EMI除去フィルタ(EMC・ノイズ対策)ノイズ対策 基礎講座【第1部】
第3章 ノイズ問題を複雑にする要因

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第3章

ノイズ問題を複雑にする要因

3-1. はじめに

第2章では、電磁ノイズが発生する仕組みについて述べ、その中で特にデジタル回路から発生するノイズについて詳しく紹介しました。
電子機器のノイズ障害に対処するには、ノイズの発生源だけではなく、伝達路やアンテナの性質も併せて理解する必要があります。この章はこの中の伝達路の説明にあたります。
これまでノイズの発生を(高調波の部分を除いて)比較的単純な表現で説明してきたのですが、ノイズの伝導や放射のしくみを説明するには、図3-1-1にあるように伝送理論や電磁気学、アンテナ理論などで使われる概念が必要になります。これらの言葉を理解しないと、ノイズ問題に対処することができません。
そこでこの章では、共振とダンピング、ノイズの伝導と反射、電源インピーダンスなどのノイズに関する重要なトピックスを紹介するなかで、これらの言葉を(できるだけ数式を使わずに)説明していきたいと思います。

Contents to be explained in Chapter 3
【図3-1-1】第3章で紹介する内容

3-2. 共振とダンピング

ノイズが発生したり、ノイズの誘導を受けるときに、重要な要素の一つに共振があります。回路の中に意図しない共振回路が含まれていると、共振周波数で極めて大きな電流や電圧が発生しますので、ノイズ障害が起きやすくなります。回路からできるだけ共振を排除することがノイズ対策では重要です。共振を抑えるために使われるのがダンピング抵抗です。この項では共振とダンピング抵抗について解説します。


3-2-1. 並列共振と直列共振

(1) LC共振回路

共振とは、回路にある誘導性リアクタンスと容量性リアクタンスがある周波数で相殺されることをいい、この周波数を共振周波数と呼びます。リアクタンス(インピーダンスの虚数成分)を発生する代表的な部品にインダクタ(コイル)とコンデンサがありますが、その他の部品や、単なる配線であっても、微小ながらリアクタンスを持っていますので、共振の要素になります。(EMCに関係する共振にはこの他にアンテナや平行平板、伝送線路の共振などもありますが、ここではインダクタとコンデンサによるLC共振に議論を絞ります)。


(2) 共振回路のインピーダンス

図3-2-1に示すように、共振回路には直列共振と並列共振があります。図3-2-2に計算例を示すように、直列共振では共振周波数で回路のインピーダンスが極小(理想的にはゼロ)に、並列共振では極大(理想的には∞)になります。


Series resonance and parallel resonance

【図3-2-1】直列共振と並列共振

Impedance of resonant circuit
(グラフは、リアクタンスを大きさで表し、対数軸で表現しています)

【図3-2-2】共振回路のインピーダンス

(3) リアクタンスが相殺されてゼロになる

これは図3-2-3に示すように、共振周波数でインダクタのリアクタンスとコンデンサのリアクタンスが同じ大きさとなり相殺されるので、全体としてはゼロになると考えると理解することができます。
図3-2-3は直列共振の場合で説明していますが、並列共振の場合は、リアクタンスをサセプタンス(アドミタンスの虚数成分)に置き換えて、共振周波数ではサセプタンスが相殺されてゼロになる。したがってインピーダンスが極大になると考えると理解が容易になると思います。


(4) 共振周波数

共振周波数ƒ0は、直列共振でも並列共振でも同様で、以下の式で見積もることができます。図3-2-2の例では、ƒ0は約50MHzになります。

Formula 3-2-1
(式3-2-1)
(5) 共振のQ

この共振の強さをQ(Quality factor)という指標で表します。Qが大きい方が共振が強いことを表しています。Qという指標は、コンデンサやインダクタの性能を表す指標としても使われています。Qの大きなコンデンサやインダクタを使うと、Qの大きな共振回路を作れるという関係があります。Qの見積もりは、3-2-5項で説明します。


(6) コンデンサやインダクタの自己共振

コンデンサやインダクタを高周波で使うときは、部品の持つ寄生成分により部品単独でもある周波数で共振を起こします。これは自己共振と呼ばれています。自己共振については第6章で詳しく述べます。


Impedance of resonant circuit

【図3-2-3】直列共振でインピーダンスが極小になる仕組み

3-2-2. 共振回路のEMC対策における問題点

(1) 共振回路は電圧を増幅する

電子回路の中に意図しない共振があると、共振周波数でインピーダンスが極端に変わり、電流や電圧が大きくなるので、ノイズ障害を引き起こす原因になります。
例えば図3-2-2(a)で計算した直列共振回路に外部から交流の信号を入力するときを考えます。図3-2-4のように、50Ωの出力インピーダンスを持つ信号発生器を使い、一定の電圧(振幅0.5V)の信号を加えると、共振が起きる50MHzでは、入力した信号よりも数倍大きな電圧がコンデンサに発生します。このときコンデンサやインダクタに発生する電圧は、入力信号のQ倍になっています。Qの見積もりは3-2-5項で説明しますが、図3-2-4の条件ではQ=6.3となります。


(2) 意図しなくても共振回路は作られてしまう

図3-2-4の実験では、コンデンサとインダクタで回路を組みましたが、ここで使った定数は通常のデジタル回路で普通に発生する値です。例えばデジタルICの入力端子には数pFの浮遊静電容量があります。また、配線は1mあたり1uH程度のインダクタンスを持っています。ですので、デジタルICの入力端子に(外部のセンサーを接続する、などで)1m程度のケーブルをつなぐと、このような共振回路が作られることになります。
このような個所に不用意な導体が接続されていると、ノイズを放射する原因になります。


Example of frequency characteristics of resonant circuit (calculated value)

【図3-2-4】共振回路の周波数特性の例(計算値)

(3) 入力電圧は小さくても内部は高電圧になっている

ところで図3-2-2(a)で示したように、直列共振回路は共振周波数でインピーダンスは極小になりますので、単純に考えると電圧が小さくなるように思えます。なぜ電圧が大きくなるのでしょうか。
図3-2-5に電圧の内訳を示します。共振回路の入り口(抵抗とインダクタの中間点)で電圧を見ると、たしかに電圧はごく小さくなります。ただしこのとき、インピーダンスが小さくなることで電流は大きくなっています。このため共振回路の内側では、加える電圧よりも大きな電圧が発生するわけです。
コンデンサに電圧が発生しているのに、共振回路の入り口では電圧がなくなるのはどうしてでしょうか。このときインダクタにもコンデンサとちょうど同じ大きさの電圧が発生しています。この電圧がコンデンサとは逆方向なので、共振回路の入り口では電圧がほとんど見えなくなります。


(4) 共振回路は場所によって電圧が全然違う

このように、回路が共振しているときは場所によって電圧が大きく違って見えます。ある箇所で電圧を測りノイズが減っているように見えても、全体のノイズを放射で観測すると、変わらなかったり、反対に増えていたりしますので、注意が必要です。
以上の例は直列共振回路の場合ですが、並列共振回路ではコンデンサやインダクタに流れる電流が、入力信号よりも大きくなります。この電流もノイズを発生させる原因となりますので、並列共振回路でも注意が必要です。


Voltage of different parts of resonant circuit (calculated value)

【図3-2-5】共振回路の各部の電圧(計算値)

3-2-3. デジタル回路に共振回路を接続すると

(1) 共振周波数はノイズが発生しやすくなる

先に述べたように共振回路にアンテナになるような導体が接続されていると、共振周波数の高電圧を拾い、強い放射を発生しますので、ノイズ発生の原因となります。また、反対にイミュニティの面では、共振周波数でノイズを受信しやすくなります。
このようなアンテナが付属した共振回路に、デジタル信号のように幅広い周波数を含む信号を接続すると、共振周波数に近い周波数の高調波が抽出され、強く放射されるようになります。図3-2-6, 図3-2-7に、一例として、10MHzのクロック信号に、これまで紹介してきた50MHzの直列共振回路を接続した時のパルス波形と放射の変化を観測した例を示します。ここではノイズ対策の例としてフェライトビーズを装着したときの波形と放射も併せて示しています。


(2) デジタル信号に共振回路をつなぐと

図3-2-6は、実験回路と電圧波形の測定結果を示しています。ノイズ発生源となるデジタルICには74AC00を用いています。このICの出力に、50MHzの共振周波数をもつ直列共振回路を接続しています。波形を観測すると、10MHzのデジタルパルスに強いリンギングが表れ、パルス波形が大きく歪んでいることがわかります。これは、10MHzの信号に含まれる高調波のうち、50MHzとなる5次高調波だけが抽出されたものと考えることができます。(リンギングの周波数を観測すると、50MHzになっています)


(3) フェライトビーズを使ってダンピング

後に述べますが、このような共振を抑制するにはダンピング抵抗やフェライトビーズなどが有効です。図3-2-6には、フェライトビーズを装着したときの波形を示しています。共振が抑制され、本来のパルス波形に戻されていることがわかります。


(4) ノイズの放射で共振を確認

図3-2-7は、ノイズの放射を観測した結果です。3m法で電界強度を測定しています。参考としてアンテナの無いときの測定結果も示していますが、このようにデジタルICと共振回路だけのときはノイズの放射がほとんどないことを確認しています。図の下の方に見える線はスペクトラムアナライザの暗雑音レベルを示しています。


(5) LC共振とアンテナ共振

図3-2-7(a)は、共振回路にノイズを放射するアンテナとして15cmのワイヤを接続したときを示しています。LC共振回路の共振周波数である50MHzで、強い放射が観測されています。この他に500MHzでノイズが観測されていますが、これはアンテナとして取り付けた15cmのワイヤが1/4波長アンテナとして働く周波数です。すなわち、図3-2-7(a)ではLCの共振と併せてアンテナの共振の効果も観測されていると考えられます。アンテナの共振については後の章で紹介します。
図3-2-7(b)は、フェライトビーズを装着したときの測定結果です。ノイズの放射が効果的に抑制されていることがわかります。

Test circuit with a resonant circuit and antenna connected to a digital signal
【図3-2-6】デジタル信号に共振回路とアンテナを接続した実験回路
Noise emission with a resonant circuit and antenna connected to a digital signal

【図3-2-7】デジタル信号に共振回路とアンテナを接続したときのノイズの放射

3-2-4. インダクタやコンデンサが無くても共振が発生する例

(1) デジタル信号線が作る共振回路

図3-2-6, 図3-2-7では、共振の効果を強調して測定するために、コンデンサとインダクタでLC共振回路を作り、実験しましたが、現実の回路ではこのような部品がなくとも共振が起きることがあります。
例えばデジタル信号の配線では、図3-2-8に示すように、ドライバとレシーバをつなぐ配線はインダクタンスを持っています。また、信号を受けるレシーバの入力端子には静電容量があります。これらの要素によって、2-4-7項で述べたようにデジタル回路には共振回路が作られていると考えることができます。


(2) 共振周波数が下がると問題が顕在化しやすい

デジタル信号の配線がごく短い場合には、これらの要素による共振周波数は数100MHz以上と極めて高いので、影響は無視することができます。ところが両面基板を使ったり、配線を伸ばしてインダクタンスが大きくなったり、レシーバが多数接続されて静電容量が大きくなると、共振周波数が下がりパルス波形に歪が出たり、ノイズの放射が増えるなどの影響が無視できなくなります。
このような場合に備えて、フェライトビーズなどの共振抑制部品を使用できるように、3-2-6項に述べるようにドライバの信号出力部にラウンドを用意しておくと、後々のノイズ対策が楽になります。

Resonant circuit model by the wiring of digital signal

【図3-2-8】デジタル信号の配線による共振回路のモデル

(3) 電源ケーブルやプリント基板も共振の要素になる

デジタル信号以外でも、回路を構成する様々な要素が回路図には記載のないコンデンサやインダクタとして働き、共振を発生させることがありますので、注意が必要です。図3-2-9に例を示します。

Example of resonance

【図3-2-9】共振の例

3-2-5. 抵抗やフェライトビーズによるダンピング

(1) 直列共振回路のダンピング

共振回路に抵抗を加えると、共振を抑えることができます。この抵抗をダンピング抵抗と呼びます。図3-2-10に、ダンピング抵抗(図でRと表示)を加える例を示します。
図3-2-10(a)のように直列共振に直列にダンピング抵抗を使ったときの共振器のQは、以下のようになります [参考文献 1]

Formula 3-2-2
(式3-2-2)

この式に、例えば図3-2-4の実験で用いた部品定数を代入してみます。抵抗Rの部分に信号源の出力インピーダンス50Ωを用いるとQ=6.3となり、共振が強いことがわかります。抵抗Rが大きいほど、Qは小さく、共振は弱くなりますので、ここに50Ωより大きな抵抗を追加することで、共振を弱めることができることがわかります。
一般に共振を抑えるには、Qが1以下になるように抵抗を選びます。


(2) 直列共振回路の非振動条件

デジタル信号のようなパルス波形でオーバーシュートやアンダーシュート、リンギングなどを無くするには、LCR直列回路の非振動条件を満足するように

Formula 3-2-3
(式3-2-3)

となる抵抗を使います。これは式(2)ではQが0.5以下になる場合に相当します。


(3) 並列共振回路のダンピング

一方、図3-2-10(b)のように並列共振に並列にダンピング抵抗を使ったときの共振器のQは、以下のようになります。

Formula 3-2-4
(式3-2-4)

この場合は抵抗が小さいほど、共振は弱くなります。


Example of damping by a resistor

【図3-2-10】抵抗によるダンピングの例

3-2-6. デジタル信号のダンピング

(1) ダンピング抵抗とインピーダンス整合抵抗

図3-2-8に示したデジタル回路の配線による共振を防ぐためにダンピング抵抗を使うときは、通常は図3-2-11のように配線に直列に使います。このとき抵抗が大きいほど、共振を抑制する効果は高いのですが、あまり強くダンピングすると信号が減衰したり、パルス波形の立ち上がりが遅くなるなどの副作用が生じます。ノイズ対策と回路動作の兼ね合いをみて適当な大きさの抵抗を選びます。なお、配線が伝送線路とみなせるときは、次節で紹介するインピーダンス整合の概念を使うと、この作業をよりスマートに行うことができます。


(2) フェライトビーズによるダンピング

EMC対策では、2-4-7項や図3-2-6、図3-2-7に例を示したようにフェライトビーズによるダンピングも多く用いられています。この場合は、共振周波数でフェライトビーズの抵抗(R)成分が、式(2)を満足するように部品を選びます。フェライトビーズはインピーダンスに周波数特性を持っているので、信号波形への影響を最小にとどめながら共振を抑えることができます。また、抵抗に比べて大きな直流電流を流すことができます。

Damping of digital signal
【図3-2-11】デジタル信号のダンピング

「3-2. 共振とダンピング」のチェックポイント

  • 共振には直列共振と並列共振がある
  • 共振周波数で、直列共振はインピーダンスが極小(理想的にはゼロ)になる
  • 共振周波数で、並列共振はインピーダンスが極大(理想的には∞)になる
  • 共振周波数では電圧や電流が極大となるので、ノイズが問題になりやすい
  • 共振を抑えるにはダンピング抵抗やフェライトビーズを使う