ノイズ対策部品/EMI除去フィルタ

第4章

空間伝導と対策

4-1. はじめに

ここまでの章では主にノイズの発生と伝導について紹介してきましたが、電磁ノイズ障害の多くは電波を介して空間を伝わります。この章ではノイズの空間伝導について紹介します。
ノイズの空間伝導には、同一の電子機器の内部で回路同士が干渉する場合のように、比較的近距離の問題と、いったん電波になって放射し隣家の電子機器に障害を与える場合ように、比較的遠距離の問題の2種類が考えられます。この2つは距離に応じて障害が減じる程度が違い、後者の方がより遠方まで影響が及びます。ノイズ規制で不要輻射が規制されているのは多くの場合後者ですが、電子機器の設計では前者も重要です。
この章では近距離の問題である回路間の干渉をとりあげた後で、遠距離の問題であるアンテナ理論と、これを遮蔽するシールドについて紹介します。なお、ここでは説明を平易にするために、独自の解釈から現象を極端に単純化して説明している部分があります。正確で詳細な理論は、専門書をご参照ください。[参考文献 1,2,3,4]
この章の内容は、図1のように伝達路からアンテナの部分の説明にあたります。先の章とおなじく、説明の中で少しずつ専門的な言葉や概念の紹介をしていきます。

Contents to be explained in Chapter 4
【図4-1-1】第4章で紹介する内容

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4-2. ノイズの空間伝導と対策手法

第1章で紹介したようにノイズの伝導には導体伝導と空間伝導があります。これまで主に導体伝導について説明してきましたが、ここでは空間伝導と、それを遮断するノイズ対策について説明します。

4-2-1. ノイズの空間伝導モデルとシールド

(1) ノイズの空間伝導

ノイズが空間を伝導する主な仕組みには、図4-2-1に示すように

  1. (i)静電誘導
  2. (ii)電磁誘導
  3. (iii)電波の放射と受信

などが考えられます。図4-2-1では一例として、電子機器の中でノイズが空間伝導し、最終的にはケーブルから放射する様子を示しています。この3つの空間伝導の仕組みは、ノイズが電子機器の外部に伝導する場合や、ノイズを受信する場合も同様です。

Model of spatial noise conduction

【図4-2-1】ノイズの空間伝導のモデル

(2) シールド

ノイズの空間伝導を空中で遮断するには、図4-2-2に示すように対象物をシールドします。シールドとは金属などの良導体(もしくは磁性体)で対象物を覆うことを指します。シールドはノイズ源側、受信側の双方で可能です。図4-2-2では対象の回路を個別にシールドしていますが、電子機器全体を覆う場合や、部屋全体を覆う場合(シールドルームといいます)もあります。
シールドは、ノイズの誘導のモデルに応じて考え方に少し違いがありますが、実施形態はほとんど同一です。極端な条件で無ければ、数MHz以上の周波数域では薄い金属箔で十分大きな効果が得られるからです。また、多くの場合、グラウンドへの接続が必要で、このグラウンドの良否で効果が大きく変わります。

Shield

【図4-2-2】シールド

 

4-2-2. 静電誘導

(1) 電界がノイズを伝える

一般に電圧を持った物体は、周囲に電界を作ります。この電界により図4-2-3のように周囲の回路が影響を受ける現象を、静電誘導と呼びます。これを回路図で表すと、図4-2-3(b)に示すように、ノイズ源から被害者に対して浮遊静電容量CSが作られ、電流経路が作られていることになります。
静電誘導によるノイズの電圧V2は、ノイズ源の電圧Vnが大きいほど、浮遊静電容量CSが大きいほど大きくなります。また、浮遊静電容量CSは、ノイズ源と被害者の間の距離が小さいほど、ノイズ源や被害者のサイズが大きいほど、大きくなります。

Electrostatic induction

【図4-2-3】静電誘導

 

(2) 高インピーダンス回路はノイズを受けやすい

多くの場合、浮遊静電容量CSの大きさは数pF以下のごく微小な量です。例えば、図4-2-3(a)で示した線間の浮遊静電容量は、間隔が10mm、並行長が100mm、直径が1mmの細い線だとすると、約1pFとなります(基板の誘電率を無視した場合)。
このため図4-2-3(b)の回路全体に対するCSのインピーダンスの割合は比較的大きくなります。ノイズの被害を受ける回路のインピーダンスZ2をこれよりも小さくできれば、分圧により誘導電圧V2を小さくすることができます。一般に高インピーダンスの回路がノイズを拾いやすい(低インピーダンスの回路は拾いにくい)と言われる理由の一つはこのためです。
なお、一般に静電誘導とは、電界によるノイズの誘導全般を指します。ここでは回路モデルを単純化するために、図4-2-3のように線間の浮遊静電容量だけに着目しています。

(3) 静電誘導を減らすには

静電誘導を減らすには、一般に

  1. (i)距離を離す(浮遊静電容量が小さくなる)
  2. (ii)配線などの大きさを小さくする
    並行配線部分を短くする(浮遊静電容量が小さくなる)
  3. (iii)静電シールドをする(ノイズ源、被害者のいずれかを金属板で覆い、この金属板を接地する)
  4. (iv)ノイズ源の電圧を下げる(EMI除去フィルタを使う)
  5. (v)受信部のインピーダンスや感度を下げる(EMI除去フィルタを使う)

などの対策が行われます。この中の静電シールドについて次に説明します。

4-2-3. 静電シールド

静電シールドの例を図4-2-4に示します。グラウンドに接続した金属板をノイズ源と被害者の間におき、電界の影響を遮断します。

Electrostatic shield

【図4-2-4】静電シールド

静電シールドは、図4-2-4(b)に示すように、ノイズの電流をグラウンドにバイパスし、ノイズの被害者への影響を減らしています。このため必ず接地(グラウンドに接続すること)が必要です。高周波のノイズのシールドでは必ずしも大地に接続する必要は無く、筺体や回路のグラウンドに接続すればよいのですが、ノイズの電流をスムーズに流すために、グラウンドはできるだけ低インピーダンスとします。
なお、一般に静電シールドは静電界に対するシールドを指します。図4-2-4のように配線近傍で高周波ノイズを遮断する場合には、後述の電磁シールドの作用が加わっています。
ノイズ源側、被害者側の双方でシールドは可能です。被害者側でシールドする場合は、被害を受ける回路のグラウンドに接続します。

4-2-4. 電磁誘導

(1) 磁界がノイズを伝える

一般に配線に電流を流すと、周囲に磁界を作ります。この磁界によって図4-2-5のように周囲の回路が影響を受ける現象を、電磁誘導と呼びます。回路的には、図4-2-5(b)に示すように、2つの回路の間の相互インダクタンスMによって、被害者の回路に誘導電圧が発生すると考えることができます。図で、Mがつながっているインダクタ(コイル)は特定の部品を指すのではなく、回路の配線などが作る電流ループのインダクタンスを表しています。
電磁誘導によるノイズの電圧V2は、静電誘導の場合と同様に、ノイズ源の電流Inが大きいほど、相互インダクタンスMが大きいほど、大きくなります。また、相互インダクタンスMは、ノイズ源と被害者の間の距離が小さいほど、電流が並行している部分が多いほど、大きくなります。

(2) 電流ループが問題

相互インダクタンスMの大きさは、電流ループ全体を考慮する必要があります。たとえば先の浮遊静電容量の例で用いた、間隔が10mm、並行長が100mm、直径が1mmの細い線の場合、該当箇所だけの相互インダクタンスは約40nHです。
ところが、電流には必ず帰路(グラウンドなど)が必要です。この帰路が少し遠回りになっている例として、双方の線の下100mmの位置にグラウンドがあるとすると、相互インダクタンスは100nH程度に増大します。(この見積もりには線の両端の回路は含めていませんので、これを含めるとさらに増大します)
この反対に電流の帰路が最短になっている例として、線の下1mmにグラウンドプレーンがある場合には、相互インダクタンスは0.5nH程度に減少します。
このように相互インダクタンスは、電流の帰路により値が変わってきます。相互インダクタンスを小さくするには、配線の両端の回路やグラウンドなどが作る電流ループ全体の面積を小さくする必要があります。

Electromagnetic induction

【図4-2-5】電磁誘導

(3) 電磁誘導を減らすには

電磁誘導を減らすには、一般に

  1. (i)距離を離す(相互インダクタンスが小さくなる)
  2. (ii)配線などの電流ループ面積を小さくする
    電流ループ同士は直交させる(相互インダクタンスが小さくなる)
  3. (iii)電磁シールドをする(ノイズ源、被害者のいずれかを金属板で覆う)
  4. (iv)ノイズ源の電流を下げる
  5. (v)受信部にEMI除去フィルタをつける(バイパスコンデンサ、フェライトビーズなど)

などの対策が行われます。この中の電磁シールドについて次に説明します。

4-2-5. 電磁シールド

(1) 磁性体でなくても磁界を止めることができる

電磁シールドの例を図4-2-6に示します。金属板をノイズ源と被害者の間におき、金属板を貫通する磁束を遮断します。この磁束の遮断効果は主に金属板に流れる渦電流によるので、金属板が磁性体である必要はありませんが、電流が流れる必要があります。すなわち、金属板に隙間などがあると、シールド効果を著しく損ないます。
なお、直流や低周波の磁界は電磁シールドでは遮断できません。このような場合には後述の磁気シールドを使います。

(2) ほとんどの場合、グラウンドに接続

電磁シールドでは、図4-2-6(b)の回路に示すように、原理的には接地は必要ありません。ただし、ケーブルをシールドするときは両端をグラウンドに接続します。これはシールド内面を電流の帰路として使うことで、電流ループを極小とする効果があるからです。例えば理想的なシールドケーブルに同軸ケーブルがありますが、信号電流の帰路に外部導体が使われています。こうすることで、外部磁界に対する電流ループの面積は、ほぼゼロになっています。
なお、ノイズ対策では多くの場合、電磁誘導と静電誘導の両者が混在しています。電磁シールドの金属板をグラウンドに接続すると、静電シールドを兼ねることができます。このため多くの場合、電磁シールドであってもグラウンドに接続されます。

Electromagnetic shield

【図4-2-6】電磁シールド

 

4-2-6. 電波の放射と受信

(1) 距離が遠くなると、電波がノイズを伝える

空間を通じたノイズの伝搬には、静電誘導や電磁誘導のほかに、図4-2-7のようにいったん電波となって空間を飛来し、他の回路に干渉する場合もあります。
静電誘導や電磁誘導は比較的近距離で起こる現象で、距離の2乗や3乗に反比例して影響は小さくなります。このため回路同士を離すことがとても効果的です。電波を介するときも距離に応じて干渉は減りますが、この減少の度合いが少なく、比較的遠距離まで届きます。
すなわち、空間伝導は、近距離では電界・磁界を介した誘導が主であり、遠距離では電波を介した誘導が主である、ということができます。

(2) 近傍界と遠方界

この現象は、ノイズを放射するアンテナの周りの電磁界構造に原因があります。アンテナに比較的近い部分を近傍界、遠い部分を遠方界といいます。図4-2-7に示すようにノイズ源からの距離がλ/2πとなる場所を目安に切り替わります。
この遷移距離は周波数に反比例します。10MHzでは5mと遠いのですが、100MHzでは50cm、1GHzでは5cmほどになります。一般の電子機器の内部では、1GHzを超える周波数域(たとえば携帯電話や無線LANで使われる周波数域)で、電波による誘導を考慮する必要が出てきます。

(3) 波動インピーダンス

ノイズが電波として空中を伝わるときの特徴は、電界と磁界が一定の比率(377Ω)を持つことです。この電界と磁界の比率を波動インピーダンスといいます。近傍界では電界、磁界のどちらか一方にかたよる場合があり、波動インピーダンスが極端に大きい場所、小さい場所ができます。これによりシールドの効果が影響されます。遠方界では波動インピーダンスが一定ですので、シールド効果は安定します。

(4) アンテナ

電波を飛ばす、もしくは受信する回路はアンテナと呼ばれます。ノイズ対策では、できるだけ電波を出さない、受信しない回路を作る必要があります。すなわち、効率のよいアンテナを作らないように回路を設計します。近傍界、遠方界、アンテナなどについては節を改めて解説します。

(5) シールドには、電磁シールドを使う

電波のシールドは、先の電磁シールドで行います。すなわち電磁シールドは、高周波の磁界、電界の双方を遮断します。電磁シールドの効果についても、節を改めて解説します。

Transition between near field and far field

【図4-2-7】近傍界と遠方界の切り替わり

 

4-2-7. 磁気シールド

直流磁界AC電源など、ごく低周波の磁界に対しては、電磁シールドの効果はありません。このような場合には磁気シールドが有効です。磁気シールドは図4-2-8に示すように対象物を磁性体で囲い、磁力線を磁性体内に誘導しバイパスさせることで、対象物の周辺の磁界を減らすものです。バイパス効果を高めるには透磁率の大きな材料を使い、厚くすることが必要です。

Magnetic shield (conceptual diagram)

【図4-2-8】磁気シールド(概念図)

 

4-2-8. シールドを軽くするには?

(1) 完全なシールドは難しい

空間伝導を完全に遮断(目安として40dB以上)するには、図4-2-9に示すように対象物の外周を全てシールド材で覆う必要があります。ただしシールドは大型の部品であり、重量やコストが問題になります。

Shield configuration

【図4-2-9】シールドの構成

シールドは図4-2-3、図4-2-5に示したように、中間にシールド板を置いたり、極端な場合は問題の配線の左右にグラウンドの線を引いたり(ガードトレースと呼ばれます)するだけでもある程度の効果は得られます。ただし、このような不完全なシールドでは、せいぜい10dB程度の効果しか望めません。

(2) 導体伝導の部分でノイズを除去する

回路がノイズを放射したり、ノイズを受信するためにはアンテナが必要です。このアンテナと回路の中間に、図4-2-10のようにEMI除去フィルタを挿入してノイズを除去できれば、ノイズが導体伝導している部分で除去できますので、シールドは不要になります。

Suppression of spatial conduction using EMI suppression filters

【図4-2-10】EMI除去フィルタを使った空間伝導の抑制

一般にEMI除去フィルタにはコンデンサやインダクタを使ったローパスフィルタが使われますが、ノイズの誘導機構に応じて、ノイズ除去に有利な部品が違う場合があります。

(3) 静電誘導に対するフィルタ

例えば、図4-2-11に示す静電誘導の場合、ノイズを仲介する浮遊静電容量CSの静電容量が小さいため、回路のインピーダンスが極めて高いことが想定されます。このような場合にはフェライトビーズのようなインピーダンス素子よりもバイパスコンデンサの方が有利と考えられます。

Example of filter configuration effective for electrostatic induction

【図4-2-11】静電誘導に有効なフィルタ構成の例

 

(4) 電磁誘導に対するフィルタ

また、図4-2-12に示す電磁誘導の場合は、ノイズ源では電流を減らすことが、ノイズの受信部では電圧を減らすことが必要です。電流を減らすにはインピーダンス素子が有利であり、電圧を減らすにはバイパスコンデンサが有利と考えられます。
以上の説明はごく定性的なもので、インピーダンスの高低は周波数によって違ってくるのですが、ノイズの誘導機構を念頭において回路を選ぶことで効率よくノイズ対策を行うことができます。

Example of circuit configuration effective for electromagnetic induction

【図4-2-12】電磁誘導に有効な回路構成の例


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「4-2. ノイズの空間伝導と対策手法」のチェックポイント

  • 電圧が元になり静電誘導が起きる
  • 電流が元になり電磁誘導が起きる
  • 比較的遠距離では電波を介した誘導が起きる
  • 以上の誘導を遮断するにはシールドが使われる
  • シールドなしに誘導を遮断するには導体伝導の部分でEMI除去フィルタを使う