ノイズ対策部品/EMI除去フィルタ

第2章

電磁ノイズが発生するしくみ

2-4. デジタル信号の高調波

2-3節で述べたように、デジタル回路の発生するノイズの源の一つに高調波があります。高調波を上手に制御できれば、デジタル回路のノイズ対策を効率よく行うことができます。ここではデジタル信号に含まれる高調波の基本的な性質を解説します。


2-4-1. ノイズとしてみた高調波の性質

(1) デジタル信号は高調波でできている

一般に一定の繰り返し周期をもつ全ての波は、繰り返し周波数である基本波と、その整数倍の周波数を持つ高調波に分解することができます [参考文献 2]。基本波に対する倍数を、高調波の次数と呼びます。
正確に繰り返す波の場合は、これ以外の周波数成分を持ちません。デジタル信号は繰り返す波形が多いので、周波数分布(スペクトラムといいます)を観測するときっちり高調波に分解され、離散的なスペクトラムに見えます。


(2) クロック信号の高調波を測ってみる

図2-4-1に33MHzのクロック信号の高調波をスペクトラムアナライザで測定した例を示します。図の上方に針のように突き出た部分が高調波で、正確に33MHz間隔で観測されています。奇数次の高調波と、偶数次の高調波で傾向が異なることがわかります。40dB以下で下地となっている部分はスペクトラムアナライザの背景雑音です。


Nature of harmonics

【図2-4-1】高調波の性質


(3) ノイズの周波数からノイズ源を見つけるには

高調波のこのような性質は、ノイズの周波数からノイズ源を探り当てるときに便利です。ノイズのスペクトラムの間隔を測ると、ノイズの元になっている信号の繰り返し周波数を類推することができます。例えば、ある電子機器で図2-4-2のようなノイズが観測されたとします。ノイズの強い周波数間隔をみると、33MHzになっています。このノイズは、高調波の性質から、33MHzのクロックに同期して動く回路が原因と考えられます。
この電子機器に33.3MHzや、34MHzといった繰り返し周波数が近い回路が同時に使われていた場合でも、ノイズの周波数や間隔を正確に測定できれば、分離することが可能です。例えば、もし図2-4-2に330MHzのノイズがあったとすると、33.3MHzではなく、33.0MHzの回路が原因だと推定できます。33.3MHzや34MHzの信号には330MHzの高調波は含まれていないためです。


(4) 整数倍以外の周波数は持たない

また、繰り返す波形は、基本周波数よりも低い周波数成分を持ちません。例えば、100MHzの信号から、20MHz、50MHz、90MHzといったノイズが発生することはありません。もしこのような周波数が見えたとすると、この信号ではなく、分周された信号が原因になっていると考えられます。
デジタル回路はクロック信号に同期して動作することが多く、多くはクロック信号の数分の1の周波数(分周と呼びます)で動いています。このときの高調波は、分周された信号の周波数の整数倍になります。なお、同じクロック信号で複数の回路が動き、分周されているときは、クロック信号の高調波と分周信号の高調波の周波数が重なりますので、判別が難しくなります。


Example of noise measurement results clearly showing harmonics

【図2-4-2】高調波がはっきり見えるノイズの測定結果の例

2-4-2. 高調波を合成した波形

(1) 正弦波を足し合わせるとデジタル波形に近づく

デジタル信号の波形と、含まれる高調波にはどのような関係があるのでしょうか。基本波に、次数の小さい高調波を足し合わせていったときの波形の変化を図2-4-3に示します。元の基本波は正弦波なのですが、これに高調波が加わるたびに、矩形の波形に近づいていくことが判ります。


(2) 高次の高調波は波形への影響が小さい

反対に、理想的な矩形波から、次数の大きな高調波を削減していくと、だんだんと正弦波に近づいていくのですが、その変化は穏やかです。その一例として、図2-4-4に、17次高調波まで積算した波形から、一つずつ高調波を抜いていったときの波形を示します。


(3) デューティ50%の波形は奇数次高調波が強い

なお、このようなデューティ比が50%の波形を作るときは、奇数次の高調波だけを足し合わせます。デューティ比が50%でない波を作るときには、2-4-5項で述べるように偶数次の高調波も必要です。ここでデューティ比とは、1周期の中で信号レベルがHighである割合をいいます。
現実の波形では、デューティ比がちょうど50%になることはありませんので、図2-4-1で示したように偶数次の高調波も含まれています。


Harmonics and signal waveform (1): Adding lower-order harmonics

【図2-4-3】高調波と信号波形(1) 低次高調波を加えたとき

Harmonics and signal waveform (2): Cutting off higher-order harmonics

【図2-4-4】高調波と信号波形(2) 高次高調波を削ったとき


(4) 次数の大きな高調波を削ってノイズを減らす

このようにデジタル信号の高調波のうち、比較的周波数の低い(次数の小さい)成分は、信号の波形を維持するのに重要ですが、周波数の高い(次数の大きい)成分は、重要度が低いといえます。
一方で、2-3-6. 信号の高調波の項で説明したように、次数の大きい高調波は周波数が高いため、容易に放射され、ノイズの原因になりやすい性質があります。そこで、信号波形に問題の無い範囲で高次の高調波を除去することが、ノイズ対策として行われています。通常は、3倍~7倍までの高調波を維持し、それ以上の次数の高調波を除去します。図2-4-5に、ローパスフィルタで高調波を除去したときの波形とノイズの測定結果の例を示します。このように高調波を除去したデジタル信号はきっちりした四角い形ではなく、角がとれた波形になります。


(5) 信号用のEMI除去フィルタで高調波を除去する

このために使われるフィルタが信号用EMI除去フィルタです。図2-4-5では、20MHzの信号に対してカットオフ周波数150MHzのEMI除去フィルタを使っています。したがって、図の(b)は7次(140MHz)までの高調波を含んだ波形となっています。EMI除去フィルタについては後の章で詳しく紹介します。


Example of signal waveform and noise from which harmonics have been removed by EMI suppression filter

【図2-4-5】EMI除去フィルタにより高調波を除去した信号波形とノイズの例

2-4-3. 高調波の周波数傾向

(1) 台形波の高調波の性質

デジタル信号に含まれる高調波のレベルにはどのような傾向があるのでしょうか。デジタル信号の電圧波形が図2-4-6に示すような理想的な台形波であると仮定すると、いくつかの傾向が表れます。
図2-4-6(b)は台形波に含まれる高調波の包絡線を表したものです。図のように周波数軸を対数にしたとき、高調波の包絡線は2つの変曲点(A、B)を持った単純な折れ線形状となります [参考文献 2]
Aは、信号のパルス幅 tp により決まる周波数点です。パルス幅が狭いほど、Aは高周波側に動きます。
Bは、信号の立上り(立下り)時間 tr により決まる周波数点です。この時間が短いほど、Bは高周波側に動きます。(傾向を単純に示すために、立ち上がり時間と立下り時間が同一であると仮定しています)


(2) 高調波のレベルを制御するには

高調波の包絡線は、DCからA点まで(領域 a)は一定のレベルをもち、A点からB点まで(領域 b)は20dB/dec.(周波数10倍に対して20dB)の傾きで周波数に応じて減少、B点よりも高周波側(領域 c)では40dB/dec.で急激に減少するという傾向を持っています。したがって、ノイズ抑制の観点からはA点、B点を低周波側に移動することが望ましいといえます。
なお、このような傾向を表現した理論式が参考文献 [参考文献 2] に示されていますので、ご参照ください。


Envelope of harmonics

【図2-4-6】高調波の包絡線


(3) 理論曲線を実測値と比べてみる

なお、以上の周波数特性は大まかな傾向を示すものに過ぎません。個別の高調波のレベルは、デューティサイクルなどの影響を受けて、この包絡線よりも若干小さくなることがあります(特定の高調波では極小になる場合もあります)。
図2-4-6の傾向を実測値と比較した例を図2-4-7に示します。図2-4-7の(a)はデューティ比が50%の場合、(b)はデューティ比が20%の場合です。
図の左の波形は、オシロスコープで測った電圧波形、中央はスペクトラムアナライザで測ったスペクトラムです。図2-4-1で示したのと同様の高調波が観測されています。デューティ比が20%となる図2-4-7(b)では、偶数次の高調波のレベルが奇数次と同等程度に大きくなっていることがわかります。
図の右側は、中央のスペクトラムの周波数軸を、図2-4-6の包絡線と比較できるように対数軸に変換したものです。参考のために包絡線の理論値を赤い線で記載しています。100MHz以下では図2-4-6の包絡線は実測値によく合っているといえます。200MHz以上の高周波域では実測値は理論値よりも小さくなっていますが、これは実験に使った信号発生器が発生できる周波数に上限があり、正確な台形波が出力できなかったためと考えられます。


Example of actual measurement of harmonic envelope

【図2-4-7】高調波の包絡線の実測例


(4) ノイズの少ない電子機器を設計するには

図2-4-6(b)に示した包絡線の形状から、以下の傾向が導かれます。

  1. (i)繰り返し周波数の高い信号ほど、パルス幅が狭くなるので、A点が高周波側に移動し、ノイズが増える
  2. (ii)立ち上がり時間が短い、すなわち速度の速い信号ほど、B点が高周波側に移動し、ノイズが増える

ノイズ発生が少ない回路を設計するには、このような傾向を避け、A点、B点を低周波側に動かすと有利です。また、このような設計が避けられない場合には、信号線にEMI除去フィルタを取り付けるパッドを用意しておくと、後々のノイズ対策が楽になります。
なお、現実のデジタル信号の高調波を観測すると、領域aの部分はなかなか観測されません。これは、多くのデジタル信号ではデューティ比が50%に近いため、A点が基本周波数よりも低周波側になるためです。


2-4-4. 信号の立ち上がり時間の影響

(1) 10MHzのクロック信号で立ち上り時間を変えてみる

図2-4-6では、波形の立ち上がり速度を遅くするとB点が低周波側に動き、高調波のレベルを抑制できることを紹介しました。この傾向を計算で確かめた例を、図2-4-8に示します。
ここでは繰り返し周波数10MHz、デューティ比50%、電圧振幅1Vの波形を想定して、高調波の計算をしています。図の左が想定した信号波形、中央が高調波スペクトラムの計算結果です。また、図2-4-7と同様に、周波数軸を対数に変換した結果を右のグラフに示しています。右のグラフでは、各スペクトラムを点で表示し、図2-4-7で示した包絡線を重ね書きしています。スペクトラムのレベルはスペクトラムアナライザで測定されることを想定し、実効値で計算しています。以降のデータも同様です。


(2) 立ち上り10nsでB点が30MHzに表れる

図2-4-8で、(a)は立ち上がりが速い(tr=0.1ns)場合、(b)は立ち上がりが遅い(tr=10ns)場合を示しています。図2-4-6の式から包絡線のB点を計算すると、(a)の条件では約3GHzとなり、グラフの表示域(1GHz以下)から大きく外れます。また、(b)の条件では約30MHzとなります。
図2-4-8(a)の計算結果をみると、高調波のスペクトラムが20dB/dec.の傾きで単調に減少する傾向がみられます。また、グラフの表示域(1GHz以下)ではB点が見えないことが確認できました。
これに対して、図2-4-6(b)の計算結果をみると、30MHzを超える周波数域で、高調波が40dB/dec.の傾きで急激に減少していることがわかります。この付近にB点と思われる変曲点が存在すると考えられます。


(3) 500MHzでは20dB以上も減少

中央のスペクトラムを比較すると、信号の立ち上がりの遅い(b)の方が、ごく低周波の領域を除いた全ての周波数域で、高調波のレベルが小さくなっています。500MHzでみるとその差は20dB以上にもなります。
以上の計算結果から、信号の立ち上がり速度を遅くすることが高調波を抑制する上で有効であることがわかります。ノイズ発生の小さな回路を作るには、回路の動作に支障のない範囲で、できるだけ速度の遅いICを選ぶことが有効といえます。また、信号にEMI除去フィルタを装着することも有効です。
なお、図2-4-8の高調波の計算には、村田製作所製のエミフィル®選択支援ソフト「MEFSS」を使っています。理想的な電圧波形とするために50Ω系の測定条件に設定しています。

Changes in harmonics when rise speed is changed (calculated values)

【図2-4-8】立ち上がりを変えたときの高調波の変化(計算値)

2-4-5. 波形のデューティ比が高調波に与える影響

(1) 10MHzクロック信号のデューティ比を変えてみる

ノイズの原因となりやすい代表的なデジタル信号にクロック信号がありますが、クロック信号には通常、デューティ比が50%程度の波形が使われています。先に述べたように、デューティ比が50%に近いときは、含まれる高調波は奇数次が強く、偶数次は弱くなる傾向があります。また、この偶数次の高調波のレベルは、デューティ比に応じて大きく変化する性質があります。(高調波の次数が上がる高周波域では、奇数次の変化も大きくなります)。この傾向を計算で確かめた例を図2-4-9に示します。


(2) 高調波は奇数次グループと偶数次グループに分かれる

図では、図2-4-8(a)に示した立ち上がりの速い理想的なデジタル信号を元に、デューティ比を50%(a)から49.9%(b)、49%(c)へとわずかに変化させたときの高調波を比較しています。この計算結果から、偶数次の高調波は緑の、奇数次の高調波は黄色の線の上に並び、偶数次と奇数次では別の傾向を持つことがわかります。
デューティ比を50%とした図2-4-9(a)では、奇数次の高調波は図2-4-6に示した包絡線の上に並びますが、偶数次の高調波は観測されません。


(3) デューティが1%変わると10dB変わることも

一方、デューティ比を49.9%とした図2-4-9(b)では、レベルは低いのですが、偶数次の高調波が観測されています。さらにデューティ比を49%まで変化させた図2-4-9(c)では、偶数次のレベルが上がり、一部の周波数では奇数次よりも大きくなっています。1GHzよりも高い周波数まで観測したり、デューティ比が50%から大きく外れる場合を計算すると、偶数次と奇数次の大小が周期的に入れ替わる傾向が観測できます。詳しくは、MEFSSをご利用いただき、ご確認ください。
このように、オシロスコープでは判別の難しいわずか1%のデューティ比の変化でも、偶数次の高調波や、高次の高調波のレベルを数10dBも変えることがあります。スペクトラムの全体の形状は図2-4-5に示した包絡線に沿っており大きな変化はないのですが、各スペクトラムを個別にみるときには大きな影響に見えます。この性質は、ノイズ測定の再現性に重大な影響を与えることがありますので、留意が必要です。
ノイズ規制に対する合否の判定は、たとえ1カ所のスペクトラムでも超過していると不合格となります。このような変化の大きい成分が限度値に近い時は、慎重な測定が必要になります。

Change in harmonics when duty ratio is changed

【図2-4-9】デューティ比を変えたときの高調波の変化

2-4-6. 電圧高調波と電流高調波

(1) 電圧波形と電流波形を比べてみる

以上に述べた高調波の性質は、電圧波形が矩形波であることを前提としています。実際の回路では電圧波形が矩形波に見えても、電流波形は異なっていることに留意する必要があります。すなわち、ノイズの放射が主に電圧を元にしているのか、電流を元にしているのかに応じて、傾向が違って見えるときがあります。
図2-4-10にC-MOSデジタル回路を想定して、負荷が5pFのコンデンサであるとした場合の波形とスペクトラムをMEFSSを使って計算した結果を示します。電圧波形は理想的なデジタルパルスに近い形となり、高調波のスペクトラムは図2-4-6に示した包絡線に近い値となります。(コンデンサが負荷になっていますので、少し違った形になり、500MHz付近に極小点が見えています)


(2) 電流にはより多くの高周波成分が含まれる

一方、電流は、図のように立上りと立下りに一瞬だけ流れます。このような波形のスペクトラムは、図のように数100MHzの高い周波数まで(立ち上り時間に応じて変わります)一定のレベルを持っています。したがって、電流が原因でノイズが放射している場合は、高周波のノイズが問題になりやすいと言えます。MEFSSではこのように、電流波形のスペクトラムも計算することができます。
図2-3-14に示したノイズの測定結果において、500MHz以上では(b)の電圧スペクトラムがほとんど観測されないのに対して、(c)の放射ノイズのスペクトラムは強く放射されています。このようにノイズ源と放射されたノイズの間で周波数分布が異なって見える原因の一つとして、この実験ではノイズを放射させている原因が電流であったことが考えられます。(この実験とは逆に、電圧がノイズ放射の原因になる場合もあります)


Differences between voltage and current

【図2-4-10】電圧と電流の違い


(3) 電流は針のように尖った波形

図2-4-10で電流の高調波が高周波まで減衰しない理由は、電流波形が細いスパイク状であるためと考えると理解できます。図2-4-6の台形波のモデルで考えると、電流波形のようなスパイク状の波形は、デューティ比のごく小さい台形波のようにとらえることができます。デューティ比が小さい台形波の包絡線は、A点が高周波側に動きますので、高周波まで一定レベルとなります。このため、電流波形の高調波は高周波まで減衰せずに観測されると考えられます。
なお、図2-4-6の台形波モデルと電流波形とでは、電流波形のスパイクが上下に振れているという点が違っています。このため、台形波モデルでデューティ比の小さい波のときはA点が移動するのと同時に偶数次高調波も強くなるのですが、電流波形ではこのような傾向は弱くなります。


2-4-7. 共振によるパルス波形の変化の影響

(1) 共振があるとパルス波形が歪む

以上の説明は、デジタル信号のパルス波形が理想的な矩形波であることを前提としていますので、回路条件によって矩形波からずれたときは、補正が必要です。パルス波形が歪む原因の一つに、ドライバICとレシーバIC、配線による共振があります。ここでは共振によって波形が歪んだときのスペクトルの変化の例を紹介します。
図2-4-10のモデル図で示したように、配線の影響を考えないときは、C-MOSデジタル回路はごく単純な回路で考えることができ、シミュレーションではほぼ理想的なパルス波形が得られます。


(2) 配線が長いとリンギングが発生しノイズが増える例

この回路に配線の影響を加えるとどのような波形になるでしょうか。計算結果を図2-4-10に示します。図2-4-11では、影響が顕著に見えるように20cmと長めの配線を想定して、配線があるときと無いときの波形を比較しています。配線があるときは信号波形に大きなリンギングが発生し、これに伴って高調波も150MHz付近で大きく盛り上がる傾向があることがわかります。(リンギングを観測するために、図2-4-10よりも広範囲で電圧を測定しています)


Occurrence of ringing by the influence of wiring

【図2-4-11】配線の影響によるリンギングの発生


(3) 実験でリンギングを確認

このようなリンギングは、実際のデジタル回路でも頻繁にみられます。図2-4-12に20cmの配線をつないだときの測定結果の例を示します。シミュレーションである図2-4-11ほど強くはないですが、同様の周期でリンギングが発生しており、150MHz付近で高調波が盛り上がる傾向があることがわかります。このように、デジタル回路をつなぐ信号線が長くなると、信号波形にリンギングが起きやすくなる傾向があります。この場合、リンギングの周波数で高調波のレベルが高くなり、ノイズが問題になることがあります。
なお、図2-4-12の測定結果のリンギングが図2-4-11の計算結果に比べて小さいのは、現実の回路ではICや配線に多少なりとロスがあるので、リンギングが短時間で減衰したものと考えられます。図2-4-12では電圧振幅も3Vよりも小さくなっています。
また、測定する電圧プローブには10:1の電圧比を持つ、周波数帯域が2.5GHzのFETプローブを使っています。このため図2-4-12に示したスペクトラムは実際の値より20dB小さな値となっています。

Example of observation (measured ringing)

【図2-4-12】実測によるリンギングの観測の例


(4) 配線のインダクタンスが共振をつくり、リンギングを発生させる

図2-4-11でみられたリンギングは、配線のインダクタンスによって信号回路の中に共振回路が作られたと考えることができます。図2-4-13(a)にモデル図を示します。
図2-4-13(a)では、配線の持つ微小なインダクタンスと静電容量を集中定数で記載しています。このように配置すると、信号回路にRLCの直列共振回路が作られていることがわかります。
図2-4-11の信号の立ち上がり部分に発生したリンギングを拡大すると、図2-4-13(b)に示したように、約7nsを1周期とする減衰振動波となっていることがわかります。7nsの周期は周波数にすると143MHzであり、図2-4-11で観測された高調波の盛り上がる周波数(150MHz)にほぼ一致しています。


(5) 配線はどの程度のインダクタンスを持つのか

なお、図2-4-11で想定した長さ20cmの配線のインダクタンスと静電容量を、伝送理論の示す単位長さあたりのパラメータから算出すると、それぞれ約140nH、10pFになります。この値から図2-4-13(a)に示したRLC直列共振回路の共振周波数を見積もると、約110MHzとなります。この値は、図2-4-11で観測された150MHzよりも30%ほど小さくなっていますが、大まかには合っており、リンギングの仕組みを理解するのに図2-4-13(a)の簡略モデルは妥当であると考えられます。
なお、共振周波数をより正確に推定するには、配線をインダクタンスや静電容量といった集中定数ではなく、伝送線路として捉える必要があります。(配線の単位長さあたりのパラメータの算出やや伝送線路としての取り扱いについては専門書をご参照ください[参考文献 5,6,7]

Cause of ringing

【図2-4-13】リンギング発生の原因


(6) フェライトビーズでリンギングを吸収

一般に、共振を抑制するには、ダンピング抵抗などが使われます。このときノイズ除去を併せて行うには、ダンピング抵抗の代わりにフェライトビーズを使うことが有効です。図2-4-14に、先のモデルでフェライトビーズを使ったときの計算結果を示します。また、図2-4-12で用いた実験回路で、フェライトビーズを使ったときの測定結果を図2-4-15に示します。
図2-4-14、図2-4-15では、フェライトビーズを装着することにより、リンギングが収まるとともに150MHz付近の高調波の盛り上がりが消失し、同時に500MHzまでの周波数域全体で高調波のレベルが小さくなっていることがわかります。このように、フェライトビーズを用いると、共振を抑制するとともに、不要な高調波を効果的に抑制することができます。フェライトビーズは、デジタル信号の高調波が元になったノイズの除去に広く使われています。


Ringing suppression by ferrite bead (calculation result)

【図2-4-14】フェライトビーズによるリンギングの抑制(計算結果)

Ringing suppression by ferrite bead (calculation result)

【図2-4-15】フェライトビーズによるリンギングの抑制(測定結果)

2-4-8. EMI除去フィルタによる高調波の除去

(1) EMI除去フィルタでノイズの元になる高調波を除去する

フェライトビーズなどのEMI除去フィルタを使うと、デジタル回路の持つ不要な高調波をしっかりと除去し、高周波のノイズを抑制することができます。EMI除去フィルタや、その使い方については、別の章で詳しく紹介しますが、ここではその効果の一例を紹介します。
高調波の抑制は、先に述べたように速度の遅いICを使ったり、抵抗などの汎用の部品を使って立ち上り時間を遅くすることでも、ある程度はできるのですが、EMI除去フィルタを使う方が、より大きな効果が得られます。オシロスコープで同一の信号波形に見えても、ノイズ抑制効果でみると、10dB以上効果が違うこともあります。


(2) 20MHzのクロック信号にカットオフ50MHzのフィルタを使う

図2-4-16に、EMI除去フィルタを使って20MHzクロック発振器のノイズを除去した実験の例を示します。3端子コンデンサを使った場合と、周波数特性がより急峻な、カットオフ周波数50MHzのπ型フィルタを使った場合を比較しています。ノイズ除去効果はいずれの場合も優れているのですが、信号波形や立ち上り時間の変化と、ノイズの抑制効果とが必ずしも一致しないことがわかります。π型フィルタでは、パルス状の信号波形や立ち上り時間を維持した上で、ノイズを除去することができています。


(3) オシロスコープとスペクトラムアナライザではノイズの見え方が違う

これは、信号波形では比較的低周波の成分が強調されて観測されるのに対して、ノイズ測定では比較的高周波の成分が強調されて観測される傾向があるためです。信号波形の観測では全ての周波数が足し合わされた波形が見えるので、振幅の大きな低次の高調波の影響が強く出ます。これに対してノイズ測定では、周波数は個別に観測されますし、周波数の高い(したがって次数の高い)成分の方が、より小さなアンテナから放射しやすいという性質がありますので、影響が大きくなります。


(4) 信号用EMI除去フィルタ

図2-4-16に示したπ型のEMI除去フィルタのように、周波数特性が急峻なフィルタを使うと、信号品位を維持したままで、効果的にノイズを抑制できる場合があります。このようなEMI除去フィルタについては後の章で詳しく紹介します。


Example of eliminating harmonics by EMI suppression filter

【図2-4-16】EMI除去フィルタによる高調波の除去の例

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「2-4. デジタル信号の高調波」のチェックポイント

  • デジタル信号は高調波の合成でできている
  • 信号波形は低次の高調波で維持できる。不要な高次の高調波はノイズの原因になりやすい
  • 高次の高調波のレベルに、立ち上り時間が大きく影響する
  • EMI除去フィルタを使うと不要な高調波を効果的に除去できる