EMI除去フィルタ(EMC・ノイズ対策)ノイズ対策 基礎講座【第1部】
第3章 ノイズ問題を複雑にする要因

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第3章

ノイズ問題を複雑にする要因

3-4. 電源インピーダンス

電子機器内の電源やグラウンドは、さまざまな回路で共用されますので、図3-4-1のようにノイズが流出したり侵入する容易な経路となります。ノイズの伝導を防ぐには、図3-4-2(a)のように電源用フィルタを挿入します。このときのフィルタの効果は、電源以外の場合と同様に、挿入損失やSパラメータで表現されます。
その一方で、電源は負荷の回路に電流を供給しています。図3-4-2(b)のようにデジタルICがつながり、その動作によって電源電流が変化すると、電源にノイズが誘導され、その回路自身の動作に支障が出ることもあります。この現象を電源電圧の変動と呼ぶことにします。電源用フィルタには電源電圧の変動を抑制する効果も求められます。
フィルタがノイズの伝導を防ぐときの効果と、電源電圧の変動を抑制するときの効果は、一般に同一ではありません。電源電圧の変動を抑制するときの効果は電源インピーダンスで表現されます。なお、電源電圧の変動が外部に流出すると、図3-4-2(a)に示したノイズの流出となりますので、この2つのノイズは見えかたは違いますが、関係があります。
ここでは主に電源電圧の変動や電源インピーダンスについて、デジタル回路を例にとり解説します。


Doorway for noise through power line
【図3-4-1】電源線を通じたノイズの出入り

Two viewpoints for power supply noise suppression
【図3-4-2】電源のノイズ対策の2つの視点

3-4-1. 電源電圧の変動

(1) デジタル回路の動作と電源インピーダンス

第2章2-3項で述べたように、デジタル回路の電源やグラウンドには、回路の動作に伴ってスパイク状の電流が流れます。この電流によって電源にノイズが誘導され、電源電圧が変化するため、回路が安定して動作することができません。また、信号の波形やノイズ発生面でも問題が起きやすくなります。
この電源電圧の変動を防ぐ働きは、電源インピーダンスで表されています[参考文献 5]。電源インピーダンスは、電源品位の指標の一つであり、図3-4-2(b)のデジタルIC(負荷)が接続される場所(電源端子など)からみた電源側のインピーダンスを表します。


(2) 電源電圧の変動の影響

図3-4-3に、あるデジタルICで電源にノイズが誘導されたときの、機器全体のノイズに与える影響の模式図を示します。図の中央に、ICの電源電圧の波形を示しています。スパイク状の波形が見えますが、これがデジタル回路の動作に伴って誘導されたノイズです。ここではこのスパイク状の波形を電源電圧の変動と呼んでいます。この影響により、図の①~④に示したように回路の安定動作や速度向上を妨げたり、電源線や信号線にノイズが拡散したり、信号波形が変形したりします。電源線に拡散したノイズがケーブルから放射されると、ノイズ規制上問題となります。

Influence of the fluctuations in power supply voltage
【図3-4-3】電源電圧の変動の影響
(3) 電源ノイズのスペクトラム

電源電圧の変動は、デジタル信号の立ち上がり、立下りの瞬間に流れる電流が元になっています。このため、電源電圧の変動に伴うノイズも、ノイズ源の回路が単純ならば、あたかも信号の高調波のような離散的なスペクトラムを持ちます。図3-4-4に、20MHzで動くデジタルICの電源のノイズを放射させた実験の例を示します。電源電圧に50nsおき(20MHz)にスパイクが表れており、これを放射させると、20MHzおきにノイズのスペクトラムが観測されることがわかります。

Experiment of observing the noise of the power supply for digital IC
【図3-4-4】デジタルICの電源のノイズを観測する実験
(4) 電源インピーダンスの周波数特性

電源電圧の変動を減らすには、電源インピーダンスを小さくします。オームの法則によりインピーダンスと電圧は比例するため、デジタルICに流れる電流が同じならば、電源インピーダンスが小さいほど電圧変動は小さくなります。
電源インピーダンスの測定結果の例を図3-4-5に示します。一般に、電源インピーダンスは小さいほど良く、電源の電力供給性能が高く、ノイズ除去性能も優れているといえます。

Example of the measurement results of source impedance

【図3-4-5】電源インピーダンスの測定結果の例

(5) 電源インピーダンスの測定

電源インピーダンスは微小な量であり、測定するのは容易ではありません。図3-4-5は、ネットワークアナライザを使って測定したものです。測定プローブを当てる場所によっても値が変わりますので、場所を決めて慎重に測る必要があります。通常は、負荷のICの電源端子とグラウンド端子の間で測ります。ICの影響を除いてより正確に測るには、ICをいったんPCBから取り外して、PCB側のインピーダンスを測ります。

3-4-2. デカップリングコンデンサ

電源インピーダンスは、負荷の電流に応じて電源回路が適切に動作すれば、理想的にはゼロになるはずです。ところが現実には、図3-4-5に例を示したように、10MHz以上の高周波ではインピーダンスが徐々に高くなり、場合によっては数10Ωの大きさになる場合があります。

(1) デカップリングコンデンサ

これは図3-4-6(a)に示すように、電源と負荷をつなぐ配線にはインダクタンスや抵抗があるので、たとえ電源回路が理想的に動作した(0Ωの)場合でも、負荷からみるとインピーダンスが残るためです。特に高周波では配線のインダクタンスが、インピーダンスを増大させる主な原因になります。
このような高周波で電源インピーダンスを下げるには、図3-4-6(b)に示すように、負荷のごく近くで電源とグラウンドの間をコンデンサで接続します。このコンデンサはデカップリングコンデンサや電源用バイパスコンデンサ、あるいは単純にパスコンなどと呼ばれています。

Operation of decoupling capacitor
【図3-4-6】デカップリングコンデンサの働き
(2) 電源電圧の変動の吸収

デカップリングコンデンサは、一時的な電気のため池として働き、負荷の電流変化を吸収し、電源電圧の変動やノイズの発生を防ぐ働きがあります。負荷のごく近くに配置されるので、配線のインピーダンスの影響は小さくなります。この働きをインピーダンスでみると、電源インピーダンスが下がってみえる、ということになります。
なお、デカップリングコンデンサを使った場合でも、図3-4-6(b)に示すようにわずかながら配線は残り、インダクタンスとなりますので、この部分ができるだけ短くなるようにコンデンサを配置します。

(3) ノイズの閉じ込め効果

ノイズ対策の観点からみると、デカップリングコンデンサは負荷の電源に発生した高周波電流を負荷とデカップリングコンデンサの間に閉じ込め、遠方の電源線に拡散することを防いでいる、と捉えることもできます。すなわちデカップリングコンデンサは、回路を安定に動作させるだけではなく、ノイズの発生を防ぐ意味でも重要な部品であるといえます。なお、ノイズの拡散をより効果的に防ぐには、図3-4-2(a)に示したようにフェライトビーズなどを組み合せたり、3端子コンデンサなどのノイズ除去性能の優れたコンデンサを用います。

(4) デカップリングコンデンサの効果の検証

図3-4-7に、図3-4-4の実験回路でデカップリングコンデンサを使ったときの電源電圧変動の変化を示します。コンデンサの装着により、電圧変動幅が0.48Vから0.10Vに減少し、同時に放射されているノイズも10dB以上減少していることがわかります。
図3-4-8は、より高性能な3端子コンデンサを使った場合です。通常のMLCCを使った場合に比べて、電源電圧の変動幅が小さくなるとともに、ノイズの放射は大幅に抑制できることがわかります。これは、3端子コンデンサがノイズの除去に特別に有利な構造を持っているためです。3端子コンデンサについては第6章で詳しく紹介します。

Suppression of the fluctuations in power supply voltage by decoupling capacitor

【図3-4-7】デカップリングコンデンサによる電源電圧変動の抑制

When a three-terminal capacitor is used as a decoupling capacitor
【図3-4-8】デカップリングコンデンサに3端子コンデンサを使った場合

3-4-3. ループインピーダンス

(1) 電源インピーダンスの周波数領域

図3-4-5に示した電源インピーダンスは、じつはデカップリングコンデンサを複数使って極めて低いインピーダンスを達成した例を示しています。この周波数特性を観察すると、図3-4-9のように3つの部分に分けることができるのがわかります。

(2) 低周波を分担するのは

図3-4-9の①の1MHz以下の比較的平坦な部分は電源モジュールの出力インピーダンスが観測されている部分です。デカップリングコンデンサを使わない場合は、図に破線で示したように、比較的低い周波数からインピーダンスが増大します。これは、電源モジュールの出力特性や、配線のインダクタンスの影響を受けるためです。
デカップリングコンデンサを使うと、この高周波の部分のインピーダンスを抑制することができます。

(3) 高周波を分担するのは

図3-4-9の②、③に示した比較的高周波の部分は、このデカップリングコンデンサのインピーダンスが観測されている部分です。②の部分はコンデンサが容量性のインピーダンスとなっている領域で、静電容量の大小により多少は制御可能な部分です。③の部分はコンデンサが誘導性のインピーダンスとなっている領域で、この部分のインピーダンスをさらに下げるには、デカップリングコンデンサのESLや、これを取り付ける配線のインダクタンスを下げる必要があります。

Frequency characteristics of source impedance, and elements that play a role
【図3-4-9】電源インピーダンスの周波数特性と受け持つ要素
(4) ループインピーダンス

配線のインダクタンスは、図3-4-10に例を示したように負荷のICとデカップリングコンデンサをつなぐパターンやviaにより構成されています。全体のインダクタンスはこれらの構成要素を一周する電流経路に沿って足し合わせたものに、コンデンサのESLを加えた値となります。これを等価回路で表現すると、図3-4-11のようになります。
このようなデカップリングコンデンサにより作られる電流ループのインピーダンスをループインピーダンスと呼ぶことがあります。ループインピーダンスは、図3-4-9の領域③では、主に配線やコンデンサの持つインダクタンスが原因となっています。
このような高周波でループインピーダンスを小さくするには、インダクタンスを減らす必要があります。すなわち、ループインピーダンスの目標値をZTarget(Ω)、周波数をƒ(Hz)、全体のインダクタンスをLLoop(H)とすると、

Formula 3-4-1
(式3-4-1)

となるようにします。
例えば、ループインピーダンスを100MHzで1Ω以下にするには、全体のインダクタンスを約1.6nH以下にする必要があります。これは極めて小さな値です。

(5) ループインピーダンスの要素

実際の回路では配線が途中で枝分かれしたり、コンデンサが複数個使われたりしますので、図3-4-10、図3-4-11のように単純に考えることはできません。しかしながらこのモデルはループインピーダンスを要素に分解する概念として便利です。ループインピーダンスを効率よく小さくするには、全体に占める割合の大きな要素のインダクタンスを削減する必要があります。

Elements of loop impedance

【図3-4-10】ループインピーダンスの要素

Equivalent circuit of decoupling circuit
【図3-4-11】デカップリング回路の等価回路

3-4-4. ループインピーダンスを小さくするには

高周波域のループインピーダンスを小さくするには、コンデンサのESLと、配線のインダクタンスの両者を削減します。上手に設計すると、全体のインダクタンスを、両面基板では数nH程度、多層基板では1nH以下にすることが可能です。図3-4-9の例では0.3nH程度になっています。

(1) ESLの小さいコンデンサを使う

このうちコンデンサのESLは、MLCCの場合は1個あたり0.5nH程度ですので、全体のインダクタンスのうちの大きな割合を占めることになります。これを削減するのに、第6章で紹介する低ESLのコンデンサが有効です。低ESLのコンデンサは、ムラタウェブサイトでもご紹介しています。

(2) 配線のインダクタンスを小さくする

配線やviaのインダクタンスを減らすには、「太く、短く」します。例えば図3-4-10の電流ループの面積が減るようにコンデンサやviaを配置します。さらに、パターンができるだけ太くなるようにします。ICの真下(基板の裏側)にコンデンサを配置すること、基板を薄くすることなどは、電流ループを小さくするのに多くの場合役立ちます。

(3) コンデンサやviaを並列にする

また、viaやコンデンサを複数、並列に使うと、インピーダンスを小さくできます。
配線やviaのインダクタンスは微小な量であり、相互インダクタンスも関与しますので、単純な見積もりは困難です。このためループインピーダンスの見積もりには電磁界シミュレータなどが使われています。図3-4-12には参考のためにインダクタンスの大まかな目安を示しましたが、配線の形状によってインダクタンスは数倍違うことがあります。また、わずか1mmの長さであっても、0.5nH程度のインダクタンスが発生する場合があり、無視できません。

Arrangement of capacitor to reduce loop impedance
【図3-4-12】ループインピーダンスを小さくするためのコンデンサの配置
(4) 反共振に注意

なお、複数のコンデンサを用いる場合はコンデンサ同士の共振を考慮する必要があります。一般に自己共振周波数の異なるコンデンサを並列に接続する場合は、反共振によりインピーダンスが高くなる周波数が出てきます(第6章で解説します)。
また、100MHz以上の高周波では、配線の持つインダクタンスの他に、静電容量を考慮する必要が出てきます。さらに高周波では、電源プレーンの共振やICのパッケージの影響も顕著となります。このような複雑な要素を考慮する場合にも、電磁界シミュレータが使われています。

3-4-5. 電源インピーダンスとノイズ対策の違い

先に述べたように、電源にフィルタを使うときのもう一つの重要な目的は、ノイズの出入りを遮断することです。通常、このフィルタにはコンデンサとインダクタが使われ、ローパスフィルタを形成しています。図3-4-2(b)には電源用の代表的なフィルタの構成を示しています。(フィルタの働きや構成については3章で詳しく紹介します)
コンデンサとインダクタはノイズ除去にはどちらも有効ですが、電源インピーダンスを抑制する観点では働きが違います。図3-4-13にT型フィルタの場合を示しますが、コンデンサはインピーダンスを下げる方向に、インダクタは上げる方向に働きます。したがって、コンデンサを使う場合は、図3-4-7、図3-4-8に示したように高性能なコンデンサを使うほど電源電圧の変動が収まり、放射ノイズも減ることが多いのですが、インダクタを使う場合は、ノイズは減っても電源電圧の変動が増えてしまう場合があり注意が必要です。このため、ICの電源端子のノイズ対策にインダクタを使う場合は、図3-4-13の(a)の場所には使わずに、(b)の場所に使います。また、組み合わせるコンデンサの静電容量を十分大きくします。

Effect and side effect for the purpose of filer components
【図3-4-13】フィルタの構成要素の目的に対する作用・副作用

3-4-6. ノイズ対策はノイズの経路で行う

デカップリングコンデンサで電源インピーダンスを下げ、電圧変動を抑制した場合でも、ノイズ除去効果でみると、十分な効果が見えない場合もあります。図3-4-14に先の実験でこのような場合を再現した例を示します。
図3-4-14では、(a)、(b)の2つのコンデンサの配置を示しています((a)は図3-4-7のMLCCありと同じものです)。どちらもICの電源端子から6mmの位置にデカップリングコンデンサを取り付けており、ループインピーダンスは同等と考えられます。電源電圧変動も同程度に収まっています。ところがノイズの放射は(a)よりも(b)の方が10dBも増大しています。
この違いの理由は、(a)はノイズの伝導する経路上にコンデンサを使っているのに対し、(b)はノイズの経路(ICとノイズを放射するアンテナの中間)から外れた場所にコンデンサを使っているためです。このように、ノイズを除去するにはフィルタをノイズの経路に沿って取り付ける必要があります。

Difference in noise suppression effect depending on where to attach a capacitor
【図3-4-14】コンデンサの取り付け場所によるノイズ対策効果の違い

3-4-7. ノイズの経路が不明な場合はどうすればよいか

図3-4-14の実験のようにあらかじめノイズの経路がわかっていれば、(a)の場所にコンデンサを取り付けるのは容易です。しかしながら通常は、ノイズの経路は不明です。また、図3-4-15(a)に示すように配線の両側がノイズの経路である場合もあります。このような場合にはどこにコンデンサを使うのが良いでしょうか。
このような場合には、図3-4-15(b)に示すように配線の両側にコンデンサを配置し、ノイズを閉じ込める手法があります。この手法はコンデンサの個数は増えるのですがノイズ障害のリスクを事前に減らすことができ、左右の配線とコンデンサが並列に接続されるため、ループインピーダンスも小さくなります。
また、図3-4-15(c)に示すようにコンデンサを通してから電源配線に接続する方法もあります。電源インピーダンスとノイズ除去の双方に有効ですが、ノイズを完全に除去するには不十分です。
最も性能が良いのは、図3-4-15(d)のように3端子コンデンサのような低ESLのコンデンサを介して電源配線に接続する方法です。電源インピーダンスとノイズ除去の双方で効果が見込めます。

Arrangement of capacitors when noise spreads to both sides

【図3-4-15】ノイズが両方に拡散するときのコンデンサの配置

なお、多層基板で電源プレーンを用いる場合は、配線のインダクタンスが小さいので電源インピーダンスを抑制するには有利です。ただし、電源端子を電源プレーンに直接接続すると、ノイズの拡散経路を絞り込みにくくなり、ノイズの流出を防ぐには不利といえます。多層基板でも図3-4-15(c)、図3-4-15 (d)のようにいったんコンデンサを経由して元電源(電源プレーン)に接続する方法は応用可能で、ノイズ対策効果を高めます。


「3-4. 電源インピーダンス」のチェックポイント

  • 電源品位の指標の一つに電源インピーダンスがある
    電源インピーダンスは低い方が好ましい
  • 低い電源インピーダンスは、電源電圧の変動を抑える
    これは、回路の安定動作、信号品位、ノイズ除去に有効である
  • 電源インピーダンスを下げるには、デカップリングコンデンサを効果的に使う
    コンデンサだけではなく、配線設計も重要である