るパターンの方をコンデンサの近くに移動します。このようにすることで、ノイズをバイパスする方向のインダクタンスを最小にできます。

ESLが小さくなるコンデンサの使い方

【図20】ESLが小さくなるコンデンサの使い方

(8) 1GHzを超えるノイズを除去するには専用のコンデンサを使う

図17の計算結果から、1GHzで1Ω以下のインピーダンスを得るには、ESLを約0.2nH以下にする必要があることがわかります。これはMLCCでも実現できない極めて小さな値です。また、図18のように配線やviaのインダクタンスも考慮する必要があります。いったいどのように取り付ければ良いのでしょうか。
図12の (5) に示した3端子コンデンサでは、このような課題を解決しています。1GHz以上の高周波のノイズ対策では、この3端子コンデンサのようにESLの小さいコンデンサが使われています。詳しくは8章で紹介する予定です。

ESLの小さいコンデンサ

【図21】ESLの小さいコンデンサ

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「6-5. コンデンサの現実特性」のチェックポイント

  • 現実のコンデンサにはESL、ESRという2つの寄生成分が含まれている
  • 高周波のノイズ除去では静電容量よりも寄生成分の影響が大きい
  • 100MHz以上のノイズを幅広く除去するにはESLの小さいコンデンサを使う
  • ESLはコンデンサを取り付けるパターンでも発生するので注意する